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柊家 結界リゾートの衝撃

コロナの今だから、京都の旅館

滋賀在住だと京都が近すぎて、ふと振り返ると京都の名旅館に泊まる機会がありませんでした。そもそも、ちょっとでも時間ができるとすぐアジア、もっと時間ができるとヨーロッパに行ってしまうので、旅館に滞在したことがあまりなかった我々夫婦。

コロナの今しか国内の近場に泊まる機会はない!ということで一致し、京都の三大旅館の一つ、柊家さんで二泊させていただきました。

まぁ、すごかった!想像以上、というよりも、想像の枠外。
「京都市街の喧騒の中でこんな空間をつくれるのか!」と、衝撃を受けた42時間でした・・!

川端康成にあやかって…

この柊家さん、約200年の歴史の中で、数々の文豪の創作の場となっていますが、中でも有名なのが川端康成。大学院の入学考査のための執筆をしたかった私は、川端康成が推敲した宿ならなんかいい文章書けそうな気がする!と思い至り、予約の際にも、「落ち着いて書き物がしたい」とお伝えしていました。

柊家さんの建物は、江戸末期から昭和の間に増改築を重ねた旧館エリアと、平成に入って建築された新館エリアに分かれており(中でつながっています)、旧館・新館を選んで予約する仕組みです。川端康成ゆかりのお部屋は旧館ですが、滋賀生まれ育ちで京都も近く、縁側のある畳の建物も結構見慣れており、今回は好奇心もあって新館へ。
これが、、、大正解でした!

書き物に最適な空間

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通していただいたのはこんなお部屋。
手前は坪庭を臨む板敷のスペースで、壁際は写真に写っていませんがベンチとテーブルが置かれ、窓の向こうをぼーっと眺められるようになっています。

奥にあるスペースは掘りごたつの書見スペース。

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障子越しに柔らかい光が二方向からさし、伸びた庭の木の梢が風に揺れるのを眺めながら、ぼんやりと物思いにふけれます。

お部屋につくとすぐ、お菓子とお抹茶のもてなしを受け、「一番書き物に集中できるお部屋を選ばせていただきました」と、上品で親しみやすいお部屋担当の方。神代杉を使った床板や高野槙のお風呂など、興味深い設えのお話を伺い、お香もお持ちいただいて、気持ちよく「柊家時間」のスタートです。
ただ、ここまではちょっと気の利いた旅館では普通ですね?いえいえ、ここからがすごかった!

シンプルな部屋に、秘密がいっぱい…!

まず、坪庭の前の床。
もう11月近い京都はトレンチコートでは肌寒く、全面ガラス窓で庭と隔てたフローリングは冷えるはず。なのに!冬枯れに向かう坪庭の木を眺めながら、目の前数十センチで床に座って人肌!全くガラス前の空気も冷たくない。結露なんてどこにもない。窓や枠の作りのせいか、あと、窓の前に切り込みが入って床と天井から空気が出入りしている様子で、何か仕掛けがありそうです。
床に寝ころびながら、全く空気の冷たさを感じずに全面ガラスの晩秋の庭を眺めるっていうのは、よく考えるとあり得ません。

さらに、床框(とこがまち:床の間の縁どり)
文章に煮詰まってゴロンと床に転がった時の事、目と鼻の先の床框は、向こうの壁まで黒い鏡のごとく、一点の曇りもなくしっとりと輝いている。漆自体に傷も凹凸もない上、埃すらなく。

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漆塗りなんて見慣れているはずが、引きこまれるような艶やかな黒の美しさに心を奪われ、一瞬頭が真っ白に。
そうか、「漆黒」とは、この美しさを表現する言葉なのか、と、妙に納得してしまいました。

高野槙のお風呂、だから何なの?
って、思いませんか?杉の風呂桶が香が良いのはわかるけども。とはいえ、お風呂が名物のようなので、到着後、夕食前に早速入ってみたのです。
パッと見た感じ、そう広くもなく、普通???

