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山便り (8)

野点の茶会場

 三月から茶道を習い始めた。
 独身だった頃、静岡市丸子にある吐月峰で茶会があり、「和服姿の若い女性が大勢参加するから来ないか」と年配の先生に誘われ、のこのこついて行った。茶会は確かに華やかだった。ところがお手前が始まってから正座で足がしびれ始め、終わった頃には立つことができず、その場に一人取り残され惨めな思いをした。その時から茶道は決してしないと心に決めた。
 なのに何故今頃になって茶道をはじめたかというと、これまで書庫、丸太小屋、バーベキューハウス、便所、物置小屋、ステージと作ってきて、少々建築様式に興味が湧き、次は寺社建築か、茶室建築のどちらかに挑戦しようと考えていたが、茶室建築の方がおもしろそうだという結論になった。それなら少しぐらい茶道を知っていた方が良いだろうと思い一年間の期限付きで習い始めた。
 茶道を習い始めたといっても、手前座、客座、床の間、水屋、茶道具に関心がいき、作法の方は一向に頭に入らない。お手前のけいこを始めたら、一から教わるので時間が掛かり、途中でしびれが切れて最後まで行かないので、もっぱら客だけやりながら、炉の位置、大きさ、深さ、構造などの質問ばかりしている。半年経ったが、お手前を教わったのは二回だけである。これでは上達する訳がない。
 四月の初めに桜の下で野点をやることになった時、「夏にはYさんの山でやれば涼しくて良いだろう」ということになった。私もその気になった。でも、いざ、どの場所でやるかとなると考えあぐねてしまう。考えた末、山で一番涼しそうな沢沿いの場所を選び、そこに六畳間ぐらいの平らなスペースを作ることにした。土を削り、沢側に石を積み、水平を取りながら平地を作った。オーストラリアレンガ(23 cm四方)を180枚並べ終えたのは5月9日。その後、沢側には手すりを作った。

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