大切な本㉒「ハンチバック」

車いすの上で飛翔する女性たち

市川沙央さんの芥川賞受賞のニュースは痛快な出来事だったけれど、障害当事者であることが殊更フューチャーされればされるほど、純粋に文学作品としての評価だけでは終われないのかというモヤモヤもつきまとう。市川さん自身も「読書バリアフリー」を訴えたり重度障害をもつ者として会見にも堂々と向き合っておられたし、事実をとりあげることは何ら悪いことではない。実際、作品は圧倒的なパワーや読み応えに満ちていて「下駄をはかせ」た受賞ではないことは誰の目にも明らかだったと思う。

生きづらさやさまざまな困難を抱える自分ではあるけれど、今のところ自由に動かせ行きたいところに行きそれなりに自在に操れるからだを持っている。車いすや人工呼吸器などに頼らざるを得ないような、身体的な疾患や障害を持つ人たちからみたら十分に社会的強者となるのもしれない。

頭はクリア、思考は聡明かつ明晰にはたらく一方で手足や呼吸が思うようにならないというのは当事者でしか分かりえない苦しみがきっとあるのだと思う。健やかな状態の時とはかける時間や労力が何倍にも違ってくれば、心の疲弊度も段違いだろう。そんな計り知れない困難の中でもユーモアや信念を忘れず生き抜く女性たちは掛け値なく美しく眩しい。海老原宏美さんや安積遊歩さんの本を読むときれいごとでなく、本当にそう感じられる。

 押富俊恵さんは同地域で活動されていたのにご存命の時には存じ上げず、もうあと2年くらい早く知っていたら…ぜひお会いしてみたかった。本の中では前職場でお世話になった方がたくさん登場していて、その無念が心に残る。

 障害を「乗り超えて」なんて感動ポルノはもう時代遅れ。障害があることすら強みに変えて、自分を愛して生きていく。

 

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