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腹痛でアメリカ(ピッツバーグ)の救急外来に半日弱滞在した話

 またしても時間軸が前後するが、2024年5月末〜6月上旬にアメリカのピッツバーグへ行ってきた時に、初めて外国の救急外来を受診し、海外旅行保険のキャッシュレスサービスを利用したため、その時のことを書きたいと思う。その前に、毎度のことだが時間軸のおさらいをば。

  • 5月下旬〜6月上旬:アメリカ
    ↑今回は、この時のことについての記事

  • 6月中旬〜7月上旬:シンガポール

  • 7月上旬〜7月中旬:マレーシア(クアラルンプール&マラッカ)

  • 7月中旬〜7月下旬:シンガポール

  • 8月上旬〜8月中旬:ローマ

  • 8月中旬〜:シンガポール

 なお、海外旅行保険会社や医療機関とのやり取りは、あくまでも私個人の経験であり、旅行先や症状、加入している保険会社やその補償内容等によってケースバイケースであることを最初に述べておきたい。


海外旅行保険会社は、医療機関の情報を前もって教えてはくれない

 今回、私の両親を伴って初めて彼の実家へお邪魔する、いわゆる「顔合わせ」という貴重な機会だった。
 私も両親も持病があるため、万が一のことを考えて、ニューヨークやロサンゼルスのような大都市ではないピッツバーグの(キャッシュレス受診が可能な)医療機関の情報を得ようと、旅行前に海外旅行保険会社Aに連絡したところ、
「傷病を負ってから連絡して下さい」
とのつれない回答を得た。傷病を負った時に冷静に電話できるか分からないから、事前に聞いているのに。
 「まあ、いいか。病気になったらその時考えれば」…この時は、自分自身が病院と海外旅行保険のお世話になるなど、知る由もなかった。

母がCOVID-19に罹患、私も不安とストレスが身体化

 ピッツバーグ到着後、数日間は和やかに過ごせたのだが、滞在5日目にして、母がCOVID-19に罹患。父も鼻水と喉の痛みあり。そういえば、飛行機の中でやたらと咳き込んでいた人がすぐ後ろに座っていた…。
 が、既に感染したものはしょうがない。スケジュールをキャンセルして、両親は数日間ホテルに缶詰めとなった。母がひたすら「情けない…」と言っていたのが印象的だった。(結果的に父は感染しなかったから良かったが、両親が同室のままだったのは反省点)

 アメリカ疾病予防管理センター(CDC、Centers for Disease Control and Prevention)のプロトコールをチェックしたところ、

  • 発熱等、症状が出ている間は、自宅隔離が必要

  • 症状が全体的に改善し、最後に解熱剤を服用してから24時間経過後、次の5日間は、空気の入れ替え、マスクの着用、他人との距離の確保、屋内で他人と接する際の検査など、予防策を取りながら通常の生活を送る

ことが推奨されていた(強制ではない)。症状が落ち着いたら、COVID-19の検査結果に関係なく、通常の生活に戻り始めて良いところがポイント。
 私達の滞在予定期間は約10日。予定していた野球観戦、バーベキュー、カレーパーティー、美術館巡りはどうなるのだろう。せっかく両親も彼の両親も楽しい時間を一緒に過ごしているのに、ここに来て、全ての予定を組み直さなければいけない…そんな暗い気持ちで床に就いた。
 
 その翌日、私の体調にも異変が生じた。朝からみぞおちの痛み(お腹を膨らませると、胃を搾られるような痛み)が発生。ご飯は食べられるし、便通もあるが、寝ていても立っていても痛みは変わらない。
 胃ガンだったらどうしよう…
 
あらぬ心配で、どんどん体調は厳しくなっていく。

 この時はまだ痛みが出始めたばかりで、しばらく様子を見ようと思っていた。が、症状が出ていることには変わりないので、今だったら答えてくれるだろうという変な期待を持って、海外旅行保険Aに再度電話で相談。
 Urgent Care Center(主に軽症・中等度の病気・怪我を診る、夜間・休日対応可能な医療機関)よりも、検査機器の揃っている救急外来(ER)が良いとのことだった。

 (…)Urgent Care Centerで良いのか、Hospitalへの受診が必要なのか、判断が難しいこともあります。一般に、Urgent Care Centerで対応できるのは、風邪、発熱、頭痛、咽頭痛、咳、軽度―中等度の喘息発作、腹痛、下痢、吐き気、アレルギー、発疹、鼻出血、耳痛、眼の症状、軽度の火傷、皮膚の切り傷、刺し傷、骨折その他の軽度の外傷、異物、関節痛、腰痛、排尿痛、婦人科出血など、入院を要しないと思われる症状あるいは状態です。
 これに対して、Hospitalの救急部を早急に受診すべき状態は、呼吸困難、意識の混濁や低下、高血圧や高コレステロール血症の既往のある人の突然の手足の麻痺やしびれ、激しい頭痛、胸痛、中等度以上の腹痛、大きな出血、中毒、中等度から重症の火傷、けいれん、重症の頭部、頸部、背中の外傷などです。生命にかかわるような事態では、すぐに911に電話し、救急隊(EMT)の助けを求めてください。ただし、これらの振り分けはあくまで一つの目安です。判断が難しい場合には、Hospitalの救急部を受診するのが安全でしょう。(…)

