変数の理解

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以前、「ドリップコーヒーの淹れ方」をワークショップで教えてもらう機会があった。某コーヒーショップに勤めている方が講師で、曰く「常に一定の味を淹れることがプロの条件のひとつ」とのこと。

そのワークショップは、もちろんプロになるためのものではなく、日常でコーヒーを淹れる人向けのものだった。つまり「一定の味」を求めるものではない。

習うのは
「基本の型としてはどう淹れるのか」
「基本の型以外で淹れると、味にどのような違いが出るのか」
→淹れ方の違いで味も違うので、コーヒーの奥深さに触れてみよう
 みたいな感じだったとおもう。

長い時間のワークショップではなかったので、あまり色々試せたわけではないが、つまり「どこが変数になるのか。特定のニュアンスを求めて、そうならない場合に、どこに観点が基準になるのか」という部分は、コーヒーに限らず、なにかものを作るときにも考えるポイントになると思う。

例えば、そのワークショップでは
・お湯の温度/コーヒー豆の挽き方(粗さ)/蒸らす時間
など様々な変数がある中で
・お湯の温度
 →沸騰したものから別の容器に移すことで少し温度を下げる
  →一定に保てる
・コーヒー豆の挽き方(粗さ)
 →参加者で同じものを使用
・蒸らす時間(この場合の変数として)
 →参加者ごとに、長めにしてみる、短めにしてみる、など
として、一定に保つものと変数に取るものをわけて実践できた。
実際、味に違いが出る。

ここで「苦くしたい/酸味を出したい」「薄くしたい/濃くしたい」など自分の求めるイメージに対して、どの変数が作用しているのか、コーヒーは割と体系的にまとまっている(ようだ。詳しくは知らないが)。
もちろん、豆の種類やブレンド方法、ドリッパーやフィルターの種類など、上に挙げた以外にも無数の変数があるので、それぞれ実験がなされているし、それぞれ自分に合ったものの探求がなされている。

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自分の仕事のグラフィックデザインに寄せて考えてみると、例えば目指すべきグラフィックの雰囲気があり、今制作しているものに対して何か違うと感じているときに、「では、何が違うのか」を理解しなければならない。

例えば変数となりえるのは
・書体(フォント)
・ジャンプ率
・余白
・写真/イラストレーションなどのビジュアルイメージ
・色使い
などなど。
何を変えるとどう雰囲気が変わるのか。実践を重ねていく中で、自分の得意な変数がわかってきたりする。
逆に言うと、実践を重ねないと、文章などで得た知識では実際的な変数の挙動は理解できない。

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世の中の動きとしては「みんながそれなりに良いものが作れるような構造」にどんどんなってきている。
コーヒーメーカーも、ボタン一つでお湯の温度管理から豆の挽き方まで管理されて一定の味が出る。

グラフィックデザインもある意味ではそうなっている部分がある。AdobeCCを入れてテンプレからイメージに近いものを選び、文言を差し替えていけばそれなりのものが作れるようになっている。

ではプロの仕事(コーヒーにしてもデザインにしても)がなくなるのか、というと全てがそうはなってはいない。
どのような変数があり、その変数の極値がどうなるのか、どのあたりが万能な解に近いのか、という実践の末に「それなりにどこにでも使えるテンプレート」が成り立っている。
「時代」も変数のうちのひとつなので、そこを汲める人(ここで言うプロ)が居なくなったときは、文化が終わったときだろう。(良い意味でも悪い意味でもなく)

大事なのはナニカの最適解に対して「何か違うな。どこが自分が求めるものと違うのか」と気づける感覚でないかと、最近は思う。

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