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カップ地酒

 どちらも近年、歩いていける町中に開店した二つの飲食店なのだが、そう言えば、カップの地酒を提供している点が共通している。共通しているのは、それだけではなくて、一方は焼き鳥屋さんで他方はもつ焼き屋さんと、串もの・焼きものという点も共通。さらには、開店したのが3年前の2020年のことでコロナ禍の逆風の渦中だった点も共通している。

 カップ酒と言っても、コンビニでも買うことができるワンカップ何とかを店で出して、そこにマージンを乗せて売ろうとしても、客にとっては面白くも何ともない。中には、それなら酒屋の角打ちに行くよ、と考える客もいるかも知れない。しかし、それが例えば山形や広島や遠くの酒処の名の知れた酒蔵の地酒だったら、どうだろう。日本酒好きだったら嬉しくなる。

 味が濃い、焼き鳥やもつ焼きと合わせるのには、純米吟醸や大吟醸のような高級な酒でなくてよい。本醸造でよし、純米酒ならなおよい。それなら価格の設定もお手頃ですむ。日本酒の通でなくても、好奇心から、あるいは旅情を誘われて?味わってみたいとオーダーする客がいても不思議ではない。

 おそらく町の気楽な焼き鳥屋やもつ焼き屋で地酒を提供するのは、ちょっとした冒険ではないか、と思う。料理との相性からも、昨今の嗜好の傾向からも日本酒よりも焼酎の方を好む客が多いだろうから。ホッピーにキンミヤ焼酎など、発明だと思う。また、生のレモンやグレープフルーツを絞ったチューハイなども串ものによく合うと思う。

 だから、焼きものを提供する大衆的な店で日本酒を注文する客はおそらく少数派だろう。酒蔵がある地域なら、そこの地酒か、東京都内だったら反対に灘あたりの全国ブランドの手頃なお酒ということになるだろう。一升瓶で仕入れて燗をつけるか、常温で提供する。焼酎と比べると回転が悪いから銘柄を絞ることになる。

 そこへ行くと、カップ地酒は店が注文する時のロットサイズを小さくしながら、ヴァラエティーに富んだラインナップを用意できる。売れ方を見ながら補充していけばよいし、飲みきりサイズのカップ酒は保存するにも都合がよい。一升瓶は栓を開けた時から酒が空気にふれて味が変わっていく。カップ酒なら、その心配はない。更に空いたカップは、そのままリサイクルに出せばよいから、グラスやお猪口を洗う手間が省ける。

 これは蔵元にとっても流通販路が広がってよいことなのではなかろうか。国税庁の統計によると日本酒の出荷量は、昭和48年度(1973)のピーク時の177万KLから令和2年度(2020)には約1/4の41万KLまで減少したそうだ。今、蔵元では高く売れる吟醸酒や、海外販路に活路を見出そうとしているが、普通酒よりもちょっと良い酒が国内でもっと消費されたら良いことだ。

 つまり、地方の地酒のワンカップ製品が大都市圏に出回ることには、低落傾向にある日本酒の消費を下支えする意味もあるのではないのかな、と期待したいのである。ワンカップの地酒を提供する店が増えてくれるとよいな、と思う。

 

 

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