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眉村ちあき「冒険隊 〜森の勇者〜」MVを細かく見ていく③

はじめに

前々回前回に引き続き、眉村ちあき「冒険隊 〜森の勇者〜」のMVについて語ります。前々回では、このMVが細かいところまで凝った作りであること、情報量が半端ない映像であることを見てきました。前回では、この映像が、楽曲「冒険隊 〜森の勇者〜」の歌詞や、歌い手の眉村さんを十分に表現しているということを見てきました。今回はもうちょっと踏み込んで、各場面から読み取れることを順番に語っていきたいと思います。

まずはMVを見てくださいね。できれば3回とかもっと見て、大まかな流れを頭に入れておいてください。

それでは、順番に見ていきたいと思います。

3人の登場

MVの冒頭で主要登場人物の3人(コンちゃん、ちあき、フトシ)が出てくるわけですが、その前に、最初の最初には、逆回しのため息のような不思議な音とともに、空に登っていく教科書や文房具類が見えます。

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これ、何なのかというと、「頭の中で時間が逆回しになっている、つまり、過去の出来事を振り返っている」ということをあらわしているんですね。具体的にどんな出来事を振り返っているのかというと、ここです。

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MVのクライマックス、穴に落ちそうになったときにコンちゃんが流した涙でもってフトシがアノマロカリスみたいな古生物に変身し、壁を突破すると、無数の教科書や文房具類が降り注ぐ不思議な空間に出てくる。このシーンを回想しているんです。過去に(昨日に?)冒険をしてきたけれど、それはもう終わって、回想の対象となり、新しい環境に向かっている、といったところでしょうか。

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自動車の向かう方向にも注目です。右に向かっている。ちょっと調べた程度なのであまり詳しくはないんですが、映像の文法として「右(上手)方向に向かう=ポジティブ、未来、前進」「左(下手)方向に向かう=ネガティブ、過去、後退」などといった意味があるのだとのこと。そうすると、この右に向かうシーンは、冒険を終わらせて新しい気持ちで未来に向かうところだ、と取れるわけです。

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じゃあどこに向かうのか。車の中を見てみましょう。後部座席の後ろには段ボール箱があります。ちょっとしたお出かけではなく、どこかに住まいを移すレベルの荷物の一部のようです。引っ越しでしょうか。大きなものは業者に任せ、小さな手回り品や、すぐに必要になるものだけを取りまとめて車で移動しているのでしょうか。おそらくそうでしょう。ただ、断定するには材料が足りません。なぜかというと、他の2人、ちあきとフトシには引っ越しの描写(段ボール箱が積み上げられた部屋等)があるのに、コンちゃんには何故か、MVをよく見ても引っ越しの描写がないからです。
もういちど上のシーンを良く見てみましょう。なにか不自然な点がありませんか。そう、家族で車に乗っているはずなのに、みなマスクをしている。ふつう、親子で家にいるとか、車で移動するとか、そういうときにはマスクを外しませんか。マスクをしている意味はただひとつ、車内の3人の中にコロナ患者の濃厚接触者がいて、陰性なんだけど、万が一の感染の可能性があってマスクをしている。おそらくそれはコンちゃん自身でしょう。マスクをして、さらにゴーグルまで掛けているのは、万が一にも感染させないように他の2人に気を遣っているのです。
そう考えると、前の座席に座っている2人も両親なのかどうか怪しいものです。ひょっとして、コンちゃんの両親がコロナに感染し入院してしまったので、コンちゃんを親戚(運転席と助手席の2人)が一時的に引取り、必要最小限の荷物だけ車で移動させている、というシーンなのではないでしょうか。
とはいえ、場面の明るさとか、車の進行方向とか、冒険を回想している様子などを見てもさほど悲壮感はない。ので、両親の病状はさほど深刻なものではなく、親戚に引き取られる期間もそんなに長くはなく、すぐに本来の引越し先(高知県から東京都日野市への引っ越しであるのは前々回で見たとおりです)で新しい生活を始められるのでしょう。

