デフォルトへの問い


前回のnoteの続き。

 ▼ ▽ ▽

例えば、Adobe Illustratorで文字を入力する。
すると、小塚ゴシックがデフォルト値として設定されている。
フォント名はわかりやすいかもしれないが、変数としての様々なものがデフォルト値で規定された状態で入力されているのにどこまで自覚的だろうか。

・フォント:小塚ゴシック R
・サイズ:12ポイント
・行送り:(21ポイント)
・カーニング:0
・トラッキング:0
・言語:英語・米国
・左揃え
・禁則処理:強い禁則
・文字組アキ量設定:行末約物半角
・ハイフネーション:オフ
などなど。

どのような意図の(見出し/本文/キャプションなど)文字を打つかに関わらず、全ての設定をし終えてから文字を打つことはまれだと思う。(既存のものから流用できれば話は別だが。)
しかし、活字や写植ではきちんと意図のある数値として指定しなければ、文字を打つことはできなかった。(と、書いている本人はそんな時代の人ではなく、デジタル以降の制作環境しか体験していないわけだが。

 ▼ ▼ ▽

上に挙げた「デフォルト値」は、過去のデザインの慣習などから規定されているものもある。
例えば、行送りの項は「自動」とすれば、数値が括弧付きの表示でフォントサイズの175%となり、サイズ変更に伴って自動的に変更されるようになる。
これは一般的な行長の場合に「本文組の行間は二分四分(にぶしぶ/本文のサイズの二分(50%)と四分(25%)を足したもの)のアキが読みやすい」とされていることに由来する。
ここでもやはり変数の問題となる。「一般的な行長」と書いたが、これは「文芸書の主に四六判相当の紙面に対して1段組みで組んだ場合」を想定している。
行長はコンテンツにも拠れば、誌面サイズにも依るし、段組みで行長が変われば適切な行間も変わる。一般的に言えば行長が長くなれば、行送りも広いほうが読みやすい。

この他、例えば見出しとなれば本文相当よりも大きなサイズを用いることになり、短い文言であれば行送りが文字サイズの175%では広すぎるということにもなる。

もちろん行送りだけでなく、たとえば「行末約物半角」が有効な場合はどんなときなのだろうか? 禁則処理は?

というわけで、無数の変数が個別にあるわけではなく、相互に関連し合っている。
万能な解はあるわけではなく、ある程度の公式はあれど、その都度、コンテンツに合わせて組んでいくことになる。

 ▼ ▼ ▼

蛇足だが、ある建築家の依頼でフライヤーを作ったときに「これそのまま拡大してポスターにもするよ!」と言われ、「ポスターにするにはポスターなりのやり方があるので別に用意させてください」と返したことがあった。
建築家は家を作るときに犬小屋の図面を拡大してつくるのだろうかと、嫌味のように言うこともできた(そうはしなかったが)。ジャンルが違うと考えが及ばないことはあるかもしれないが、自分の分野にも紐付けて考えてほしい、と思う。犬小屋には犬小屋のきちんとした作り方があるし、家には家の作り方がある。多分。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?