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政治と金 自民党派閥の政治資金問題 悪者退治から問題解決へ

自民党の派閥が不正な会計処理をしていたことで、相変わらず政治と金の問題が何一つ解説していないことが明らかになった。
そして、これまで通り、マスコミやSNSでは悪者探しをして盛り上がり、しばらくすれば、別の話題へと関心が移っていくだろう。

そうした流れは、2019年参議院選挙において広島選挙区の河井夫妻選挙違反事件を思い出すとわかる。大規模な買収を行ったことが大きく取り上げられたが、彼らが断罪されただけで、選挙における金の問題は全く解決されないままで終わった。

今回も、安倍派と二階派の問題に矮小化され、何人かの悪者があぶり出されるという構図で、政治と金の本質的な問題は解決されない、ということが予想される

さらに、マスコミが政治家に都合のよいようにコミットすることもありうる。
ある記事を見ると、政治には金がかかるという前提で、「どうしてもお金がかかる、ということであれば寄付・献金・パーティではなく、政党交付金を増やす公費で雇える秘書の数を増やすなど、ルールを変えることが有効だ。」という発言が、もっともらしく書かれている。

政党交付金に関しては、2021年には総額で317億7336万円が税金から支払われている。
議員秘書は、議員1名につき3名。秘書給与は総額で、2100万円。
その上、議員には、年間で、文書通信費1200万円と立法事務費780万円が割り当てられており、この二つは支出に関する公開義務がない

給与以外に、年間4080万円の税金が713人の国会議員(衆議院465名、参議院248人)に使われているにもかかわらず、上の記事では、さらに増額する提案がなされている。
その結果、不正を糺すという口実で政治改革なるものが行われ、議員にとって都合のいい方向に制度が改変される恐れさえある
そうしたことを避けるためにも、感情に訴えるのではなく、事実に基づいた議論が必要になる。

国会議員の仕事

参議院のHPには5つの項目が挙げられている。
(1)法律案を国会に提出し、立法に主体的にかかわる。
(2)会議での質疑や文書による質問、国政調査などを 通じて、行政を監視し、コントロールする。
(3)法律の制定、予算の議決、条約の承認、内閣総理 大臣の指名など、国政の重要事項に関する国会の 意思決定に参加する。
(4)選挙や国民からの請願・陳情などを通じて国民の 意思をくみ取り、国政に反映させる。
(5)外国の政治経済情勢を調査し、国政に反映させる。https://www.sangiin.go.jp/japanese/taiken/bochou/pdf/student/202305-16-17.pdf

ただし、衆議院のHPを見ると、衆議院法制局の職務として、次の項目が記されている。
①衆議院議員が提案者になる法律案(いわゆる議員立法)の立案や、②法律案に対する修正案の立案のほか、③それらの法律案・修正案の国会審議の際の答弁の補佐、④さらにはその他一切の法律問題に関するアドバイスなどです。
これを見ると、国会議員のメインの職務である「法律を作る仕事」には補佐役があり、議員がどの程度主体的に法律を作っているのかどうか、不明になってくる。

何に金がかかるのか?

政治に金がかかるとしたら、何に使われるのだろう

最初に引用した記事では、金がかかる一つの理由として、秘書に代表されるスタッフが挙げられている。
「例えば秘書の給与問題がある。実際に地方の選挙区と東京に事務所を持つような国会議員の場合、5人~10人のスタッフを抱えなければが取れないが、公費で雇える秘書は3人までだ。」

要するに複数の事務所を持つ必要があり、その目的は、地元と円滑にコミュニケーションを取ること。
これは、参議院のHPに上がっている職務内容の4番「国民からの請願・陳情などを通じて国民の 意思をくみ取り、国政に反映させる。」の実践ということになる。
しかし、地元や国民という言葉は非常に漠然としているので、現実に政治家がコンタクトを取るのがどのような人々なのか、明確にはなっていない。

こうした点をより具体的に見ていくと、議員の事務所→後援会→選挙のためという構図が浮かんでくる。
そのために、次のような発言も見られる。
「国会議員たちは、議席を死守するために、さまざまな支援団体とつながる地元の都道府県議や市区町村議らの支援をしなければならない。各国会議員の掲げる政策より、お金をどれだけ配るかが、議席を守るポイントの一つになっているのではないか。」