さて、冒頭の車のシーンが終わると、いよいよ、先ほど回想していた日の始まりです。

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2人目の登場人物、ちあきです。前々回でみたとおり、この冒険がお盆時期(2020年8月13日〜16日)であり、ちあきの引っ越しはもう済んでいることからすると(2020年7月31日が引越し日)、このシーンはお盆の帰省でしょう。右下に見える高島屋の包装紙の荷物はおそらく、持参したお中元かご仏前の品と思われます。
ちあきがスキを見て冒険に抜け出すのが左方向(下手側)であることにも注目です。冒険は(冒頭の車の向きとは逆に)左へ左へと進んでいきます。過去への旅なんですよね。昔のように、幼馴染の3人で森に冒険に行きたいという願望の方向です。

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3人目の登場人物、フトシです。お盆の法事からそっと抜け出す、その方向もちあきと同様に左方向です。
(これは余談ですが、YouTubeなどに「フトシ死亡説」がちらほらあるんですよね、この法事のシーンは実はフトシのもので、、、とか。僕はその説は採りません。なぜならば、このシーンは単なるお盆だし、フトシは座布団に座ってる=幽霊に座布団は普通は用意されない、からです)
手前に盆提灯、ナスとキュウリの精霊馬がある=お盆であることに留意ください。のちほど重要になってきます。

冒険に行こうよ

さてここから3人の冒険です。幼馴染で、引っ越しのせいで(ひょっとしたらコロナ禍のせいで)ばらばらになる3人が昔のように森に向かう、そんなシーンが続きます。

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閂を壊して立ち入り禁止区域に侵入する、その方向も左方向。

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門をくぐるとそこはもう異世界が混入している。あちらこちらに古生物が見え隠れする森を、左へ左へと進みます。

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楽しそうに、どんどん左に進みます。無邪気な動きが微笑ましい。

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と、ビニールハウスの中で、なにか決心した、心を決めたかのように目を見開く3人。

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ここから向きが少しだけ右向きになります。さきほどのシーンで何かが変わったんですね。ずっと左向き=過去を見つめ、昔のような3人だけの楽しい冒険は終わり、次に向かうために何事かをしようと決心し、右向き=未来への決意を固めた、と取れるわけです。

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教科書を焼くというちょっと衝撃的なシーン。よく見ると、コンちゃんの焼いている教科書やノートの量と、フトシ・ちあきの焼く量には差があります。フトシとちあきの教科書類は、コンちゃんの倍はあるように見えませんか。これは、コンちゃんがまだ引越し前(転校届の日付は8月25日)なので、ランドセルの中には今までの学校の分しか教科書類がないが、フトシとちあきは引越済みなので、ランドセルに古い学校と新しい学校の分のふたつぶんの教科書を入れてきたのではないでしょうか。よく見ると、ちあきのランドセルからは同じ数学の教科書が2冊出てきたり、

フトシのノートに書かれたクラスが「4年3組」「4年2組」の二通りあるのもそれを裏付けています。
いずれにせよ、教科書を焼くという行為を通して、過去と決別したかったり、現状への不満を焼き尽くしたかったのでしょう。このへんの3人の心情がどうだったのかは、ほかに裏付けがないのでよくわかりませんが、コンちゃんに関してはすでに両親の感染が確定していた時期だったかもしれず、だとすると快癒を祈っての儀式ともとれます。

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と、教科書類を焼いた炎は姿を変え、あたかも怪物のように燃え盛ります。なぜ炎は邪悪な姿になったのか。それは、この冒険の時期がお盆だったからなのではないでしょうか。つまり焚き火が、意図せず死者を呼び出す「迎え火」として機能してしまった。過去へ過去へと向かった冒険隊が、過去との別れを決意した途端、死者=過去が襲いかかられるという皮肉な結果となったのです。

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炎に襲われた3人ですが、表情を見る限り、フトシは炎を恐れてはいないようです。何かを見つけてびっくりはしている。

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それは3個のドングリなのですが、フトシがなぜこんなにびっくりしているのか、どう物語に関係してくるのか、はまた次回に続きます。

おわりに

長くなったので一旦切りますね。続きは気が向いたらまた書きますので気長にお待ち下さい。それでは。


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