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おそらくインドの神様に助けてもらった話

「三枚のおふだ」というお話をご存知だろうか。

むかしむかし、お寺の小僧さんがお使いから戻る途中鬼婆に追いかけられ、事前に和尚さんに渡されたおふだで鬼婆から逃れ、何とか無事に帰ってくる話だ。

むかしむかし、私は某東南アジアの国で働いていた。
詳しくは言えないので割愛するが、様々な災難があり、上司との関係も悪化し、また、その上司にとある理由から私は命の危険さえ感じていた。
「このままではヤバい、何とかして日本に帰りたい」と気持ちだけが消耗する毎日だったが、状況はビザがあと少しで更新手続きに入る、そして帰りの航空便など到底取ってもらえない、要はその上司に「袋のネズミ」と化した私の命運は握られた状態で、鬱々と過ごす日々を送っていた。

そんな自分を励ますために休みの日には決まってお気に入りの場所に行く。そこはモスクがあり、仏寺があり、そしてヒンズーの寺院が固まって建っている場所で、
(今思うと頼れるのはもう神様のみという切羽詰まった心境が如実に表れている笑)不思議ととても落ち着き平和な気持ちになれた。
実際、モスクと仏寺は見学可能だったので、時間さえあれば入っていたのだが、ヒンズーの寺院は何となく信者のみのような雰囲気があったので入ったことはなかった。

が、とある日、そのヒンズー寺院前を通った時、
私の前を歩いていた華僑のおばちゃんが門の前でさっと合掌をして通った。
明らかに信者ではないそのおばちゃんの、他の宗教を敬う姿勢に「ああ、そうだよな、大事だよな、こういうこと。」と感動し、真似して私も門の前で合掌。
そしてそのまま通り過ぎようとした時、不意に誰かが英語で私を呼び止めた。
門の内側でのんびりくつろいでるロンジ―をはいたインド人のおっちゃんだった。
「おねえちゃん、せっかくだから入ってき!これからお祈りが始まるさかい。」
「でも自分、信者じゃないんすよ。」
「かめへん(x2)!!いいから入り!」
おっちゃん、ニコニコして手招き。
好奇心からこんなチャンスはそうそうないと思い立ち、
「えらいすんません、じゃあせっかくなんでおじゃまさしてもらいます。」
とおっちゃんの申し出を受けることに。
ささくれだった心に、誰かが仲間に入れてくれるという優しさが沁みた。

さて入ってみると、今まで知らなかったことがたくさん出てくる。
まず寺院に入る前に、手の他に足を洗うだとか、先にお布施を払って、お祈りに捧げる供物が入った袋を受け取ったり。
いざ、お祈りが始まると、明らかに挙動不審な非信者の自分に、隣のおばちゃんが、やり方や順序を逐一教えてくれた。
それまで、遠い存在だったヒンズー教の祈りの儀式というコアなことに直に参加させてもらえて、異文化に触れるスリル、知らないことを体験している高揚感が半端なかった。

お祈りが終わった後、葉っぱなどが入った袋が渡された。
それをただきょとんと持った私に、お祈りの間世話を焼いてくれたおばちゃんが、
「この葉っぱね、家の庭とか植木に撒いとけばいいのよ。」と教えてくれた。

その時私は思い出した!
そう、「三枚のおふだ」を。

そして閃いた。
「これ(葉っぱ)身代わりに使えるんじゃね?」

そこから私は滞在しているホテルに帰り、早々に不審者臭撒き散らしながら敷地内や部屋の植物に葉っぱを撒きながら
「お願いします。私の身代わりになってください。日本に無事に帰れますように」と藁にも縋る思いで強くお祈りしまくった。

まあ、ここまででもう気休めじゃんとハタから見てみれば自分でもそう思うが、なんとその3日後、本当に奇跡が起きた。

あれほど帰らせてくれなかった上司が、いきなり私に解雇宣言をし、便を手配したので2日後にここを離れるようにと言い渡してきたのだ。
しかも会社都合の解雇だったため、まだしばらく残っていた契約期間分の給与の支払いも約束され、あまりの展開に虚を突かれたほどだった。

帰国日当日、飛行機に乗って日本に到着するまでは、あの上司が気が変わって、お話の鬼婆の如く追ってきて連れ戻されるのではないかと空港行きのタクシーの中でも、空港の搭乗ゲートでも何度も後ろを振り返らずにはいられなかった(マジでそんな恐ろしさを持ち合わせてる人間だった)。

何とか無事に日本に帰ってきたときは半ば呆然としながらも心から安堵し、あのヒンズー寺院の神様と声をかけてくれたおっちゃんにめちゃくちゃ感謝した。

あれから随分経った。
また某国へ行く機会が有れば絶対に御礼参りしよう。
もう顔も覚えて無いけど、あのインド人のおっちゃん、元気かな?

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