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「最難関のリーダーシップ―変革をやり遂げる意志とスキル」書評

はじめに

こんにちは。GLOBIS 学び放題 / GLOBIS Unlimitedのエンジニアリングマネジャーをしている渡辺(@mshrwtnb_)です。

この記事ではハーバード・ケネディスクールのハイフェッツ上級講師著『最難関のリーダーシップ』(The practice of adaptive leaderhip)の書評を紹介していきます。環境変化に応じて、自分や組織を"適応"させていく「アダプティブ・リーダーシップ」を説明した一冊です。

概要

本書は組織の適応を促すリーダー向けに書かれた書籍です。リーダーが遭遇する課題を「技術的問題」(Technical Problems)と「適応課題」(Adaptive Challenges)に分類し、それぞれを区別し対応していく重要性が説かれています。リーダーがやりがちなミスとして、適応課題を技術的問題として対処してしまう例が挙げられると指摘されています。例えば、企業合併の際に、業務システムや制度を統合をしたが、人々の価値観、信念、優先度、忠誠心などが統一されず、シナジーがいまいち生まれないといった例です。本書はこのような人や組織を巻き込み、適応を促していく方法(=アダプティブ・リーダーシップ)を順序立てて紹介しています。ノウハウ本にありがちな立て板に水な印象は受けず、むしろ経験豊かなメンターに心構えも含めて指導を受けているような読了感を受けます。

学びのポイント(抜粋)

  • 「技術的問題」とは問題の特定、解決法が明確なもの。かなり複雑で重要な場合もあるが、すでに解決策がわかっており、既存の知識、高度な専門知識などで対応可能。一方、「適応課題」とは問題の特定、解決のいずれにも学習が必要。人々が厳しい現実を直視し、一時的な痛みや失望や恐怖を受け入れることが求められる。人々の優先事項、信念、習慣、忠誠心を変えなければ対処できない。リーダーは人々の喪失の感情にも配慮、支援する。

  • すべての組織は、一つの全体的なシステムではなく、一連のサブシステムの集まり。自分の周りで起きている状況を多様な視点でとらえるには、「構造」「文化」「習慣的対応」を見ていく。

  • 人の解釈は、より技術的なものに、より対立のないものに、より個人的なものに引き寄せられていく。簡単で努力を要さないものに引き寄せられていく。

  • 適応力の高い組織の特性

    • 「エレファント」(重大で皆に認知されているが見て見ぬ振りをされる問題, Elephant in the room)を指摘する

    • 組織の将来に対する責任が共有される

    • 自主性のある判断が期待されている

    • リーダーシップを育てる力が発達している

    • 内省と継続的な学習が日々の業務に組み込まれている

  • リーダー自身も仕事以外で適応力を備えるために、能力の及ばない領域へ踏み出す。能力の限界を超えるときには方向を見失ったり困惑することがよくある。これを軽減するには職務上の適応課題とは関係なく、体系化された安全な環境で要求水準の高いスキルを身に付けるチャンスを見つければ良い。自分の均衡をあえて壊す
    (例)新たな趣味を始める、新たな言語を学ぶ、地域のNGOに参加するなど

開発現場における示唆

ソフトウェア開発の現場では、スクラムがよく用いられます。スクラムは3本柱(検査、適応、透明性)に立脚しています、ここでの適応とは開発プロセスやプロダクトへの調整を指しています。
筆者の感覚にはなりますが、スクラム導入により、行動→結果→改善といったシングルループ学習は発生しやすくなるものの、自らに適応を課すようなダブルループ学習の発生は必ずしも伴わないように感じます。
前提に立ち返る習慣がチームにはあるか?課題を技術的問題・適応課題に区別し、対応できているか?自分たちの習慣的対応を自覚し、時折見直しができているか?自分たちの在り方について、ときには耳が痛くとも建設的な話し合いができているか?お互いに支援をできているか?ーースクラムチームではレトロスペクティブにて、組織全体では日々の1on1などを通じて、本書が例示する適応力の高い組織像と現在のチームの姿を評価してみることで、評価や課題感の相互理解、さらには次への第一歩が生まれていきそうです。


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