見出し画像

氷結

無限大なちぐはぐが眼前を通り過ぎ、哀れな姿となって現れる。ヒトデの形をした星のような物体が舞い降りて、笑顔を作り出している。不思議なほどに酸いも甘いも噛み分けたかのようなその表情に影がチラついていて、俺はぶっきらぼうに片手を振り落として、そのヒトデみたいな星をぶっ潰した。我先にと玄関口に掻き集まっていく群衆が、俺には哀れに見えて、かけちがったボタンを一つ一つ外して、上から下まできれいに収めるように組み直す。カフェのコーヒーが苦く、意志について考える日々に、自由意志があるとかないとか、まるで流れ星のように横切っていく、それぞれの思考が、俺にはあまりにも眩しい。くらくらと、海が見えたり、エモーショナルな子供のころの記憶が蘇ったり、スナックの看板の色がイエローであることに感傷的になったり、そうこうしている間に、メントスを口の中に入れていたりして、どこまで流されていくのだろうと思う。マリオの新作が出ると聞いて、楽しみにも思うが、買う予定はなく、毎度、お金の使い道をよくケチる。何をしたところで意味を感じないようにはなりたくなくて、今日も一応は頑張ってみているつもりなのだが、頑張っているという意識が、俺には酷く矮小なもののように思えてならない。独り言をこぼす初老の男性。スマホばかり見ておしゃべりがはかどっていないカップル。彼氏だろうか、陰キャという言葉を使っているのだが、それでいいのだろうかと思った。陰キャ陽キャでくくることのつまらなさを考える。人には明るいところもあるし、暗いところもある。自分は陰だと思いたくないから、余計に陰キャとレッテルを貼って、相手との距離をとることで自分の優位性を守ろうとしているのだろう。俺にはそれが酷く残酷なことのように思える。俺がヒトデをぶった斬るくらい残酷だ。悟りたくても悟れない。美輪明宏や瀬戸内寂聴のことを思い出した。品を感じると、安心する。品には安心感がある。下品なものには不安を呼び起こす力がある。まだまだ頑張り足りないような気がする。昨日、口の中に入れたメントスがアップル味だったことを舌はまだ覚えている。目を瞑ると星空が見える。水族園に行きたい。動物園に行きたい。行きたいなら行けばいい。ああじゃない、こうじゃない。そんなことを考えていると、どんどんうつろになってくる。弟は今どこで何をしているだろうか。俺は今ここで何をしているのだろうか。思考の整理をしているのだろうか、承認欲求を満たしたいのだろうか。お金を稼ぎたいのだろうか、好きなものを買いたいのだろうか。下品な笑い声が聞こえてくる。イラッとする。イラッとする自分を顧みる。こういうときはきっと休んだほうがいいのだろう。腑抜けている。帰り道のついでにどこか寄れる店はないだろうか。Googleマップを頼りに調べることになるが、クーラーが効きすぎていて寒い。逃げ場はどこにあるのだろうか。

苦しいからこそ、もうちょっと生きてみる。