プレゼンテーション1w

「英語化は愚民化」レビュー③

前回のnoteの続き

英語教育で壊されるもの➃:日本語や日本文化に対する自信

そして、英語偏重教育の弊害として私が一番懸念するのは、子供たちが母語である日本語や日本文化を、英語や英語文化よりも、価値の低い、劣ったものだと考えてしまうのではないかという点だ。
(中略)
オール・イングリッシュ方式の授業の導入だけでなく、小学校からの英語の正式教科化や大学の授業の英語化、企業の英語公用語化などの近年の英語化推進の流れは、まず間違いなく子供たちに「日本語や日本文化は英語や英語文化よりも劣っている」という強いイメージを与えることになるだろう。

私の考察

まず、「外来語の侵入を防がないと日本語が廃れてしまう」と考えている著者が一番日本文化の強度に自信がないのだろうと思ってしまう。そして、語学に成功した人が自信を得ることはあっても、うまくいかなかった人が日本文化や日本語に劣等感を感じるという論理は良くわからない。著者は、海外に留学した日本人の多くが、日本の歴史や文化に関することを外国人に問われ、その時に初めて、日本のことをあまり知らない、うまく説明できないという事実に気づくということを知らないのだろうか。その時に初めて、自身が日本人であるというアイデンティティを認識し、日本のことを調べ始め、母国に対する愛着を抱く契機になるという経験がないのだろうか。自身の文化に対して客観的に対峙するためにも、国外に行き、外国語を学ぶことが有益だと私は思う。日本にいては考える機会そのものがないのだから。

これも繰り返しになるが、母語をreplace(置換)するのには反対で、第二言語としてたとえば英語を学ぶということを私は推薦したい。(誰が英語を母語にしようなんて言ってるの?)その点で楽天などの英語公用語というのは日本においてはあまり賛成できないけど、でもそれくらいラディカルな方法で社員全体の英語能力を高めようという意図なのでしょう。

英語教育で壊されるもの⑤:多様な人生の選択肢

日本の高度経済成長の大部分は、国内の資本や産業を育成し、国民を富ませ、購買力を高めることによってなされた。つまり、内需中心型の経済を作り出すことによって実現したのである。
(中略)
エネルギー資源は外国に頼っているが、それ以外のものは積極的に国産化し、多くの国民が多種多様な産業を担い、自律性の高い経済を作り出すことに成功している。国内に多種多様な産業が成立しているため、人々が実質的に選べる職業の選択肢が多いということだ。職業の選択肢が多いということは現代世界では、人生の選択肢が多いこととほぼ同義である。いわゆる「選択の自由」を日本社会では広く享受できているのである。
(中略)
英語化で日本のグローバル化が進み、貿易依存度が高まり、グローバル視点からの全体最適になり、日本国内で成立する産業は減少する。

私の考察

著者は典型的な自由貿易批判をしています。「仕事をアメリカに返せ~!」というトランプ大統領の主張と同じです。新自由主義が進み自由貿易を是とする傾向が強まれば、例えば日本で農業をする必要性に疑問が持たれるでしょうし、結果として日本国内の選択肢の幅が狭まるのではないかという論です。

自由貿易主義か保護貿易主義かという思想のぶつかり合いについては、私はよく分かりません。将来どうなるのかも分かりません。どちらが日本の将来にとって有益なのかも、勉強不足なので言及できません。ただ、どちらになっても対応できるように準備しておくのが、辺境の国の日本としては大事ではないかと思います。

例えば将来、自由貿易主義が広まったとき、日本国内での職業選択の幅が狭まるでしょう。著者に同意します。そうなった場合に、問題となるのは、英語をしゃべれる人は世界中を行き来して働くことができ、一方で英語ができない人は国内で職業選択の不自由を被ることになることでしょう。これは格差の拡大という点で対策が必要です。

ただ、一方で、必要となれば語学をすぐに身に付けることができるという事実もあります。決して教養が高い人ではなくても、海外に出稼ぎに行くという例は後進国では枚挙にいとまがありません。また、さらに望ましいシナリオとしては、英語格差が生じないほど日本国民全体の第二言語英語の能力を高める、というものがあります。日本が中国やロシア、アメリカなどの大国の間に入ってうまく立ち回る戦術。辺境のピリリと辛い小国としてのたくましい国家戦略としては、「当然、第二言語、第三言語喋れる」という教育への投資は野心的です。まあ、母語の日本語の充実と並行して、みんな英語くらい余裕でしゃべられる国になったら、日本はめちゃくちゃ存在感あると思いますけどね。となると英語の公教育の大変革が必要でしょう。今のままでは、少数の学校教育の優等生しか学習の動機やインセンティブが働きませんから。

おわり


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?