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このnoteでは、武蔵野大学の公開講座「解のない課題に伴走できる人材に求められる参加型リーダーシップ入門」を紹介しています。本記事はその3本目。「ていねいな発展」についての学びを受講生の視点からレポートします。

この一連の講座は、「解のない課題とどのようにともにあるか」ということをテーマにしています。そこで重要なことの一つは、私たちが、様々な課題群や私たちの未来を「どんな方向へ導いていきたいか」ということ。その方向の一つを教えてくれるのが「ていねいな発展」の考え方です。

私たちはどんな方向へ進みたいのか

私たちが、解がなく、複雑で、でも「なんとかしたい」と願う課題に立ち向かういま、「これがあったらいいのに、ない!」と思うものがあるとすれば、それはなんでしょうか。

いま足りないものは、食べ物でもない。エネルギーでもない。技術でもない。知識でもない。お金でもない。地球規模でみたら、足りないものは何もないんだ。足りないのは、分断や制度や国の境界を越えて繋いでいくリーダーだ。

これは、この講座のベースとなっているスウェーデンの大学院のプログラム「Master in Strategic Leadership towards Sustainability (持続可能な社会のための戦略的なリーダーシップを学ぶ修士課程/以下、MSLS)」をつくった2人の科学者が対話を続けてたどり着いた考え方です。

私たちの暮らしには、なんとかしないといけないことがたくさんあります。私たちの生存に数々の恵みをもたらしている自然環境の終わらない破壊。誰かの幸せを阻害するような、社会のしくみ。それから、みんなの幸せに本当に寄与しているか分からない経済のあり方など。

いま、私たち一人一人の暮らしを支える土台のあり方や、ここを生きる私たち自身のあり方が問われているといっても過言ではないでしょう。

いまから約60年前、このような課題について、つまり「開発」という名前で自然やコミュニティが破壊されたり、働いている人が不幸せになっていく姿から、この発展を「持続可能な方向に舵を切らなければならないのではないか」という議論(持続可能な開発/発展(Sustainable Development|SD)に向けた議論)が国際的に始まりました。

私たちが、「解のない課題」をなんとかしようとするとき、何かを破壊する形の課題解決ではなく、地球環境や人にやさしい課題解決の形を選びたいとすれば。まさに私たちは、SD(持続可能な開発/発展)の知恵を借りながら話をしていくことができます。

資源はきっと十分。その資源を枯渇させない形で活用することを選択し、持続可能で幸せな課題解決の実現にチャレンジしていくためのリーダーシップが、社会に必要とされています。

マックス=ニーフの「9つのニーズ」のフレーム

SDの知恵を借りる第一弾として、講座では、著書「Human Scale Development」のなかで「ていねいな発展」という考え方を提唱した、チリの経済学者マックス=ニーフによるフレームを学びました。彼は、「発展」についてこのように言っています。

すばらしい社会発展とは、人々の Quality of Life(QOL) にもっとも偉大な改善をもたらすもの

そして

QOLとは、人間の基本的ニーズを満たすために持っている可能性の大きさのこと

人間のニーズを満たす”可能性の器”の改善に、もっとも役立つものが「すばらしい社会発展」だということ。GDPをあげるためだけのものでもなく、どんどん物質を増やすようなものでもなく、とにかくニーズを満たす可能性の改善に役立つものが「すばらしい社会発展」。マックス=ニーフが提案する「すばらしい社会発展」の道しるべを一緒に見て話し始められた時、私たちはどんな方向へ歩みだせるでしょうか。

講座の中では、マックス=ニーフの考え方を参照しながら、①人間のニーズを感じること、②ニーズからデザインすること、の2つを、ワークや対話から学びました。

①人間のニーズについては、マックス=ニーフが「9つの基本的ニーズ」のフレームを提案しています。9つは、生存・保護・愛情・理解・参加・怠惰・創造・アイデンティティ・自由。

MUニーズカード
受講者の私たちが感じた「ニーズ」

感じ方は人それぞれだけど、国や年齢、時代を超えて誰しもが持っているもの。これらのニーズをよりクリアに見られるようになったら、次は、ニーズを満たしていくための考え方・やり方を学んでいきます。

