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デフレと二郎系ラーメン

 一年前の今頃、横浜家系ラーメンの大和家が二郎系ラーメンの田田(だだ)と提携して、二郎系っぽいラーメンを提供するという事件?があった。まるで、家系が二郎系の軍門に降ったような気がしたものだ(大げさか😅)。要は、二郎系ではないラーメン店も二郎に似たボリューミーでコテコテしたメニューを客寄せに使いたくなるほどの二郎系人気なのである。

 二郎系ラーメンを愛してやまない方々は「ジロリアン」と自称していらっしゃるらしい。そしてジロリアンの間には、「二郎はラーメンにあらず、二郎という名の食事である」という格言があるそうだ。まさか毎日三度食べる人はいないだろうが、この格言が意味するところは、二郎は三度の白飯のように自然に食べるものという含意があるのではないか。言ってみれば、ジロリアンにとって二郎は食習慣なのかも知れない。

 なぜ習慣化するのか?以下、もっともらしい仮説である。ヒトや動物の脳内には「報酬系」と呼ばれる神経回路があって、ネズミに濃縮された油や砂糖を与えると、食欲にブレーキがかからず、ぐんぐん食べて太ることが実験でわかっている。二郎系ラーメンのスープには甘みがあるが砂糖が使われているかどうかはわからない。ただ、「ラーメン二郎」(二郎系の本家)のスープにはみりん風調味料が用いられているという。背脂については言うまでもない。

 つまり、二郎系ラーメンとは「報酬系」神経回路に刺激を与えて二郎を食べることが習慣化する味覚を備えた恐るべき「食事」なのである。では、日本人の伝統的な味覚をも破壊してやまぬ(大げさか😅)二郎系の怪進撃はいつ始まったのか?それが前述した大和家と田田の提携を知って新たに抱いた疑問だった。

 前置きが長くなったが結論は短い。やっぱり思ったとおり、バブル景気が弾けて散って、失われた二十年などと言われた平成デフレ不況に世の中が陥った時代だったのである。ジロリアンには叱られるかも知れないけれど、やはり、二郎系のチープでジャンキーな味覚とボリューミーで圧倒的なコストパフォーマンスはバブル景気の時代には流行らない。100円ショップと同様に平成不況という環境で伸びたものだと確認できた。

 今日現在、全国に二郎系ラーメン店がいくつあるのか知らないが一説には870店舗ほどではないか、という記事をみかけた。その中で本家本元の「ラーメン二郎」の直営店またはフランチャイズ店は50店舗より少しすくないくらいらしい。 さすがは専門家というか愛好家というか、ジロリアンのブロガーの中には貴重なデータを集めて開示しておられる方がいて、各年(西暦)ごとのラーメン二郎の開店の推移を知ることができた。

 東京都港区三田の慶應義塾大学の近隣に今も存在するラーメン二郎が二号店を目黒にオープンしたのは平成不況が小康状態を迎えた1995年のことであった。1968年に創業以来、それまでラーメン二郎は本店の一軒しかなかったのである。そして簡単にまとめると二郎の直営・フランチャイズ店の開店の推移は次のようになっていた。
1995年〜1999年  5店舗が開店  累計6店舗
2000年〜2004年  15  〃      〃 21〃
2005年〜2009年    7 〃                      〃  28〃
2010年〜2014年       6 〃                      〃  34〃
2015年〜2019年       5 〃                      〃  39〃
2020年〜2022年    3 〃                       〃  42〃

 私も三田に二郎という名物的ラーメン屋があるのは知っていたが慶応の学生とイメージが結びつかなかった。ちなみに高校同級生で慶応OBでもあるやんごとなき友人たちに二郎を食べた御仁はいない。おそらく体育会系学生の御用達だったのだろう。1995年までは知る人ぞ知るというか、ごく一部の好事家しか知らないような、特に美味くはないけれど量がものすごくてクセになるらしいラーメン屋という風聞だったと思う。ついでに当時は外見も◯くて女性が来店するとは思えなかった。

 二郎系ラーメン店が増殖する端緒となった平成不況の前、世はバブル景気に浮かれていた。私は当時、福島県に住んでいたので、東京の軽佻浮薄な風潮は遠い国の出来事のように感じていた(ただ、株に手を出して後悔することになった人は身近にもいた)。食文化という切り口では、テーブルマナーも覚束ないチャラ男くんたちがカノジョをもてなすために高級レストランを予約し、にわかワイン通が知ったかぶりをして、フランスよりも早く解禁される若い酒に高い金を出して馬鹿騒ぎをしていたのだ。

 当時のチャラ男くんたちも今はそろそろ還暦に近づいているのだろうか。彼らもその後の不況で辛酸を嘗めたに違いないが、そのジュニアたち世代の食習慣の一翼を担っているのが二郎系ラーメンだとは世相の移り変わりの著しいことである。

 開店数の統計データは、ブロガー「むさしの日記」さんの労作「ラーメン二郎早見表」を参考にさせていただいた。ありがとうございました。
http://musashinonikki.fc2web.com/jirohyo.html

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