こばやしクリニック「夜間、休日の救急受診:Urgent Care Centerについて」より

 結局、症状が出始めてた日から2日経った後、受診を決めた。

救急外来への滞在は、半日覚悟で。そして、IVチーム出動

ある晴れた日、ERに向かった

 彼の送迎にて、13:30ウォークインでERを受診。キャッシュレス受診可能と確認済みの医療機関だ。提携保険会社「United Healthcare」VOB(Verification of Benefits、保険給付確認書)とパスポートを受付に提出する。
 「あら、今日誕生日なのね!」と言われ、やっと今の状況を自分ごとに感じ始めた。そうか、私は誕生日にアメリカのERにいるんだ。彼と一緒にいるのに、急に心細くなってきた。

 1時間ほど待って名前が呼ばれ、看護師による身長と体重の測定、体温測定、血圧測定…そして、恐らくERのプロトコールに沿った
「今、自分や他人を傷つけたいという気持ちはありますか?」
「今滞在している場所は安全ですか?」

という質問も受けた。声や表情のトーンは変えず、さらっとスクリーニングしてくれた印象だった。

 続いて、ようやく医師の診察が始まった。ニューヨーカーより速いんじゃないか?と思うほどの早口英語で診察を受ける。ある程度英語に慣れていても、受け答えが難しかった。続いて触診。「尿検査をやってみましょう」とのこと。 
 尿検査の結果は問題かったが、その後の血液検査でなかなか血液が採取できず、IVチームまで出動することになった。超音波で静脈の位置を探ってもらい、やっと採血完了。血管が細いのか見えづらいのか、20代の頃からルートが確保しにくいと言われており、ベテランの看護師さんに採血してもらうことが多かった。のだが、今回専門のチームまで出てきてもらって、何とも申し訳ない気持ちだった。
 その後、痛み止めの点滴造影CTを施行。初めて造影剤を使用したが、身体が熱くなり頭がふわーっとした不思議な感覚だった。

 診断はGERD(胃食道逆流症、GastroEsophageal Reflux Disease)。市販薬のPepcid(ファモチジン)を30日間服用して下さいとのこと。
※アメリカでは市販薬だが、日本では処方せん医薬品である。

 (…)胃酸逆流(いさんぎゃくりゅう、acid reflux)とも呼ばれ、胃の内容物が食道に侵入する慢性的な状況であり、症状や合併症を引き起こしうる。症状には、口内の酸味、胸焼け、口臭、胸痛、嘔吐、呼吸障害、歯の摩耗などがある。合併症には、食道炎、食道狭窄、バレット食道などがある。
 リスクファクターには、肥満、妊娠、喫煙、裂孔ヘルニア、特定の薬の服用がある。関与する薬物には抗ヒスタミン薬、カルシウムチャネル遮断薬、抗うつ薬、睡眠薬がある。胃酸逆流は、胃と食道の接合部にある下部食道括約筋の不十分な閉鎖によるものである。単純な方法では改善しない患者には、胃カメラ、上部消化管X線、食道pHモニタリング、食道内圧測定などの検査がなされる。(…)

Wikipedia「胃食道逆流症」より

 チキンウイング、ステーキ、パンケーキ、ハンバーガー等の暴食とストレスが祟ったに違いない。また、私は慢性じんましんで10年以上抗ヒスタミン薬を毎日服用しているため、その影響も否定できない。治療薬が新たな病気を引き起こすなんて、皮肉な話だ。

何が何でもキャッシュレス受診を希望

 帰る時に受付の方に再度確認。「帰っていいと医師から言われたんですが、私の加入している保険会社へそちらから直接請求していただける(つまりキャッシュレス受診)ということでよろしいですね?」
 受付さんは少しPCで何かを確認してから、こう答えた。「United Healthcare Internationalは対象ですが、United Healthcare Globalはキャッシュレス受診の対象ではありません」
 
何ですと?

確かに「United Healthcare Global」ですわ…

 仮に医療費を患者が一旦立て替えるにしても、この受付で支払いをするのではなく、後日請求書を一時滞在先(彼の実家)へ郵送するとのこと。病院を出発したのは19:00。約5時間半のER滞在だった。
 上記の案内を受けたと、帰宅後海外旅行保険会社Aに伝えたところ、受診した医療機関へ直接連絡を取ってくれると回答があった。今後は、下記いずれかの流れになるとのこと。

  1. 医療機関が、海外旅行保険会社Aもしくは提携保険会社「United Healthcare」へ直接請求を行う

  2. 医療機関から届いた請求書を私が海外旅行保険会社Aへ転送し、海外旅行保険会社Aもしくは提携保険会社「United Healthcare」が支払い等の処理を行う

つまり、いずれの場合も患者である私の負担はない。
 彼の両親宅を一時滞在先として医療機関へ伝えたが、約3ヶ月が経過した現時点で請求書は届いていない。良きに計らってくれたようだ。

中長期的には、結果オーライ

 ほどなくして母の状態は改善し、マスクを着用して距離を空けながら、予定していたいくつかのイベントを一緒にこなすことができた(父も彼の両親も、感染せず)。特にロサンゼルス・ドジャース対ピッツバーグ・パイレーツの観戦は、私の両親が非常に楽しみにしていたため、一緒に楽しめたことの意味は大きかった。

弱い雨がちらついていたが、試合は中断することなく進んだ

 私の体調はというと、シンガポールに帰国してからもしばらくはうどん、そうめん、スープしか食べられない日が続いた。指示された薬を飲み切るまでは、辛い物を控えた。この間、2kgしか体重が減らなかったが、今もその体重はキープできている。そして、今では食べた物によってたまに胃もたれ、胸焼けが起こる程度。ということで、中長期的には、結果オーライだった。


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