御所南 寿斗ふかがわ:みやこで育った握りずし
料理はその土地の価値観や文化、自然を土台とする表現であって、生まれた「場」から切り離されると全く同じ料理は維持できない。
江戸の気風と技術と港に育まれた江戸前握りが、海に面しない京都でどんな料理に仕上がるか、というのが本日のお話です。
人間って、なんだ?からたどり着いた鮨
小学生の頃、大将は「人間ってなんだろう?」という問いを発し、「自然のあらゆるものを調和させ、表現することは人間にしかできないことだ!!」、という答えに辿り着いたそうです。そして、「自分はそれを鮨で表現しよう」と決意します。
初志貫徹し、今、御所南の朱塗りのカウンターで鮨を出す深川氏。一品一品の流れるような解説はとどまるところを知らず、イキイキと楽しそうにお話ししてくださいます。
ばちこと尾鷲のからすみ
いくつかのお料理から始まった夜のコース。
中でも圧巻だったのがこの珍味!
左の焦げ目のあるものは「ばちこ」といって、ナマコの卵巣を干したもの。干す際に三角形に干すので、三味線のバチに似ていることからついた名前とのこと。風味がまろやかで、食感はスルメイカを少し柔らかくした感じ。
右はからすみですが、尾鷲の特別な製法で森の空気を吸わせたからすみ。塾生を経たようにまろやかでうま味がじんわりと広がり、圧倒的な味わいでした。
この二品から、ふかがわさんの食材そのものへの強いこだわりと目利きを感じます。
やわらかくも頑なさを感じる風味豊かなシャリ
握りの一品目は皮目付の鯛。皮目近くのうま味が鯛の淡い甘さを支えます。
でも、何より驚いたのがシャリ!
この鯛、のどくろか何かほかの魚かな、と勘違いするくらい風味が強くて味わいが濃い。と、思ったら、なんと、その正体はシャリでした!
ふかがわでは、シャリをかつおだしで炊き上げているとのこと。
さらに、米は化学肥料を使わずに育てた丹波産の特別栽培コシヒカリ。炊きあがりは、ふわりとしながら表面の粘りが強く、わずかに芯の強さがのこります。カウンターに置くとネタが沈むぐらいに柔らかく握られているにもかかわらず、お箸で持っても決して崩れず、口の中でほどけ、噛むごとに米の味わいがじんわりと出てくる。
「お酢は千鳥酢を使ったほんのり甘めの合わせ酢」とのことで、酢の強さがネタの香りや味わいを邪魔することはありません。むしろ、食材のもつ自然な甘みを引き立てます。
このシャリ、江戸前寿司とは別世界です。
たいらぎ貝の貝柱
帆立がいよりも小ぶりで甘みと味わいが強く、ギュっと身が締まったたいらぎ貝の貝柱。ふんわりとしながらも芯のあるシャリとバランスが良い。
まぐろの天身
まぐろの天身は、筋がなく、きめ細やかな上質の赤身。今まで食べた中で最も上品なまぐろの握りでした。
車海老
車海老は、一尾から寿司4貫分取れるというほど大きなもの。これもまた
甘さが上品。
こはだ
身はふんわりと柔らかく、酢のメリハリは感じるものの刺すような強さはなく、これまたはんなりとしたみやこ風。
噴火湾産のうにと海苔の佃煮
海苔の佃煮にウニが全く負けていない!!むしろ、海苔の佃煮がうにのねっとりとした甘みに圧倒されて、磯野風味と少しの塩気のアクセントに落ち着いている。絶妙なバランス感覚。
ゆばとウニと海苔の佃煮、オリーブオイル
ヴィーガンのお客様向けの創作寿司からうまれたオリジナルメニュー。写真ではわかりませんが、オリーブオイルのほろ苦い香りがとてもいい仕事をしている一品。なぜ名前が「じじ」なのか、は聞きそびれました。
たまごやき
キャラメリゼされたほろ苦い皮の部分は、フレンチのコースの後に出されるほろ苦くさっぱりしたキャラメルアイスを思い起させる感じ。
煮穴子
これは完全に京都風。身がほぐれるようにふんわりとして、トロトロというよりほわほわ。甘めのタレも、穴子の風味を邪魔しない名わき役に徹しています。
まるく、やわらかく、譲らぬ芯の強さを秘めた、京の握り寿司
東京の江戸前寿司とは、似て非なる京の握りずしを堪能させていただきました。
大将は、寿司職人を志した当初、寿司の本場である東京での修行を志願したそうですが、先方の大将から「京都、関西にしかない料理技術もある。それらと江戸前寿司を融合させてあたらしい寿司をめざしたらいい」とのアドバイスを受け、京都で修行を重ねて今に至るそうです。
京都ならではの「握りずし」を堪能させていただきました。
出される寿司一貫一貫が、素材と米のおいしさの調和を図った一つ一つの表現のようで、大将の「人の手で自然の良さを引き出し調和させる」という世界観が伝わってきます。
リッツカールトンに近く、ヴィーガンにも対応しているとのことで、海外からのお客様をお連れするのにも、頼りになるお店です。
ご馳走様でした!
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