最近の記事

虚構新聞展に行ってきた

 労働と睡眠のほか、1日3局の三麻と週2のジム、週1の飲み会、少しの勉強しかしない私であるが、たまには社会や文化を涵養し、高潔な人格の形成に努めている。そのような趣旨から、先日4月3日の15時から16時、後ろ指をさされながら年度始早々に時間休暇を取得して大阪・中之島で開催されている「虚構新聞展」に行ってきた*ので、概要をまとめる。 *2024年3月27日から4月8日まで開催(4月2日を除く)。前売り800円、当日1000円。  そもそも虚構新聞とは、ツイッターで出会った虚構

    • 2023年度下半期の恋愛を振り返る

      0.プロローグ <いつ結婚するの>  タヒチの空からの問いかけに、Mは答えることができないでいる。 1.Mは原理を発見した  功利主義は、恋愛の論理の主流に位置づけられてはならぬ。  愛し合う2人の平等が倫理とされ、しかし2人が不平等な資質を持つことが互いを補完し惹きつけ合うという恋愛の矛盾。これを乗り越えるために、「2人の最大幸福」に着目した「相性」がことさらに強調されてきた。2人の価値観や趣味が一致し、共通点があるなら、その2人にとって「相性」は良くなるという考

      • バーにて(乱数編2)

        <語群> 加速度 泥酔 お茶の子さいさい 陸軍  錦鯉 労働時間 狂犬 馬鹿力  弟 呪術師 葡萄パン 真空蒸着  私はそのバーの柔らかい照明に照らされて光る、金色のウイスキーに舌をつけた。ふわりとした蒸留の香りが広がった。敗因など一言で表せるものではなかろうと思った。  クリスマスの煌びやかなときめきから正月の暖かな家族団欒へと、世間の中心は踵を返す。平日と休日は、日没前のブルーモーメントのように、互いが互いを侵食し、ない交ぜになる。規則正しくログ管理されたはずの労働時

        • 乱数編1 虹について

          ※本件はアプリでランダムに表示された12の語群のうち8つを用いて、1,000~2,000字程度の文章を作る試みである。 <語群> 馬 倫理観 ゴムの木 不死鳥 青臭い 時系列 漫画  離職者 動画配信サービス 青虫 色彩 運動会  虹は何色だろうか。これは色彩に関する割と難しい問いではないかと考えている。  先日の旅で、私はコペンハーゲンの現代美術館に入ってみた。そこでは常設展のほか、ロマン派に関する特別展が開かれていた。前半はロマン派の作品群が時系列に即して展示されてお

        虚構新聞展に行ってきた

          合コンに参加した話(前編)

           もう2か月ほど前のことになる。人生で初めての合コンというものに誘われた。  誘ってきたのは大学時代のサークルで一回り以上も遠い男性の「先輩」である。合コンを誘うくらいであるから、もちろんメロディーを担当するような楽器の人である。先輩は、一方で私が恋愛というものに諦念を抱き、その虚構性を暴こうと下らぬ腐心をしており、他方で私の友人である「田原君」が恋愛に果敢に挑みつつも、ベーリング海並みに浮沈の大きい成就と失恋の波間に溺れている有様を見かね、我々の存在を職場の女性「同僚」に

          合コンに参加した話(前編)

          ダミー

          9ヶ月連続のためのダミー投稿。

          Dさんとの出会い(第4話)

           少し前、特に長かった今年の夏もようやく終わりが見えてきたころ、私は再びDさんに出会った。八王子の師が店を予約してくれたのである。  私は東京ドーム近くのJR駅に降り立った。Dさんは地下鉄で来ていたから、どこかで落ち合わなければならない。ここは紳士に相手のいる近くで待って遣るのがマナーであろう。  しかしここで私は自らの陰キャを嘆いた。私は生粋の陰キャであるから、東京に10年居たというのに東京ドームに行ったことが一度もなかったのである。ついでに披瀝すれば、大学に入って10

          Dさんとの出会い(第4話)

          人生の残り時間は体感でどれくらいか

          生5,9,18,18,18,20,20,20,20,20,20,21,21,21,22,22,23,24,25,28,31,32,35,36,50,65死  今年の夏は特に厳しかったが、最近、すっかり朝晩は涼しくなり、秋めいてきた。職場の同僚と、秋は短いからねと話しながら、私は去年もその前の年も、毎年同じように秋の短さを嘆いてきたことを思い返す。私はきっと来年も、再来年も、秋の短さを嘆き、そしていつか死んでいくのである。  そんなことを考えると同時に、私はまた、時間の体感

          人生の残り時間は体感でどれくらいか

          修論を読み返してみた

           前半は、修論を読み返すに至った経緯、読み返した感想を自分用にメモしたものです。後半は、修論を一部抜粋して掲載しています。どんな修論を書いたのかについて、人に説明するのが面倒なうえ、今の自分に聞かれても分からんという気持ちなので、尋ねられたときに答え(てドン引かれ)る用です。  先日、データの整理整頓をしていたら、捨ててしまったと思われた修士論文データが発掘された。私はデジタルデバイドであるから、こうしたデータをクラウドに保存していない。加えて昨年パソコンが壊れてしまったか