要するに、「政治に金がかかる」としたら、「選挙に当選するため」だということになる。
その際、買収するための金はもちろん不正な使用であり、罰せさられる。しかし、後援会や各種の会合のために使われる金は合法であり、問題になることはない。
「国民からの請願・陳情」を受け付けるという理由があるので、選挙に当然するためという批判は当たらないと主張することができる。

野党系の国会議員までもが” 地方に事務所を構えたり、人を雇ったりするとカネはかかる”」と言うとすれば、自民党だけではなく、他の政党の議員たちも同様の活動に金を使っていることになる。

金の流れの透明化

リクルート事件以来、政治と金の問題が大きな話題になることが度々あり、その度に改革が求められてきた。しかし、問題は残り続けている。
今回は、自民党の派閥の政治資金パーティーが問題になったために、そこにだけ焦点が当たり、「政治家個人への企業団体献金は禁止したのに、パーティー券の購入を認めるのは抜け道であろう」といった言葉になってしまう。

この一節を読み、あまり注意しなければ、企業団体献金が禁止されているように読めてしまう。しかし、「政治家個人への」という前提は、この記事が別の献金を問題にしていないことを逆説的に示している。
つまり、政党への企業献金は禁止されていない。それは隠されて行われるのではなく、例えば、自民党への大手献金リストが新聞に公表されることもある。

自民党への献金額が大きい上場企業」トップ26社

「自民党への献金が多い」業界・宗教団体など最新14団体

経団連は毎年自民党に約24億円の政治献金を行っており、会長はその事実を決して隠してはいない。

この記事には、「ネットの怒り沸騰」という題名が付けられている。しかし、政治献金は法律で認められた行為であり、決して批難することではない。
「怒り沸騰」という感情論で政治と金の問題が解決しないことは、これまでの歴史を振り返っても明らかである。

マスコミが事件化した出来事だけに矮小化し、野党も自分たちの身に降りかかるために触れようとしない問題は、「金の流れの透明化」。

政治に関係する全ての金の流れを透明化したら、政治ができなくなると主張する人々がいる。個人的にある政党あるいは政治家に献金することを明かすことで、自らの政治信条が公に晒され、主義主張の自由が侵されるというのが彼らの言い分だと思われる。しかし、常に自分たちのオピニオンを発信している彼らが、なぜそうした時にだけ秘密主義になるのだろう? 

収支の透明化の問題点がどこにあるかといえば、抜け穴があいていること。
議員の各種手当ての中で、文書通信費1200万円と立法事務費780万円は報告義務なし。JR特殊乗車券と国内定期航空券に関しては、65万円まで公開義務づけなしで、総額に関する正確な金額は不明。つまり、一年間で約2000万円の税金の使途がまったく不明のままの状態で放置されている。

政党交付金に関しては、「政党の政治活動の自由を尊重する観点から、政党交付金の使途について制限してはならないと定められている。」

国会議員関係政治団体の収支報告の手引」で、収入の欄を見ると、赤い文字で記されているものがある。それはある数字に関係する項目。年間5万円を超えるもの、年間20万円を超えるものといった設定があり、それ以下は記載が不要となっている。

https://www.soumu.go.jp/main_content/000077911.pdf

支出の場合も同様に、1万円あるいは5万円を超えなければ、記載や領収書の添付などは不要。

現行の政治資金規正法は、金額を一定の額以下におさえるトリックを使えば、いくらでも抜け道のある法律であることが、こうした表を見るとすぐにわかる。

「政治に金がかかる」としても、まずは、その金の流れを明らかにし、全ての収支の報告を義務化することが、政治と金の問題解決に向けての第一歩となるはずである。
入って来た金が何に使われるのかがわかれば、不正は起こりにくくなる。また、不正が行われる場合も、裁きやすくなる。
そうすれば、政治家から受け取りながら、投票を依頼するための賄賂ではなく、陣中見舞いだから罪に当たらない、などという理屈は通らなくなるだろう。

今回の自民党の派閥の金銭処理の不正を悪者探しの話題だけに終わらせず政治と金の問題を改善する機会として利用することこそ今なすべきことであり、そのような動きが始まることを期待したい。

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