2022冬アニメ感想
最終回ウィークでしんみりした気持ちです。
冬アニメが終わりを迎える3月末は、あたたかな春の日差しを受けて桜がほころび、新しい年度を迎える喜びと活力がみなぎってくるタイミングに重なるため、特に印象に残る。すばらしい最終回を見られると、自分も日々せいいっぱい頑張ろうと前向きな気持ちがわいて出ます。
フィクションにはそういうチカラがある。
個人的には春からのクールに期待作が多かったせいで、今回の冬アニメは「つなぎ」という意識だったのですが、始まってみれば、まったく傲慢・無知にもほどがある。ばっちり楽しませてもらいました(なにがつなぎだ)。
期待というのは難しいもので、事前に期待値のハードルをあげてしまうのは「楽しむ」という観点からはマイナスに働く場合も多いのかなぁと。ことアニメに関しては、ついあれこれ文句を言いたくなる「原作既読組」よりも、予備知識なく新鮮な気持ちで向き合える「アニメ初見組」のほうがうまく楽しめたりする。
そういう意味で明日ちゃんのセーラー服とその着せ替え人形は恋をするの2作は、原作を知らない状態で見られたことが自分にとってはたいへんなアドバンテージになったように思います。原作組は原作組で、すばらしいアニメ化にありがとう、だったでしょうけどね。両作品とも、毎話ことごとくいい意味で裏切られ、回を追うごとにスキが深まりました。これが同じ制作会社によるとは……CloverWorksおそるべし。
というわけで今回はこの2作から感想を書いてまいりましょう。ネタバレもありますが、少々のネタバレでゆらぐ面白さではありませんから、ぜひとも本編をご覧いただければ。バトルものやスポーツものの熱血さとはまた違うベクトルで、お話も演出も絵も音も! 現代ジャパニメーションの最高レベルに到達してますから!
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足指、髪、わきの下、唇といった倒錯的な性欲をかき立てられる部位、タイトルにもあるとおり女学生の象徴でもあるセーラー服、それに丹念な更衣シーン……序盤の過激な描写は、すぐに、本作・明日ちゃんのセーラー服に独自のリアリティラインを引くための「小道具」だと気付かされます。
ストーリーも舞台も、どこか浮世離れしたファンタジックな世界。そもそも全国から優秀な女の子を集めるド田舎の名門女子校って……そんなのありえんでしょうよ。たとえば釣り回に出てきた湖沼も山岳も、とても日本とは思えないわけで。フェティッシュな要素によって「本作はファンタジーですよ」と暗に示しているのですね。
中心に配置された主人公・明日小路は天真爛漫、運動神経抜群、かわいくて礼儀正しい上にコミュ力も交渉力も超級、なのにどこか抜けているスーパー中学生だけれど、それまでずっとひとりで過ごしてきた悲しみを抱えていて、それがクラスメート全員を落としてやるんだという強い動機になっているところに本作の主たる目的が見えます。
明日ちゃんのクラスメート攻略日誌。3話あたりからそういう物語なのだと気付かされましたよね。オープニングアニメーションで明日ちゃんに手を引っ張られている女の子は顔が見えません。クラスメートみんなが明日ちゃんに導かれていく比喩ですね。15人のクラスメートはみな、さすが名門女子校に来るだけあって大人びていて、真面目で控え目で、でもそれぞれに好きなモノ、熱中しているモノ、譲れないモノがあって。底抜けに明るい明日ちゃんと出会い、彼女とのやり取りの中で、自分の得意なことだけでなく、弱みや苦手な部分、不安を含めて受け入れていく。その過程がさまざまなバリエーションをもって描かれていきます。エピソードでキャラを描く――物語の基本に忠実にあろうという姿勢がにじみ出ているように思われました。
正妻の木崎さんは別格としても、大熊さん(虫博士)のエピソードも、蛇森さん(ギター)の「チェリー」も、峠口さん(方言)とのハンカチのやり取りも、また他の子たちとのエピソードもそれぞれに印象的で、自然にキャラを覚えていけたのはまさに本作の魅力の表れと言っていいでしょう。
魅力といえば、「このお話、もしかしてこういう展開では?」というワクワクした期待が、そのまま実現したときの爽快感といったらたまりませんでした。谷川さん(自撮り)がついうっかり恥ずかしい写真送るのとか、古城さん(文学少女)に朗読聞かせたのをきっかけに演劇部に入るとか、母校の小学校の体育館にクラスメートが集まるとか、見ている間に「もしかして……」と予想できるのに(予想できるから?)、鮮烈なインパクトを残してくれました。
絵はもう見た通り、ありえないくらい動いていて気持ち悪いほどでしたね。峠口さんにハンカチをわたしたあと、廊下でぴょんぴょんするときの動作見ました? ああいうのがいいんです、見どころなんです。夏服でくるくる回ってと言われてアクセルジャンプかまします? 予想のはるか上を飛びすぎ。体育館に大勢来てくれて「いっぱい来た!」と笑顔を見せる妹ちゃんのシーンも。
動く絵がいいのは当然として、動かない「止め絵」もおそろしくよかった。「止め絵」って手間をなるべくかけないための、いわば「手抜き」的な印象を持っていましたが、本作に関してはまったくそんなことなく。ここぞのシーンで視聴者に強く訴えるためのバズーカ砲みたいになっておりました。一番はあれかな……大熊さんが森の中でチョウを追いかけたときに見た明日ちゃん。
1話2話の度を越したフェティッシュな部分に、気持ち悪さを感じて途中で視聴をやめられた方。まぁ当然の反応だと思いますけど、でもやっぱりもったいないので、お時間あればぜひ! 続きをご覧ください。
……原作読も。
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コスプレや衣装作りが趣味というキャラはこれまでに何人も見たことがありますが、コスプレそのものをメインテーマに据えた作品は初めてかな?
