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ゲーム開発失敗事例「ストーンメイズ」そして「ソロモンの鍵」へ


はじめに

これは、1985年にテクモで開発していた「ストーンメイズ」(後の「ソロモンの鍵」)の開発失敗事例をゲームデザイン面から記載したものです。
どのように変更されたはご存じの方も多いと思いますので、変更の方針などを記載するにようにしようと思います。
読者をソロモンの鍵をプレイした事のある方としています。このため、操作性や敵などの説明を省略しています。今でもプレイできるようです。

ストーンメイズ

発想の元は「ロードランナー」

SMC-777Cのロードランナーにハマり、その操作性を拡張したら面白いゲームができるのでは、と思ったのが発想の元です。頭突きで石を壊す以外は大体発案時のままです。

重要な補足(2023/8/14)

@yoshi_clonoa さんより、ストーンメイズの前にトップビューのグレムリンを題材にしたゲームを考えていて、それを上田さんがサイドビューにすると良い、という指摘があり、ストーンメイズになったというものでした。
持っている資料を調べた所、下記の画像のような資料が見つかりました。

資料のタイトル
グレムリンゲームの画面イメージ
STONE MAZEの初期イメージと思われる画面イメージ

グレムリンゲームの段階で、主人公は石を出したり消したりできるとありました。
これをサイドビューに、という話が上田さんからあり、STONE MAZEになったようです。
この段階では、やはり敵を倒すゲームになっており、アクションパズルゲームではありませんでした。
なぜ、ロードランナーからの発想、と思っていたのかは謎です。ただ、ロードランナーの操作性を書いて何かしていた記憶はあるので、その辺りがミックスされたのかも知れません。

追加の補足(2023/8/15)

昨日からぼんやりと考え続けて、多分こうじゃなかったか、と思い至りました。

  1. ロードランナーを遊び、こういうのを作ってみたいという無意識な願望を抱く

  2. グレムリンのゲームで石を出して、誘導するアイディアを出す

  3. 上田さんがトップビューのゲームでなく、サイドビューにすれば、石を出したら階段が出来て上に行けるようになる、という話をする。

  4. ロードランナーの操作性を思い出し、石を横の下にも出したり消したりできるようにしたら良い、という話をした。(記憶です)

  5. (もしかしたら)ロードランナーの話が出て、上田さんからアクションパズルゲームという方向性の示唆があった可能性。(上田さんに未確認)

  6. ストーンメイズとして企画書(ラフの仕様書)を作成

おそらくこれが客観的な事柄だと思います。
主観的な事柄で言うと、下のようになったのではと思います。
上の4の段階で、1の願望が瞬間的に結実して、ストーンメイズになったのだと。
また、ストーンメイズは失敗し、担当を外れ、担当に復帰しソロモンの鍵を完成させたため、グレムリンの件はすっかり記憶から抜け落ちてしまった、のだと。
このため、ロードランナーからの発展、という部分だけが残った、そういう事ではなかったのかと思います。

どんなゲームにしよう

主人公の操作性は決まったものの、どんなゲームにするか、しっかりとは決まっていませんでした。(失敗の原因)
主人公の移動の自由度が高いので、敵を倒すアクションゲームにしようと思っていました。どんなふうな?という細部までイメージが決まっていない状態です。これはとても危険です。
RPG的な成長要素も加えたいというのもあり、巻物が伸びて保持できるファイボールの数が増えるなどの要素を追加したりしました。
これも根本が決まっていないけれど、先に葉を付けてしまった良くないやり方です。

初期の敵

仕様書や記憶から見ると、どうやらスライム、空中の敵、敵の発射物、魔導士、スパークボールのようです。

その他

固定画面、ステージクリア(鍵を取って扉に行く)は決まっていました。
敵と戦いつつ、ステージをクリアする、という大まかな流れです。

顕在化する問題点

ある程度、主人公と敵が動くようになった段階で問題が顕在化しました。
敵に対して主人公が強すぎるのです。
ストーンメイズはアーケードゲームとして開発していましたから、一定時間でプレイヤーをゲームオーバーにしないいけません。(そういうビジネスモデルです)
タイマー設定を設けて一定時間でストックを一つ失うという方法もありますが、敵が主人公を倒してくれないと不味いのです。
どうして主人公が強いかと言えば、石を出して敵の移動をブロックしたり、敵の攻撃を防ぐため、防御力が高いのが原因でした。
スライムを高速にして主人公を倒せるのは確認しましたが、難易度のバランス上、初期から使える手ではありません。
そして、煮詰まります。