          修論を読み返してみた

          最近のニュース記事について思うこと

          0.はじめに  ニュースやメディアの劣化が叫ばれて長い期間が経過したように思う。新聞やテレビを筆頭として、かつてマス・メディア(大衆を介在するもの)と呼ばれた、まさに時代を形作るものとしての覇権は影を潜め、今や情報へのアクセス方法や媒体は多様化した。また、メディアによる不正確な情報の発信やフェイクニュースの存在が前面化し、さらに、誰もが発信者となることのできる現代にあって、受け手のメディアリテラシーが試される時代になった。このような急速な変化を背景にしてか、ニュース記事につ

          最近のニュース記事について思うこと

          芸術探訪――PRISM――

          ※以下は半年前の出来事につき書かれたものの冒頭部分を抜粋して掲載するものである。芸術について書くことの難しさに挑戦してみたかった。 私の青年時代は、言語で表現することと非言語で表現することを往還していたといえる。 若いころから、一方でスピーチや日誌、語学の習得を通して、自らの言語や論理を錬成し、他方で音楽や旅を通して、自らの情動や野心の源泉を模索した。 言語についていえば、中学のスピーチでは親友を真っ青にさせ、高校時代のふざけた学級日誌は影のファンを呼び込む一方、日誌とは

          芸術探訪――PRISM――

          境港妖怪検定(初級)に合格した話

           2022年、私は3年ぶりに実施された境港妖怪検定(初級)を受検し、見事合格した。一般的な資格であれば情報も多く出回っているのだが、この資格は初級の受検人数が昨年で231人※ということもあり、情報があまりに少なく、2023年に行われる第16回検定への参加に足踏みしている人も多いと思われる。検討の一助となれば幸いであると思い、ここに記録を残すこととする。 ※境港妖怪検定の公式HP(以下、単にHPと記す)による。  ただし、問題用紙は回収されてしまうばかりか、問題の内容について

          境港妖怪検定(初級)に合格した話

          Dさんとの出会い(第3話)

           店を出て2人は辺りをぶらぶらと歩いた。初夏の日差し、河岸に向かって並ぶベンチ、咲きわたる花、磯の香り、遠くかすかに何かの試合の応援、2人だけの海辺、2人だけの世界。この情景ならきらめく水面の奥から良い感じの魚が顔をのぞかせているだろうと思い、Dさんと共に海をみた。そこには過日の雨で増水し、濁りきった水ばかりがあった。まあ登場人物が濁った人生とエノキダケであるから仕方あるまい。  駅へ向かう途中、Dさんが不意に「好きなタイプはどんな人ですか?」と尋ねた。私はこの素直な問いか

          Dさんとの出会い(第3話)

          Dさんとの出会い

           私はDさんと店に向かって歩いた。徒歩5分ほどのところに目的の店はあったので、簡単な個人情報の交換などをしているとすぐに辿り着くことができた。  付近の公園の木陰にはインスタ用のサングラスと帽子をかぶった芸能人もどきのマダムと、インスタ用に交雑された小型犬のペアが等間隔に並んでいる。自分を半音背伸びさせるかのようなハッシュタグに動画や写真を結びつけ、自己顕示を充足させようとする人々の群れ。サブクスリプションで好きなモノを好きなだけ消費できる昨今、欲望の対象はモノからコトに変わ

          Dさんとの出会い

          Dとの出会い

           朝。  快眠であった。もぞもぞとカーテンを少し開けると、直線的な光がピシャッと部屋の一角を照らす。決戦の日である。  私は、品数の多くはないビジネスビュッフェを食べ、熱めのシャワーを浴び、早めのチェックアウトを済ませ、さっそくS川駅に向かった。  S川駅は休日の朝だというのに人が多い。平日は会社員であふれているばかりでなく、休日であっても主要な乗り継ぎ駅としての機能を果たしている。私は東京に数年いたが、S川駅を利用したことはほとんどなかった。あちらこちらを眺めながら、人に

          Dとの出会い

          出会いをたずねて百三里

           八O子の奥深くに野猿峠というのがある。野猿峠は治外法権の地であり、ケッペンの気候区分で局地的なAfを示している。鬱蒼とした森の中、独自の生態系の中で進化を遂げた多様な生物が、個々主張して一つの環境を作っている。一つ一つの生物は鮮やかな原色でありながら、決して全体として調和することがないため、遠目に見ると補色が混ざり合ってドブのようなグレーをした塊がモゾモゾと蠢いている、そんな環境が野猿峠であり、峠を擁する八O子である。   そんな野猿峠の辺りで人材の斡旋を行う媒介師が居る。

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