見出し画像

稲城のガンダム

 東京都稲城市は神奈川県川崎市と境を接する多摩地域南部の市で人口は約9万人。京王電鉄や小田急電鉄の支線が走るようになり、住宅地として人口が増えてきたが、もともとは梨の産地として知られている土地である。筆者自身は何も縁はない。知人に一人稲城市に住んでいる方がいるくらいのものである。
 土地勘もないのだが、以前、南武線が何かの事故で運転を取りやめた時に稲城長沼駅で長い時間停車することになってしまった。仕方ないので、通過するだけで降りたことがない駅の周辺を探索しようと思った。ところが残念なことに駅の周りには商店街もショッピングモールも小洒落たカフェも見当たらなかった。唯一、立ち食いそば屋の"なかむら"さんという店が営業していた。ちなみに、この店はコロナ禍を経た現在も繁盛している。
 かれこれ7〜8年前に何の印象も残さず終わった稲城探訪だったが、今年の3月にガンダムのモニュメントがある!という情報をSNSで得た。いや、ガンダムにもメカにもアニメにも特段の興味はなくて、あの何もなかった稲城に何故?という完全に野次馬というか冷やかし的な関心が湧いてしまったのだった。
 カバー写真が現地に赴いて撮影した件のモニュメントである。向かって左の赤いモニュメントはシャー専用のザク、右側がガンダムだが、その右にもう一つ小さなキャラクターがいる。これは"稲城なしのすけ"というご当地キャラクターである。前述したとおり稲城は梨の産地なのである。稲城のガンダムは横浜のガンダムファクトリーと比べるとサイズ的には可愛いが、その出来はなかなかのものである。
 それもそのはず、そもそも、どうして稲城にガンダムのモニュメントなのかと言えば、ガンダムなどを手がけたメカニックデザイナーの大河原邦男さんという方が稲城のご出身なのである。詳しい経緯は知らないが、稲城市の行政が町おこしを考えた時に、大河原さんに白羽の矢を立てたに違いない。このモニュメントが公開されたのは2016年4月のことだったが、オープンに際しては声優の古谷徹さんも招いて賑々しくセレモニーが挙行されたようである。

 私が無知なだけで、この大河原邦男さんという方、斯界では著名なメカニックデザイナーだということがわかる。『科学忍者隊ガッチャマン』、『ヤッターマン』をはじめとするタイムボカンシリーズも大河原さんがタツノコプロにいたことがあって、手がけたものだそうだ。ガンダムはよく知らないけれどタイムボカンはわかる!
 ご実家が機械を扱う仕事を代々営んでいて、家の倉庫にある機械部品を遊び道具代わりに工作に励む少年時代を過ごしたそうだ。以下、wikipedia情報になるが、もともと漫画家やアニメーターになりたいと考えていたわけではなく、業界に入ったのも偶然だった。だから、メカデザイナーとして目指しているのは、監督が求めているものを提供する完璧な職人であることだそうだ。
 また、他のメカデザイナーはメカよりも絵が好きな人ばかりだったのに、大河原さんはメカやモノを作るのが好きで、1970〜1980年代のロボットアニメ全盛期にはそのことが有利に働いたという。というのも、1970年代以降、アニメのスポンサーは主に玩具会社になったため、変形や合体をプレゼンテーションしなければならず、その際、大河原さんは他のデザイナーのように絵を描くのではなく、立体模型を作っていたのでクライアントの理解を得やすかったのだそうだ。
 こういうプロフェッショナルの仕事の話って面白いなぁ。ところで、前述のご当地キャラクター"稲城なしのすけ"のデザインも大河原さんが手がけたそうである。なお、稲城長沼駅にはカバー写真のモニュメントの他に、装甲騎兵ボトムズのモニュメントも設置されている。また、同市内には臨済宗建長寺派の禅寺である妙覚寺もあり(最寄りは京王よみうりランド駅)、梅が綺麗な落ち着いたお寺だった。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?