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LOSTAGEへ敬愛を込めて【中編】

遠くに住む、一ファンである私の約10年分の記憶を綴る。あくまでも私から観た景色なので齟齬があるかもしれない。
前編はこちら

①lostageからのLOSTAGE、セルフタイトルのリリース

後にlostageからギターが抜けて、スリーピースの形をとって、LOSTAGEという大文字表記に変わったことの大きな意味をようやく知る。

というところで、前編を終えた。
LOSTAGEは2010年に4枚目のフルアルバムである『LOSTAGE』を出した。
アルバムに自身の名をつけることはセルフタイトルという。セルフタイトルがつくアルバムはそのアーティストとして特別な意味を持つ。
ジャケットは真っ白で、右下にLOSTAGEのロゴが入っているだけのシンプルなもの。

アルバムをプレイヤーに置いて再生すると1曲目の「ひとり」が始まる。
ギターの強いストローク、そして力強いドラミング、そして重たいベース。切り裂くようなボーカル。
始まった、と床に倒れ込んだ。LOSTAGE。たくさん聴いた。

アルバムにはDVDが同梱されていた。
新曲のみでセットリストが組まれたライブ映像は異様だった。
観客が立ち尽くしていた。それはそうだ、知っている曲がひとつもないから。
なんだこのバンドは、とも思った。

セルフタイトルの意味。LOSTAGEという、新たな形。

そのアルバムをリリースしたとき、彼らはとても明るい希望に満ち溢れたような、諸手を挙げて新たな門出を祝うような雰囲気では決してなかった。
思い返すと、纏う空気のすべてが苛立ってすらいたように感じる。
聞き手である私の手元には、とにかくここに、こんなにもすごいバンドがいるということ事実だけがあった。


そして、少なくとも私が足を運んだライブでは、4人編成の曲は長いことやらなかった。


②ミニアルバム『CONTEXT』

そして、自主レーベルを立ち上げて見出しであるミニアルバムの『CONTEXT』を出した。
ここでも、曲どうこう以前に盤を出す際のいざこざで苛立っていた。

聴き手の私は、また実直に『CONTEXT』を聴いた。
そして、1曲目「HELL」を聴き終わる前に、居ても立ってもいられなくなった。 
東京でやるワンマンライブのチケットを買った。
確認したところで意味のない残高ではあるが、その確認もせず、飛行機のチケットも取らないといけなかった。残高がこわかった。どう工面したか記憶がない。

ライブ会場は新代田Fever。知らん街。こわかった。
綺麗で真っ白な壁にもたれかかってみんなタバコを吸っている。綺麗で真っ白な壁なのに、と繰り返し思った。

LOSTAGEのワンマンライブは、もちろん彼らを観に来た方々しかいない。
自分がどこにいて、どこで観ていればいいのかわからなかった。カウンターアクションではいつも最前列にいるのに。
また、細かいところの記憶がない。たぶん、泣いていたんだと思う。私は泣いたら記憶を飛ばすことが多い。
ただ、カウンターアクションで観るLOSTAGEとは違う姿だった。
もう少しホーム感があった。札幌の観客はクールだとコメントをするバンドが多い。
実際にそうだと思う。しかし、熱狂がないわけではない。ベクトルが違うだけで、個として向き合っているだけだろう。

『CONTEXT』は「NEVERLAND」で終わる。奈良にあるライブハウスのことだと、すぐに浮かんだ。
彼らのホームであることだけ知っていた。いつかそこでLOSTAGEを観たかった。

そのライブではART-SCHOOLのギターを担当するトディーがゲストに入って、4人時代の曲である「SURRENDER」をやった。
この曲をやらなかったのはギターが2本いなければ成立しないからだと、五味兄が言っていたような気がする。
会場はこの曲を聴ける歓喜に満ちていたと思う。

わすれもの 君はもう ダメと言う 
SURRENDER


この歌詞のアタマのブレイクで息が止まった。こんな瞬間にはもう立ち会えないとすら思った。
もしかしたら、LOSTAGEは少し解き放れたのかもしれない。また、袖が濡れた。


③『ECHOES』でのアンセム、「BLUE」

『CONTEXT』の次、2012年発売に『ECHOES』という5枚目のフルアルバムが出た。
ずっととんでもないものばかりだったが、特にとんでもないアルバムだった。
初期衝動をそのままぶつけたようなシャウトが鳴り続ける「BROWN SUGAR」から始まり、少しテンションを落として緩急をつけた「真夜中を」を経てからの「BLUE」。
この曲を聴いたとき、この曲は必ずアンセムになると感じた。
突き抜けたバンドサウンドに乗る美しさ。ひとつ、今までとは違う形で生まれたものだと。

どうしようもないような事件と
いつもと変わらぬ日々は
まるでクソ映画のような
出来合いの嘘に溢れてる
「BLUE」

歌詞はそのままの節だが、ポップだった。
MVでこんなに朗らかな、薄い青を重ねられるバンドではなかった。
しかし、この「BLUE」に次ぐ「DOWN」の温度感は苛々しているLOSTAGEだった。人間の持つペルソナをすぐ見る。

さっきまで つい今まで
何処へでも行けたのに
嫌な奴等だ 突き落そ
ここから
「DOWN」

それでも、『LOSTAGE』で見たあの黒く塗りつぶすような凶暴さからひとつ抜けていった。
私が観てきたLOSTAGEはずっとシリアスで、ずっと怒っていた。殺意や憤りがあった。

そして、ロストエイジの過程を見て気付いたことはいくつもあった。怒りや悲しみ、寂しさ、どうしようもなさ、誰かに向けた謝辞、怨嗟、もうなんでもいい。
とにかくたくさんの感情を代弁してくれた。


それは私の生活の背骨として支えてくれた。


後編へ。

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