ソロモンの鍵へ

メイン企画の交代

この段階で企画課長の上田和敏氏がテコ入れを開始し、退社するまでの間、メインの企画者となります。
そして、ゲームの方向性を敵と戦うというものから、ステージをクリアするアクションパズルゲーム、へと変更されました。
今にして思えば、発案はロードランナーだったのですから、ステージクリアのアクションパズルゲームにする、というのは至極真っ当な変更と言いますか、一周して元に戻った、と。
私の役割は、求められる敵のデザインとdot絵、アニメーション作成、などです。

追加された敵

新しく敵が追加されました。これらは「主人公を倒す」という目的ではなく、「主人公の邪魔をする」という事を目的としています。
プレイされた方は、結果的に敵に倒される事もあると思いますが、それが目的ではないのでした。

タイマー制

各ステージには制限時間があり、その時間内にステージクリアしないとストックが1つ無くなります。
これは、アーケードゲームとして成立させるための要素ですが、プレイヤーを焦らせて、ミスを誘う、という面もあり、ゲームをよりスリリングにしています。
単なるタイマー制でなく、タイマーを伸ばすアイテムや、時間経過を早くするアイテムなどを用意する事で、プレイの幅を広げています。

妖精

空中の敵の移動アルゴリズムを使って作られています。
妖精の移動を見るとわかりますが、空中を自由軌道で飛ぶ敵が迷路を進んで主人公に到達するのはかなり難しいのですが、助けるべき妖精なのになかなかこっちへ来ない。助けに行かなくてはならないものとなり、欲をかいたプレイヤーの足を見事に引っ張ってくれます。

アトラスが設立されるという流れの中で

上田さんはアトラスの創業メンバーとなり、テクモを退社します。
まだアーケード版も出来上がってはいませんでした。また、ファミコン版も同様です。
そして、私は再びメインの企画となり、ゲームを作る事になります。

土台はできていた

上田さんによって、既にアクションパズルゲームとしての土台はできていました。
また、数々の難問ステージも出来上がっていました。

同時発売に向けて

ただ、完成までにはステージ数が足りません。また、会社の販売戦略でアーケードとファミコンを同時発売すると決まりました。
このため、ファミコン版を先に作り、任天堂でROM生産をしている間にアーケード版を完成させる、という流れになりました。

ファミコン版

ファミコン版では魔導士、スライムがプログラムの都合上なくなりました。
それ以外は同じですが、やはりステージを追加しなくてはなりません。
土台ができていますから、後はそれを手本にして残りのステージを作り上げていく事になります。ステージ作成には企画課のスタッフの皆さんにもご助力頂きました。
当時のファミコンではプレイしたステージを保存する方法がありませんでしたので、電源を入れると初めからプレイしなくてはなりません。このため、ステージをスキップする機能を追加したりしました。このあたりに物語性があるようにしたお話はTwitter、おっと、Xで連投しましたね。

アーケード版

ファミコン版と比べてアーケード版は難しくする必要がありました。
スライム、魔導士を配置してこの辺りは補たと思います。
ブロックだらけのステージで、魔導士を置いたものの難易度が一番高かったように思います。

失敗の原因の考察

さて「ストーンメイズ」が失敗した原因です。
主人公の操作性を決めて、どんなゲームにするかを明確に決めていなかったのが原因です。
本来の順番なら、どんなゲームにするかを決めて、それに合う主人公の操作性を決めるべき流れです。
また、迷走の一つの原因は色々なゲームの面白そうな要素を色々と入れていた、というのもあります。
これもどんなゲームにするか、が決まっていれば、取捨選択が明確になるのですが、それがふわふわした状態では、うまくいないのはご覧の通りです。
どんなゲームにするか、で失敗したのは、「敵を倒してゴールを目指すゲーム」という実は目的が2つ入っているため、どちらを軸足にするかが明確でなかった、という点でした。
敵を倒すなら、ステージ内の敵を全部倒すとクリア、ゴールを目指すならステージに仕掛けられたトラップや敵をかいくぐって遊ぶゲーム、と方向性が違うためです。
大きなゲームでは、ステージや局面で目的が変わることはあると思います。
1980年代のゲームは、一つの局面に相当する分量だと思います。一つの局面に複数の目的はプレイヤーの理解を阻害して没入感を薄くしますし、何よりどう遊んで欲しいか、という点が曖昧になります。

簡単なまとめ

「こういう風に遊んでほしい」
ゲームを構成する要素は、それを実現する手段です。
操作性にしろ、敵にしろ、ギミックにしろ、トラップにしろ、手段であり、目的のために取捨選択される要素です。
物事は順番が肝心なのです。

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