音楽の原理

音楽は、耳があるから聞くことができる。人間に耳がなければ、音楽もない。

物理的に、音は空気圧の振動である。にもかかわらず、人間は音から様々な意味を読み取り、音を組み合わせて音楽をつくることもできる。
そもそも、人はなぜ空気圧の振動に様々な感情や意味を読み取ることができるのだろうか。

考えられるのは、人も進化の過程で音から意味を読み取る能力を身につけてきた、という仮説である。
音を聞く、という行為は、動物としてかなり原初的な能力の一つかもしれない。耳は、人間に限らず、ほとんどの動物についている器官である。
ネットで検索してみると、次の動物には耳がないという。逆を言えばそれ以外のほとんどの動物は耳があり、音から情報を得ているということになる。

耳のない動物

昆虫
ミミズ
ダンゴムシ
カイコ
ハエ

軟体動物
ナメクジ
イカ
タコ

魚類
ドジョウ
ナマズ
アナゴ

両生類
サンショウウオ
イモリ

爬虫類
ヘビ
トカゲ

鳥類
ダチョウ
エミュー

哺乳類
クジラ
イルカ

さらに、音は多くの動物にとって、周辺環境を把握する手段になるだけではなく、コミュニケーション手段にもなっている。
鳥のさえずり、猫や犬の鳴き声など。
人間も、進化の過程で音に対するより高い認知能力を獲得したのではないだろうか。脳の発達と共に、音に対する認識能力がより精緻になり、鳴き声は言葉になり、音は音楽として、より複雑な意味を認識できるようになったのである。

人の認知能力は、対象によって精度が大きく異なる。
例えば、人の表情は、他の対象と比較して、非常に高い精度で意味を認識できる。笑う・泣くはもとより、緊張している、寂しそう、楽しそう、体調が悪そう、噓をついている、などなど、細かな筋肉の変化によって、人の気持ちを理解できる。

音もまた人の表情以上に高い精度で認知できる対象である。音は空気圧の振動であるが、その振動の周波数を、音の高低として聞き分けている。さらに二つの周波数の音が同時になった場合、それぞれの周波数が単純な整数比に近い場合、協和音として澄んだ音として聞きわけ、逆にそれぞれの周波数が単純な整数比にならない場合、不協和音として濁った音に聞きわける。

音楽は、人が持っている音に対する高い精度の認識能力を基盤として成立している。そして、音から受け取っている意味は、その能力を獲得してきた長い進化の過程とも関連しているはずである。
音は耳で聞くものである。そして、耳は進化の過程でほとんどの動物が獲得してきた能力である。
こんな当たり前のことが、巷の音楽論からは抜け落ちてしまっているように感じる。


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