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上にまいります。

道玄坂でタクシーを捕まえて、神泉町の交差点から鎗ケ崎を越えて山手通りへ。「お盆明けたばかりだから今日は空いてますよ」と運転手。
大鳥神社から目黒通りに入ると少し渋滞で、後ろから救急車が「緊急車両通ります!」と繰り返していた。
CLASKAにつくと、そのままエレベーターを上がって会場へ。
チーム夜営の新作「上にまいります。」の初日を観た。

ネタバレになってしまうので、内容には触れないでおくけれども、前作の「記憶の人」とは変わって、SF(って言っていいのかな?)的な設定。

わたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか? 

わたしの住む東京の中心に、世界でただ1つの軌道エレベーター〈SOMAT〉が建設された。軌道エレベーターの高さはなんと全長38万5,000km。世界最速のスピードで、わたしたちを安全に月まで運んでくれる夢の機械。Wi-Fiを探して、この街を流れ歩いていたわたしは、思いがけずもそのエレベーターホールに迷い込んで、男と出会った。次の上昇時刻を待つまでのあいだ、暇そうな男とわたしは、おたがいの身の上ばなしで長い長い待ち時間を潰すことに決めた。(チーム夜営HPより)

はじめからそこにいるような感覚

観客はこのおたがいの身の上ばなしや回想を聞く。回想シーンでは模型や映像を駆使しながら、三人が演じ分ける。
セットというセットはなく、観客は、登場人物と同じようにエレベーターホールにいるかのように、彼らの話を聞いている。
チーム夜営はいつも会場の使い方が秀逸で観客の「芝居を観にきた」という感覚がすぐになくなるような工夫があるのだけど、今回も受け付けして配られるチラシにも細かいこだわりが溢れている。

すれ違っていたかもしれない人

演出の萩原優奈がパンフのなかで書いているけども、この話には「すれ違っていたかもしれない人」が出てくる。

街や深夜のコンビニやどこかでもしかしたら出会っていたかもしれないけど、出会わずにきた女と男の話を聞いていると、なんとなくエドワードホッパーの「Nighthawks」を見たときのよう感覚になった。

Nighthawksは夜の街角のレストランのカウンターにいる人たちが描かれているが、きっとそこにいる人たちもたまたま出会った人たちで、また次の日には、別の客がきて、またたまたま出会った人と会話をしている。
偶然か必然か知らないけども、Nighthawksのレストランはそんな出会いを生んでいる。
この絵を見ていると、その「一晩の偶然」がまばゆい店の光とともに描かれている印象があって、「もしも自分がそこに居たら」と考えてしまう。

「上にまいります。」の劇中で女は男にこう言う。

知ってます?人間って一生に3万人ぐらいと接点を持って、親しく会話をするのは300人ぐらいなんですよ。だからわたし、頑張ってちょっとノルマ達成しちゃおうと思ってて。

「上にまいります。」のエレベーターホールでは芝居には出てこない別の人たちも出会って話しをしているのかもしれないと思った。
同時に自分の今、周りにいる人たちのことを思い出していた。

あの窓の向こうに

暗転して、再び会場が明るくなって、役者が出てきて拍手。
終わりに脚本の大竹くんと前いた会社の話しなどして分かれて、
CLASKAから祐天寺まで歩いた。
駅までの道であれこれ考える。そしてすれ違っていく、人や家々の灯りを見ながら穂村弘やくるりの歌のことを思い出していた。

夜、車に乗って信号待ちをしているとき、道路沿いのマンションの窓をみつめる癖がある。
明るい窓。暗い窓。暗い窓。明るい窓。明るい窓。暗い窓。明るい窓。暗い窓。明るい窓。暗い窓。暗い窓。暗い窓。暗い窓。暗い窓。
灯りのついた窓のひとつに、ハンガーに掛かった上着のシルエットが映っていて、切ない気持ちになる。あそこにぼくの友だちがいるかもしれない、と思うのである。
(中略)
夢の中では、光ることと喋ることはおなじこと。お会いしましょう
穂村弘『世界音痴』より「あの窓の向こうに」

ハローもグッバイも
サンキューも言わなくなって
こんなにもすれ違って
それぞれ歩いてゆく
くるり『ワンダーフォーゲル』

「上にまいります。」は出会いの物語なのか、すれ違いの物語か分からないけれど、女と男の身の上話を聞きながら、自分の今、当たり前にいる「身の回り」の人との関係や、つながりを改めて考えさせるそんな芝居だった。

チーム夜営「上にまいります。」
■公演日:
2018年8月
16日(木)19:00
17日(金)19:00
18日(土)14:00/18:00
19日(日)13:00/17:00
■会場:CLASKA 8F The 8th Gallery

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