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フランス小旅行 Le Havre(ル・アーブル)

フランス留学中初めての旅行はLe HavreとHonfleur。印象派の絵が好きななので、よく描かれ、また、印象派始まりの地とも言えるLe Havreに行ってみたかったのです。

始まりはSaint-Lazare駅。
このパリ中心部の駅から、Normandy行きの列車が出ています。

現代のサンラザール駅

1837年にパリで最初のターミナル駅として開業したこの駅は、当時活躍した印象派画家の画題ともなっていました。ガラスの明るい三角屋根に面影を感じます。
印象派が描き、トゥルービルやオンフルール、ルアーブル、エトルタ海岸へ向かった同じ駅から私も旅に出るのだと思うと、なんだかワクワクします。

モネが描いた1877年頃のサンラザール駅
『サン=ラザール駅』 W438、1877年、油彩、キャンバス、75 x 100 cm、オルセー美術館

ル・アーブルの街の中心は、Le Bassin du commerce と呼ばれる港。今は港としては使われていない様子で、噴水アートが設置されています。真ん中の大きな橋が両岸の街を繋ぎ、正面の街の中心部には、真っ白な火山のような形の劇場が建っています。

le bassin du commerce

この街の中心のBassinの西端が、私がどうしても行きたかった、印象派の始まりの場所でした。ここで、クロード・モネはあの「印象・日の出」を描いたのです。

Impression, soleil levant

この作品を用いて最初のグループ展覧会を行ったのですが、評判は芳しくなく、この時、メディアがこのモネの作品のタイトルから「印象派」と名付けて記事を書いたことが、印象派という呼び名の起源と言われています。

Crépuscule sur le bassin du Commerce au Havre

この絵が描かれた場所には、オンフルール生まれ、ル・アーブル育ちの画家、ウジェーヌ=ルイ・ブーダン(Eugène-Louis Boudin)がまさにこの場所で描いた作品「Crépuscule sur le bassin du Commerce au Havre」を紹介するパネルが設置され、「同じ場所から描かれたモネの作品の20年後にかかれたこちらの方が、より豊かな良いパレットを使い、太陽の柔らかい輝きを捉えて水面と空を融合させている」というような解説が加えられていました。

うん、私も見比べると、ブーダンかなぁ。

翌朝の、日の出

翌朝見た日の出は、ブーダンの描いた日の出と同じ色でした!彼らの生きた場所で、同じ光景を目にしていると思うと、なんとも感慨深かったです。


ル・アーブル観光のメインはここ、アンドレ・マルローミュージアム。印象派のコレクションがあると聞いて、楽しみにしていました。

Museé d’art moderne André Malraux

常設展は、ブーダンのコレクションがすごかった!スタートから、壁一面に、ブーダンの爽やかな風が吹く美しい青空が!!!圧巻でした。

ブータンの空、空、空
最初の方に、あの真っ青な空と雲の作品がたくさんあったのに、見惚れて写真撮れなかった。。。


空の王者、ブーダンを感じられる展示です。その後も、彼の書いた一連の牛の絵や、モネやルノワールの作品もありました。
トゥルーヴィルやエトルタを描いた絵もあり、モチーフになった土地でみると、一層感慨深いものがありました。

私が訪問した時は夏の企画展期間中で、Alvert Marquetの企画展をやっていました。この方もル・アーブルにゆかりが深く、7度にわたってル・アーブルを含むノルマンディを旅し、その自然の光景を描いています。

Alvert Marquetの自画像

基本的には室内から外の景色をみて作品を作るスタイルのため、多くの作品が高い場所からの視点で描かれているそうです。また、光景を最低限の要素だけに単純化し、黒などのはっきりした色づかいで描くのが特徴だそう。
また、本展覧会は、2019年に本美術館がル・アーブルのBasssinを描いたマルケの作品を購入したことが契機になっているらしく、展示冒頭の解説は、「ここ以上にマルケの作品を鑑賞するのにふさわしい場所があるだろうか?」という言葉で締めくくるほどの力の入りよう。
企画展は、このきっかけとなった1つの作品から展示が始まり、7度のノルマンディ訪問を伝記のように紹介しながら、その時に描かれた絵を展示する、というスタイルで、マルケの人生と作風がよくわかる企画内容でした。美術館に行った時はマルケを知らなかったのに、今はとても親近感を感じます。

本企画展のきっかけとなった一枚。Le Havre, le bassin

展覧会の解説には、フォビズム(Fauvism)の特徴を備えている、と言うような解説がされていて、後で調べてみてもマルケはフォビズムに分類されるようなのですが、絵をみた印象は、形も色使いもとても柔らかくて、荒々しさは感じません。
むしろ、絵をみていてすごいな!と思ったのは、水面の表現です。

写真ではわかりずらいのですが、遠くからふとみたときに、水面がぬるっと鏡の様に湖岸の光景を反射する、あのぬらっとした水そのものに見えるのです。
近づいてみると、ツヤも光沢もない絵の具でべっとりと塗られているのですが、マルケは色使いだけで、しかもこんな単純で大雑把な色使いでありながら、見事に岸辺の水の特徴を捉えているのです!

マルケ、水面の天才やん!

額縁の中に液体が張られている様な、そんな錯覚しませんか?

圧巻の巨匠のコレクションと、質の良い企画を楽しめて、とても充実したル・アーブル観光になりました。企画した学芸員さん?の言うとおり、ノルマンディの空と海を愛した空の巨匠と水の巨匠の作品を鑑賞するのに、ここ以上に相応しい場所はないでしょう。なんて素晴らしい企画!


さて。街歩きして思うこと。
ル・アーブルは、印象派の創作意欲を掻き立てた街なのに。こんなにもこの街を描いた作品が残っているのに。実際に海岸近くを歩いてみると、比較的新しい整然とした建物が多く、ヨーロッパの古い街にある、あの長い歴史を刻まれた使い古した感じがないのです。一言で言うと、魅力がないのです。

それもそのはず、ル・アーブルの港は、第二次大戦中にドイツ軍に占領されて要塞となっており、その奪還のためにイギリス空軍が行った大規模な空爆によって徹底的に破壊された歴史があります。この時、多くの民間犠牲者も出たようで、le bassin du commerceの端、街の中央に当たる位置には、犠牲者に捧げるモニュメントが設置されていました。

明日はセーヌ川河口の対岸、昔の面影をそのまま残す街、Honfleurを散策したいと思います。

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