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少し風俗に詳しくなっただけの話

初めて風俗の求人に手を伸ばした。


仕事について詮索してくる親から離れた訳だし、もう何してもいいや!自暴自棄。


つい最近までただのノイズでしかなかった「バーニラ♪」が現実味を帯びると、渇いた笑みさえ溢れた。


ソープ?𓏸𓏸クラ??JK…リフレ!?

「業界語辞典」とやらを上から下まで読み込んでみると自分の無知さがもはや可愛らしく、脳内ではアドレナリンみたいなものまで感じてどんどん感覚が麻痺していった。

求人をスクロールする指が止まらなくなった。



途端、真面目に就活をやり直そうとするのもフリーランスの勉強をするのも、生きること全てがバカバカしくなってしまった。


どうせ生きる希望も悲しむ家族もないなら、体で大金を稼いで夢見てもいいじゃないか。

自ら死ぬことを許されない世の中なら、お金に目が眩んで汚れた欲にまみれて這いつくばってでも生きればいいのではないか。


今までは、性産業にしがみつかざるをえない若者たちを救おうとする立場の人間だった私。

いざ当事者になり改めて考えると、自分がしていたことがあまりに綺麗事であまりにエゴで、余計恥ずかしく腹立たしかった。

これは、彼女たちにとって、そして私にとって、最後の砦なのだ。


「オトナ」は言う。
「今はいいかもしれないけど、抜け出せなくなるよ?」
「歳を重ねてから違う仕事に就こうとしたときに、経歴に傷を付けてしまうよ?」
「大事な20代でしかできない『社会経験』だってあるでしょ?」

ううん、それらを全て諦めてるからできることなの。
明日に希望なんてないから、抜け出すとか関係ない。
重ねる歳もない。
その「社会経験」ができない/する気がない。




…なるほど。
このような考え方は氷山の一角に過ぎないかもしれない。
私はまだ現場に足を突っ込んだわけでもない。


しかし、あまりにも不平等な社会に設置されたあまりにも皮肉な『救済措置』に嘆き、安心すらも覚える。


ふと、冷静になる。

かつて彼女らのセーフティネットだった私が、セーフティネットを求める側になっている。
依存性の父を軽蔑していた私が、依存先を探し求めている。


綺麗すぎるシナリオ。
私にはまだ、このシナリオを視聴者として考察できる冷静さが残っている。


ならば、なおさら現実から目を背けたくないと思った。
この物語を、もっと多くの人に知ってほしい。
「理解ろう」と思わなくてもかまわない。
ただ、知ってほしい。


TikTokで流れてくる大久保公園の夜や、最強女子ちゃん(閲覧注意)の様子には辟易としてしまう。


好奇の目を向けられる彼女たち。

私一人の手で現状を変えることはできないし、変えることが正解かも分からない。

ただ、私はこうして、この世の不条理に疑問を持ち続けて、それを明るみに出し続ける人間でありたい。




だから今はまだ、少し風俗に詳しくなっただけの話、で終わらせておこうと思う。

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