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季節外れの金木犀、それとAesop

自分でもおかしなくらい "沼った" 人がいる。

Twitterで去年の8月の終わりに知り合って、毎日DMで話して、気づいたらLINEを交換していて、そこでも毎日話していて、10月の頭に初めて会った人。会うまで一度も声を聞いたことがなかった。

「自分、女の子のこんな服装が好きだから持ってたらこういうので来てほしい」
「圧倒的巻き髪派!でもギャルっぽいのは嫌だから黒髪の人が好き」

全部、当てはまっていた。彼の好みど真ん中だって嬉しかった。

当日、待ち合わせの駅。遠目からでも彼と分かった。
10メートルくらい離れていたけど、お互いににこって会釈して、名前も確認することなく、自然と手を繋いで歩き始めた。
「女の子には1円も出させない」がポリシーの彼は、デート代を全て負担してくれた。
文字での会話で持った印象通り、話し方も声も、仕草も、紳士的で優しくて大人っぽくて、でもちょっと子供っぽくて意地悪な人だった。

今までに出会ったことのないタイプの人で、簡単に沼った。帰り際、別れるのが寂しくて、彼の纏っていた香水をハンカチにかけてもらった。Aesopの香水。また会いたいです、って自分から言ったのは初めてだった。恥ずかしくて、顔が熱かった。
家に帰って、熱の篭もる躰を冷ますために窓を開けると金木犀の香りが流れ込んできた。
ハンカチが吸い込んだAesopと金木犀、ふたつの香りが混ざった優しい風は、鼻腔を通って、脳内へ、心臓へ、心へ沁みて、私を充たしていった。
一度洗濯したくらいじゃ消えなかったハンカチのAesopは、しばらくの間、広げるたびに彼のことを思い出させた。早く、もう一度、彼に会いたかった。彼の声を聴きたかった。連絡がくれば、秒速どころか音速で返してた。気味が悪いくらい早かったと思う。それくらい、彼は沼だった。

いろいろあって、もう関わらない!って思って、4月、年度の変わり目にトーク履歴消して連絡先を非表示にした。1度沼ったせいでブロックすることはできなかった。

3日前くらい。
新宿駅を歩いてたら、Aesopの香りがして、それに後れて、金木犀が香った。たぶん、金木犀の香水だろうなあ。ふたつの香りが混ざって、あと、その日の夜は少し肌寒かったのもあって、一瞬、あの夜の風の香りがした。
と、同時に、忘れたはずの彼の記憶が走馬灯よりも速いスピードで蘇ってきて、苦しくなった。
彼の匂いも声も笑顔も仕草も、全部思い出して、苦しくなった。

"初めての相手" は忘れられない。って言うけど、たぶん、きっと、おそらく、その類。

いまはもう、会いたいとは思わないし、彼の言葉を渇望することもないけれど、どこかで、元気にやってるといいな、って思ったり。
わりと苦しめられたから、大雨の日に傘忘れてずぶ濡れになるくらいの不幸が一度くらい起きてろ、って思ったり。

ってここまで書いたとき、びっくりするようなタイミングで彼からLINEがきた。

トントン拍子に話が進んで、先週の土曜日会ってしまった。ちょろいなあ、わたし。
相変わらず、Aesopが香った彼だけど、前みたいにずぶずぶに沼ってしまうような感覚はなくて、意外とあっさりしていた。

なんか、残念。
きっと、思い出を美化しすぎてたんだろうね。

でもこれで、またね、じゃなくて、ばいばい、って手を振れたし、全部割り勘にして、金銭的な後ろめたさも感じないようにできた。結果オーライ。会って良かった。

彼はもう思い出に、過去のことになった。片付けられた。

でもきっと、金木犀とAesopの香りに反応してふと思い起こしてしまうんだろうなあ。

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