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いい距離感

とある会社で働いていたころ、「海外にあるHQ(本社)に送るから、アんケートまとめて英語で資料を作るように」と指示が出た。

早速翻訳と資料作りに取り掛かっていると、一つの文章につまずく。

「お客様ともいい距離感で過ごせた。」

「いい距離感」とは?
ダメもとでGoogle先生に確認を取ると、案の定「Good distance」と出てくる。
...まんまやんけ...(わかってたよ!わかってたけど!!!)

何かこれに当てはまる妥当なフレーズはないものか。
そういう時は同僚のイタリア人に聞いてみる。彼は英語はもちろん日本語は私よりも堪能なので期待大だ。

「この場合、’Good tight bond’だね。」
(簡単に訳すとがっしりくっついた強固な絆)

...あれ?いやいやいや、ちょい待ち、これじゃ距離近すぎじゃね?

そこで気が付いたのだ。
「いい距離感」って言葉としては表面的にあまりにも曖昧すぎるのだ。
そして中身の意味はそれぞれ使う人のバックグラウンドに殆ど依存している。

日本人がこの言葉からくみ取るのは、「近すぎず、かといって遠すぎずが心地いい」
しかしイタリア人の場合、「近ければ近いほど強固でいい」なのだ。

めちゃくちゃ日本語が堪能でスラングも使いこなし、ふるまいもほとんど日本ネイティブな彼に一番イタリア人を感じた瞬間であった。

もしこれが同じ欧米圏といえども、ドイツ人やイギリス人であればおそらく違う表現が出てくることだろう。そしてアメリカ人でも違ってきそうだ。

「いい」は国や文化によって一つ一つ異なり、必ずしも共通の感覚があるわけではないということを気づかされた。

さて、結局HQにはどうレポートしたかって?

―もちろん「Good distance」でお茶を濁しましたとさ。

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