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恋とピアノと私 #14
駅前のロータリーに、乾いた晩秋の風が渦を巻く。
ここからまっすぐ北西にのびるケヤキ並木が、街の中心を貫いている。
夏には鮮やかな緑色を茂らせ、左右のビル群の窓ガラスに、その影をうっそうと映し出す木々。しかし冬の足音近づく今の頃合いには、色づいた葉は冷たい北風を受けてまばらに落ち、荒涼とした景色を演出する。
落ち葉が、絶え間なく一枚また一枚とアスファルトに積み重なる。ときおり、いたずらに吹き抜ける木枯らしに乱され、ふわりと舞い上がっては、またゆらゆらと不規則に落ちて動かなくなる。
乾いた落ち葉を、さくさくと音を立てて踏みながら進む。
ほどなく、古びたアーケード街が見えてくる。相当の年季が入っているものの、いまだに、昔懐かしい活気を残す商店街である。
八百屋、魚屋、お茶屋、せんべい屋。
おもちゃ屋、かばん屋、靴屋、ブティック。
カフェ、レストラン、書店。
何を売っているのかさえ判然としない薄暗い雑貨屋……
どの町でも見かける派手な色合いのチェーン店は少ない。
薄茶けたアーケードの屋根から、セールを知らせる垂れ幕や、かわいげのないマスコットキャラクターが釣り下がり、足元には淡いパステルカラーのタイルが、はるか向こうのほうまで、整然と敷き詰められている。夜には控えめながらライトアップも行われる。
にぎやかな夏祭りの舞台でもある。華やかな神輿の列や、小学生の鼓笛隊が、この古びた道々をゆっくりと練り歩く。お好み焼きやたこ焼きの香ばしい香り、飴細工やベビーカステラの甘い匂いが立ち上る、色とりどりの出店が所せましと並ぶ。
古くてもシャッター街とは呼ばせない。郊外のショッピングモールになど負けない。そんな心意気を感じさせる街並みを、ゆるやかな下り坂に沿って進んでいくと、アーケードは一本の小川と斜めに交差する。
視界が開ける。穏やかなせせらぎと、揺れる柳の枝が目に入る。
小川は失礼にあたるだろうか。由緒ある河川だ。
あたりの詩歌や民話によく登場する。町のシンボルであり、左右に整備された遊歩道とともに市民から愛されている。
陽光にきらめく川面をなでるように吹いた風が、水と木と土の香りを振りまいていく。
この曲がりくねった川沿いの道を行くのが、コンサートホールへの近道である。