ニーズを満たす方法を、対話しながらデザインする

ニーズを満たすためのヒントは「サティスファイアー」。

満足させる(satisfy)もの、満たし方、のような意味の造語です。

たとえば、私たちは、のどを潤して、健康に生きたい(生存のニーズ)・気分を入れ替えてよりクリエイティブに仕事したい(創造やアイデンティティのニーズ)というニーズを持ったとき、例えば「ペットボトルの水を飲む」という行為によってニーズが満たされることがあります。

このプロセスのなかでマックス=ニーフが注目したのは、ニーズを満たしたのが「水を飲む行為というサティスファイアー(満たし方)」だということ。私たちのニーズを満たしているのは、私たち自身の行為そのものであり、「モノ」の方は代替可能(ペットボトルでなくてもよい)ということです。

「サティスファイアー」に注目したら、環境にやさしくない「モノ」や、誰かにやさしくない「制度」なども、どんどん変えていけることが感じられる気がします。

ニーズをよく聴き取り、サティスファイアーをデザインする。そのデザインに力を与えるモノやサービスを、現場の役に立つ形で開発していく。このプロセスに役立つのが、「ニーズ」や「サティスファイアー」の共通言語であり、私たちが講座のなかで実践している「対話」の力です。

ニーズファーストの関わり方

「私のスキルが何か」ということよりも、「現場のニーズ」ファーストでやってみる。このことを学んだ私たちの声はこちらです。

ニーズはきっと、見えていない足りないもの。表面的に足りないものじゃなくて、もっと深い部分で何のニーズかあるのか、それをていねいにじっくりと向き合っていきたい。

対話の中でニーズを見つけ、ニーズの満たし方をたくさんデザインすること、その先のデザインに力を与えるものを開発する、そして運用するというプロセスはとても壮大だと感じた。

すぐに自分にできることを提供しようとしない、ニーズがなにかを観察する、確かめる、ということをしていきたい。

「ニーズ」が聴かれることは求められていると思いつつも、必ずしも「ニーズ」を叶えてあげること、満たしてあげることは求められていないのかも。「もっとのびのび枝を伸ばしていける!」と、自分自身でニーズを満たしていけると思えるための環境をつくることが「ニーズ」を聴いたもののできることかなあ。

ご一緒しませんか。

私は、「ていねいな発展」を学んでから、「この文化やサービス、誰かを不幸にしている気がするな…」と思い始めたことを、よりクリアに「このニーズが阻害される感じがするから嫌なんだ」と言葉にできたり「皆にとっては、どんなニーズが満たされてる?満たされてない?」と聴いたり「このサティスファイアー(満たし方)じゃなくて、こちらにできたらいいと思うのだけど、どう?」と話し始められたりするようになりました。


講座のなかでは、さらに「幸せの指標づくり」というテーマで、「ていねいな発展」の考え方に基づいた指標づくりの考え方を、サポーターの出山実(いでやま・みのる/宮崎産業経営大学)さんのレクチャーで学べます。


また、ニーズや現場の声に耳をすますことを「感性学」という学問の視点から、講師のグロス梯愛依子(グロス・かけはし・あいこ)さんのレクチャーで学ぶことができます。

絵を描いたり/講座の仲間とおしゃべりしたり/講師に質問したりしながら、「ていねいな発展」の考え方を使ってみる練習をして、私たちの未来をありたい方向に導くための力を鍛えませんか。

【関連リンク】

◆【参加型リーダーシップ入門2022】特設サイト
2022年秋のご案内を掲載しています!
https://musashino-cocreationlab2022.mystrikingly.com/

◆持続可能な私たちの暮らしのための Act Locally 実践基礎編 10週間チャレンジ!
持続可能な発展(SD)の実践のための力を鍛えるオンラインの学びの場です。第3期:6/18(土)スタート
https://sustainability-dialogue.mykajabi.com/act-locally-10

◆一般社団法人サステナビリティ・ダイアログ
本講座を運営している、サステナビリティ・ダイアログのホームページ
https://www.sustainabilitydialogue.vision/






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