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診断士 豪一郎の『社長っ、共に経営を語ろう!』③

「真に自立した、グローバル企業」
「変わらずに残るために、変わる」

翻訳会社社長と中小企業診断士という二足のわらじを履く豪一郎。

さて、自動車部品メーカーO製作所T社長との面談が続く。
大手自動車メーカーの二次サプライヤーとして、元請け企業の要求に忠実に従い、着実に成長してきた同社が、自動車業界の海外生産シフトという環境変化に直面し、変化を余儀なくされている。変わらずに残るためには、変わらなければならない。

ここまでの話し合いで、下請け企業として自立した経営を放棄して来たが故に、中期経営計画を作成する必要がなく、経営理念さえ持つ必要がなかったという歴史が浮き彫りになってきた。

そして、企業として自立のできていないこうした状況は、機能面でもはっきりと確認できる。具体的には、独自の設計部門を持たず、本来の意味での営業部門も持たない。可もなく不可もなしといった特徴に欠ける製品。競合他社が躍起になって育成している、グローバルに活躍できる人材の育成が行われていない等々、枚挙に暇がない。R工業という隠れ蓑を外すと、O製作所の現状は、文字通り無い無い尽くしである。

二人は、もう3時間も会議室で話し合っている。互いに午後の予定をキャンセルしての、臨戦態勢である。T社長も豪一郎も、この話し合いの重要性を十分理解している。O製作所の置かれた状況について話し合い、ホワイトボードにまとめ、「見える化」しながら、進むべき方向性を探る。

夕方になり、T社長を居酒屋へ誘った。場所を変えて、引き続きT社長とじっくり話を続けることにしたのだ。他の診断士の先生方からは、お叱りを受けるかもしれないが、豪一郎は、時に顧問先の社長を酒場に誘い、いい気分で夢を語ってもらうことがある。一経営者でもある豪一郎は、人によっては、陽気に、テンションが上がった状態になると、初めて本音で語ることを体験的に知っている。

下請け企業としての辛酸、二代目社長としての苦悩、後継者であるべき一人息子の医学部進学。会議室では聞くことのできなかった、愚痴や苦労話を、T社長は人が変ったかのように語り続けた。世の経営者の苦悩が凝縮されたかのような話に、豪一郎はじっと耳を傾ける。

「真に自立した、グローバル企業」
二軒目のスナックで、T社長が口にしたO製作所の『目指す姿』は、豪一郎が考えていたものと、不思議とぴったりと一致していた。この6時間を超える話し合いで、T社長と豪一郎のベクトルが見事に合致した瞬間であった。

ここまで想いを引き出し、しかも共有できれば、次は、いよいよ戦略の策定である。もちろん、戦略の実施まで、豪一郎は、T社長とじっくりと付き合っていく覚悟であった。

明日の朝目覚めたら、すっきりとした気分で、改めて、O製作所の置かれている環境を整理し、O製作所の強みや弱みを分析してみよう。豪一郎は、俄然モチベーションが上がっている自分を感じていた。いい酒である。

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