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ツコッハ夫人の泪 (459文字)

憔悴しきった眼差しが、それでも鋭く進行役の女性に向けられる。

動揺した彼女が、夫人に声をかける。
「夫人、お茶でも頂いて下さい。」
この発言に、夫人の眼差しは、更に激しさを増した。

その視線から逃れるように、彼女は、進行に没頭した。
「長期間放置したスマホのデータがクラウドにプール、自らが残されたメモリーを探られ当て、その世界に浸れれるという仕組みを作り上げさせて頂いた、このツコッハ氏でした。」
マスコミによって喧伝される、氏の功績を繰り返した。

夫人の目に泪が溢れた。
この人たちが、主人を白骨化スマホマップに追いやったのだ。

「さて、夫人。最近マップから生還した人が、ツコッハ氏に会った。そして、熱く語り合った。というニュースが流れました。氏が、マップの2020年代地域で、白骨化させて発見たのは、フェイクニュースではないか、との説もあります。」

夫人は思う。
彼は、純粋に日本語を愛していたわ。
あの時代のメモリ―内の日本語を正しいそれに書き換えるまで、彼は帰っては来ないわ。それが、後世への責任だと、彼は、頑なに信じてるの。



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