診断士 豪一郎の『社長っ、共に経営を語ろう!』⑰
ウサギと亀 タイ編
翻訳会社社長と中小企業診断士という二足のわらじを履く豪一郎。
シーラチャからバンコクへ向かう車中では、タイ人気質について、あるいはタイ人従業員との付き合い方といった話題が繰り広げられた。現地コンサルタントH氏から、こんな話を聞かされた。
タイ語に「Sam Ruam」という言葉がある。タイ人にとって、非常に大切な言葉であり、「大声をあげない」、「冷静さを保ち、怒らない」というマナーや躾を表す言葉である。英語では、「calm」という単語に相当するのだろうか。「微笑みの国」タイにふさわしい言葉である。
さて、タイにも「ウサギと亀」の御伽噺があり、エメラルド寺院のワットプラケオの壁画には、そのモチーフが描かれている。
タイ版「ウサギと亀」には、タイらしい「落ち」がついているそうだ。我々日本人が知っている「ウサギと亀」に続編があるのだ。負けたウサギは悔しくてならず、再度亀に挑戦した。「今度は、昼寝などせず、まっしぐらにゴールを駈け抜けてやる。」と亀に宣戦布告し、再レースが始まった。亀の歩みは変わらない。一方、ウサギは猛ダッシュ。しかし、ゴールが見えてくると、亀が既にゴール地点で昼寝をしているではないか。頭にきたウサギは、ふて腐れて途中で帰ってしまった。
眠れぬ一夜を過ごしたウサギは、次の日、再度挑戦すべく、亀の家へ向かった。すると、亀の家の中から、亀夫婦の会話が聞こえてくる。「頭に血が上ったウサギは、ゴールに居たのが(亀の)おかみさんだとは気付かずに帰ってしまったんだね」。それを聞いたウサギは、又逆上してしまった。そして、3度目の挑戦である。「今度は、夫婦競演はさせないぞ!」と亀の甲羅にペンキを塗った。そして、距離が長いほどチャンスがあると考えたウサギは、「今度は、世界一の長距離競争だ!」と提案した。
さてこの勝負、どちらが勝ったか。無論、亀だった。ウサギは、血が頭に上るあまり、大切な事を一つ忘れていたのだ。「鶴は千年、亀は万年」の喩えもある様に、亀は、ウサギよりもズーットと長生きする事を。
「ウサギと亀」の教訓は、日本では『油断大敵』とか『勤勉』といった事だろうが、タイでは違う。『怒りはすべてを失う』というのが、タイでの教訓であり、小さい時から強烈に刷り込まれる。
タイ人を人前で激しく叱責してはいけない、というのは、日系企業の責任者には、共通の認識だが、その背景の一つには、こうしたタイ人の幼少時からの刷り込みがあるのだ。タイ人と上手く付き合うには、こうしたタイ人気質の背景を知ることが有用である。そこには、きっちりと国民性が現れていて無視できない。
豪一郎は、顧問先のO製作所への『経営改善提案書』の「グローバル人材」のページに「タイでの労務管理」の項目を作り、H氏の話を素早く書き込んだ。
「『グレンジャイ(เกรงใจ)』という言葉を知っていますか?」H氏の話は続く。
つづく