2023年6月18日

  今日も昼過ぎ米桶(市民オーケストラ)の練習日だった。彼は疲れが取れない身体を引きずり、車で一時間弱の道のりを毎週、通っている。彼の住む凸型市にも、活発な活動を行っている市民オケがある。山を超えた向こう側の大都市千代にもいくつかアマオケがある。ではなぜ彼は、わざわざ遠く離れた街に出かけていくのか?一つには凸型市のオケは土曜日が練習日であり、彼は土曜日の夜働いているから参加できないのだった。でもそれは主な理由ではない。彼が米桶を選んだのは何故かそこに縁がある気がしたからだった。
  練習に参加し始めた頃、彼は十五年以上前のことを思い出していた。当時彼は上凸市にある市民吹奏楽団に新規入団した。その楽団からは、何度か入団しないかとお誘いがあったものの、諸々の事情でお断りしていたものの、状況が変わったので参加させていただくことにした。ところが、トランペッは、彼が入る直前に全員退団してしまい、彼はいきなり一人だけになってしまった。オケと違い吹奏楽はトランペットができれば6人は欲しい。仕方ないので彼はトランペットの知り合いや凸型大学吹奏楽団の学生に声をかけまくり、演奏会やコンクールを手伝って頂いた。当時のエキストラの一人で、大変お世話になったある女性奏者は米桶の人だった。その当時米桶のトランペットパートはかなり充実していたはずだ。
  しかし時は流れ、現在、米桶のトランペットは彼一人。他の金管はいるんだかいないんだか?ホルンもトロンボーンも不在。要のティンパニも演奏会が近くならないと来ないらしい。吹奏楽が盛んな街だから奏者はいるはずなのだが…。弦も、チェロがいないなど大変ではある。またこれか…。いや、彼はこの状況を知っていて、敢えて米桶を選んだのだった。これからどうなるのだろう?良い演奏を届けることが、新規団員獲得の一番の近道であると彼は確信している。そのためにも、定期演奏会で、目立たないまでも、わかる人にはわかる魅力的な演奏を届けたいと、練習に精が出るのであった。しかしその気持ちの割には毎回音を外してしまうのだが…これをなくすことが今の最優先事項。

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