その着せ替え人形は恋をするです。「着せ替え人形」の部分に「ビスク・ドール」とルビがふってあります。どちらで読んでもいいでしょう。略称は「着せ恋」。
自分以上に妻がハマってしまって。五条くんまじでかわいい大しゅち♡♡と、まぁそこまでではありませんけど、大いに楽しんでくれているようで何よりです。原作オトナ買いだなこれは。一度に買うと鼻血出るんで少しずつ。
というわけで原作マンガをゆっくり読み始めたわけですが……うーん、うすうす感づいてはいたけど……このアニメ化、最高、すぎないか? 原作のよさを十分に生かしつつ、そこからアニメの強みを生かして一段高いところに作品を引っ張り上げている。
絵がいい、動きがいいというのは大前提として、演出がうますぎるでしょ。特に「間の取り方」がすばらしいと思う。
本作、原作マンガはけっこうシンプルな作画で、細部まで見入るタイプの絵ではないため、さっさっと、比較的速いスピードでページをめくることになるんですよね。見せたいシーンは大ゴマや見開きをバンと使って印象を残そうとするのですが、それでも限界がある。
そこでこのアニメ化ですよ。「ためを作りにくい」という原作マンガの弱みを存分にカバーしている。最たるものが言うまでもなく11話のラブホシーンでありまして、まさかの騎乗位から体面座位、すっ飛んだスマホで消灯、荒い息遣い……からの電話のベルで中断するところまで。濃厚に引き延ばされた長い長い時間でしたね。息止まったわ。あんなふうに勃起を描いたアニメがかつてあっただろうか!……ってもう……アニメの感想文でなんてワード書かせるんだい……
本作、明確に「やらしい」場面があるにも関わらず、しかし驚くほど「やらしくない」のはなんででしょうね? 採寸するシーンも、汗吹いてあげる場面も、五条くんのマスターベーションを示唆する描写も、ツルツルもおっぱいも、そしてラブホシーンも。コメディの持つ力なのかな。もちろんそれもあるでしょうけど、やっぱりこういったシーンが「この物語に必要な場面だと見て取れるから」でしょう。
コスプレするのにお着換えするのは当然。服を作るのに採寸するのも当然。小さくて幼女体型の姉と、背も胸もある妹のデコボコ姉妹が、互いのコンプレックスを認め合うところにエピソードのキモがある。職人気質で熱中すると周りが見えなくなる五条くんが、ふとした瞬間に素に戻り「やらしい」と自覚して後悔する(なのにタっちゃう男の子の悲哀)。好感しかないです。
本作のストーリー性・キャラ性について考えていくと、きわめて堅固なログラインがバックボーンにあるのだと気付かされます。すなわち「ひな人形職人を目指す内気でウブで真面目な男子が、明るくかわいく強引でちょっとエッチなクラスメートのギャルのコスプレを手伝う」というログライン。これだけでもうすごく面白そうだもんね。表のストーリーはコスプレ衣装作りやお化粧だけど、それが巧みに裏ストーリーの「五条くんがお友達を増やす」「五条くんが人形職人としての腕を上げる」「まりんちゃんが(他の子もかな?)恋をする」などに裏打ちされていますよね。
そうそう、劇中劇の手の込みようは言うまでもない。原作マンガではさらっと描かれる「フラワープリンセス烈」の見事さよ。皆さま一瞬でお気づきかと思うけどおジャ魔女とカードキャプターとまどかマギカを上手にミックスしてる。いやいや桃矢くんと雪兎さん……元ネタを知ってるから感心を通り越して大爆笑だわ。
原作マンガ、バカ売れしてるみたいです。これ2期来るでしょう。
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そんなすばらしい2作でしたが、これに負けていないのが平家物語でした。負けていないというかまるでジャンル違いなので比べるのも阿呆というか。
最終回見てから1週間経ちましたけど、まだ余韻がじんわりと残っているんですよね。ご覧になった方にはご理解いただけると思います。
ラストは原作の平家物語の通り、後白河が徳子を訪ねる大原御幸のシーンでした。寂光院。厳かな鐘の音に「祇園精舎の鐘の音」とつぶやく面々、因果はめぐり、物語は冒頭、史上最も美しき日本語の一句に戻ります。
びわと重盛の声が重なり――
鳥肌です。
京アニファンとしては、監督・山田尚子さん、脚本・吉田玲子さんの担当された過去のいくつかの作品を彷彿させる本作。さりげなく控え目。しかしだからこそさまざまな解釈を許す印象的な描写が続きます。