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が!

ひたひたに、少し熱めにはられたお風呂に入ると、今までに経験したことのない、なんとも肌にここちよい、包まれるような柔らかい肌触りのお湯。ごはんの時間だからさっさとあがろう、と、お風呂から出るのですが、すぐに「もっとこのお湯のなかでぬくぬくしてたーい!」という体の声にあらがえず、湯船にもっかい沈む。
出る→すぐやっぱり湯船につかる。
何やってるかわかりませんが、なんか、とてもすごいお湯でした!

その後、女将がご挨拶にいらしたときにそのお話しをすると、「地下約200メートルからくみ上げた地下水を使っているので、とても肌へのあたりが柔らかいと思います。」とのこと。
ちなみにこのお湯、夜寝る前に入ってもまだぬるくなかったのです。年代物の高野槙は木材の中に空気の層を多く含むとかで保温力が高いのだそう。湯沸かしシステムがなかった時代、旅人にとって極上のおもてなしだったことでしょう。

あと、途中で気づいたのですが、無音。
廊下と居室は、二枚の引き戸で仕切られているだけなので、翌朝まで物音ひとつ・話し声一つ聞こえないのは、他に宿泊客がいないからだ、と思い込んでおりました。ところが、実際は宿泊されていたとのこと。「このフロア貸し切りだ!ラッキー!」と、思い込ませるだけの防音の仕掛けがどこにあったのか、いまだにわかりません。2泊した期間中、一度もフロアから足音や話し声一つ聞こえてくることはありませんでした。

その他にも、デザインや設計、建築材料の知識があれば、もっと様々な秘密を見つけることができそうですが、素人の私が感じたことは、
「見るもの・聞くもの・触れるもの、不快なものが何もない」
ということ。

欄間や障子、室内の柱等、主張の激しいものはなく、一見ごくシンプルに作られているようで、その触れたときの質感や視界に入った時の形が実は計算しつくされている。ディテールに至るまで、すべてが上質。でも、「高級品」としてそれを誇示することは全くなく、室内にいる人間の感性を静かに、そっと、支えるような。引き算の美学、空間版?でしょうか。
これまでに経験したことのない極上の空間でした

来者如帰:来る者、帰る如く

そのすごさを実感したのは、二日目、お部屋のお掃除のために、気を遣って午後1時間ほどお茶に出かけたときのこと。
もう、柊家を一歩出た瞬間から、

うるさい、猥雑、とにかくすべてが不快!

学生時代から歩きなれた京都の市街地で、こんなことを感じたのは初めてでした。あまりの猥雑さに感性が耐え難く、「早く帰りたい」と言って、イノダコーヒーで小一時間時間をつぶして急いで柊家に帰ったのでした。

そこに掲げられた、有名な来者如帰。
なるほど、その通り、見事な理念の実践ぶり!!!

猥雑な外界から逃げ戻ったお部屋のここちよさ、安心感といったら、、、。

柊家は、日本が誇る珠玉の結界リゾート

柊家さんに泊まるまで、滞在型リゾートは、海や山のオープンなランドスケープがないと成立しない、満足のいくラグジュアリー空間はできない、と、思い込んでいました。
それが今回、考えが一変しました。
市街地の喧騒の中にありながら、遮音壁で敷地を囲い、その中の居室空間をディテールまで緻密に造りこむことで、外界と遮断された極上の別世界を生み出した柊家さん。
ここは、まさに結界の中。
資金さえあれば、3日、4日とこの部屋にい続けたいと思いました。
実際、本とPC、スマホさえあれば、一週間部屋に引きこもっても、全く飽きないでしょう。

最終日、お部屋担当のみさきさんに
「新館にはどれだけ秘密があるんですか?」とお聞きすると、
ただ、「うフフッ」とほほ笑んでらっしゃいました。

美は、細部に宿る。

いくつ柊家さんの心地よさの秘密を見つけられるか、挑戦するつもりで泊まってみるのも面白いと思います。

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