日本史をまじめに勉強したことがなく、平家物語周辺の事情は最低限の知識しかないのがちょっと恥ずかしくなるような、もっと知りたくなるような……知識欲求を刺激される物語でした。
1クールという制約はたしかに制約で、源氏が台頭してからの有名な戦闘などは駆け足にも見えますが、本作が平家方からの視点だと意識すれば、栄華を誇った平家が転がり落ちるように没落・滅亡へと突き進むはかなさを巧みに表現しているとも言える。少しでも歯車のかみ合わせが違えば、歴史は簡単に変わっていたかもしれませんね。ロマン。安徳帝も神器も本当に壇ノ浦に沈んだのかな。
未来が見えるびわと、過去が見える重盛という初期設定はお見事でした。結局「びわ」とは誰なのか。作者不詳と言われる平家物語のその作者でもあるし、語り継いだ琵琶法師たちでもあるし、聞き、読み、研究し、伝えてきた我々読者でもあるし……CV悠木碧さんの新たなる伝説でもある。
史実であり創作でもある平家物語の精神を、淡い色使いによって終始抑制的に描いたアニメ・平家物語。これはアリでしょう。ほんと平家物語、一度きちんと読もうかな。そう思わされたオタクがここにひとり。
オープニングテーマの「光るとき」も最高でしたね。「最終回のストーリー」の部分の歌詞、和の作品に「ストーリー」という横文字を当てる見事なギャップにもだえました。
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きららファンなのでスローループも見てましたよ。
個人的にはかなりスキなほうの作品。
恋ちゃん絡みのしんみり家族エピソードがわりとツボにはまってしまって。特に11話ね。長年抱えていた後悔や悩みが、ちょっと素直になっただけで瞬く間に氷解していくような……そういう「秘密の共有」や「秘密の暴露」って大好きなんよ。
物語に大事なこと。たくさんあるでしょうけど「誰が何を知っているか」と同じくらい「誰が何を知っているかを誰が知っているか」がとても重要ですよね。
たとえばA子ちゃんをB男くんが好き、B男くんをC子ちゃんが好きというお話があったとして、B男くんの気持ちをC子ちゃんが知っているかどうかで、物語はだいぶ様相を変えるわけです。C子ちゃんの気持ちをA子ちゃんが知っていたら、C子ちゃんのためにB男くんの気持ちには応えられない、みたいなアツい展開もあったりする。
本作、たぶんそのあたりをとても丁寧に作劇していて、作者先生が基本的に人の気持ちを気にしぃなのかもしれないですね。
正直「釣り」にはそこまで興味ないのですが笑(というかフライフィッシングって結局なんなん?)、自然の中で存分に楽しむ題材は爽やかでとてもよいと思う。アニメでは描かれなかった小春ちゃんの過去エピソードもたいへんに気になるし、これも原作早く読みたいな……
オープニングテーマの「やじるし」はもちろん、エンディングの「シュワシュワ」も名曲。
「笑い声重なって」「浮かんで弾け合って」
明るさの中にぬぐえない悲しみと不安をはらんだ本作を象徴する見事なキャラクターソングでした。主演のお三方ともキャラにぴったりのお声でしたね。今後のご活躍、お祈りします。
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あとハコヅメね。実は最終回がまだですね。
自分「原作組」なんで、つい原作と比較してしまいます。
悪くない。悪くないけど、やっぱり本作は絵もお話もアニメ向きとは言い難い。話が本気で面白くなるのここからなんで。生活安全課の面々が出てきたあたりから、どんどん沼に引きずり込まれるんで。アニメで興味持たれたかた、原作を読むのがいいですよ。
いわゆる「パワーワード」で笑わすタイプのギャグが多くて、セリフで聞くと「え、今なんて言った?」と分からなくなってしまうのがもったいないですね。
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3期となった高木さんは安定してましたね。映画やるらしいんだけど……
ねぇねぇ、もしかして終わるの?
告白して終わるの?
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さぁ、春です。先日書いた通り、マンガ原作の注目作が10本以上ある。
全部は無理だけど……ふだんより見る本数は増えそうです。
どうかすてきな新年度になりますように。