選挙と広告メディアの未来
2024年10月31日(木)のNACK5『Good Luck! Morning!』内「エコノモーニング」では、こんなお話をしました。
先週末が日本の衆院選、そして来週5日がアメリカ大統領選挙ということで、選挙ウィークですね。そこで今日は、選挙の中身ではなく、「選挙キャンペーンと広告・メディア」というお話をしたいと思います。
(太朗さんは、今回の選挙キャンペーンのSNS利用などで何か印象に残った出来事などはありますか?)
まず今回の衆院選で躍進した立憲民主党と国民民主党、れいわ新選組の3党に注目してみたいと思います。まず立憲民主党は、比例の得票数はじつはそれほど増えていないんですよね。ですから今回の立憲民主党の勝因は、小選挙区で自民党に競り勝って議席を増やしたということだと思います。そしてメディアの専門家として注目したいのは、国民民主党とれいわ新選組の躍進です。この2つの党は特に、若者の支持を大幅に増やしたということが朝日新聞の調査結果でわかっています。この背景には、両党のネットメディア戦略があるだろうと思いますね。特に国民民主党は、玉木代表と榛葉幹事長の2人が前面に出て、YouTube ライブなどネットの生放送を使って視聴者と対話して親しみやすさをアピールしたこと、そして短く分かりやすいメッセージをショート動画にしてXやYouTubeショートなどで拡散させていたことが目立ちました。れいわ新選組も、同様です。
ちなみに自民党は、特に選挙のときは毎回、SNSを非常に保守的に使うということが知られていまして、今回もその通りだったと思います。基本的には批判を受ける立場ということもあり、SNS上で政策論争はしないで、どこで演説をやるのか、という支持者向けの告知が中心だったようですね。
次に、アメリカ大統領選挙に目を向けてみたいと思います。アメリカでは、おそらく日本以上に選挙キャンペーンにさまざまな技術が導入されていまして、4年に1度の大統領選挙は、その後数年間話題になるような技術の新しい使い方が見えてくる機会だと私は捉えています。たとえば2004年には、民主党の予備選で有力候補となったハワード・ディーンという人がブログを活用してマスメディアではないところで積極的な情報発信を行い、支持者もネットを通じて集会を組織したり小口献金を集めたりして、ネット選挙運動の新たな形をつくりました。して2008年にはオバマ大統領がTwitterやFacebook、YouTubeを駆使して支持者のコミュニティを築きました。2012年に再選した際には、ビッグデータ分析に基づいて有権者の性別・年齢・居住地・興味などを把握し、相手に合わせて細かく広告や演説の内容を変える効果的な選挙キャンペーンを行いました。
2016年の大統領選挙では、トランプ大統領がTwitterの派手な言動で目立ったイメージが強いですが、じつは勝利の背景には、データ分析やマーケティングの専門家を見方につけていたということがありました。ただしこのときは、個人情報を徹底的に活用して、心理学に基づいた揺さぶりをかけるようなことをしたということでケンブリッジ・アナリティカ問題というスキャンダルになりました。
そして2020年の大統領選では、バイデン氏は歴代の米国大統領選候補者の中で最も広告費を使ったといわれています。ソーシャルメディアと従来メディアを駆使してトランプ氏への批判と、民主党内の結束を図るためのメッセージ発信して、多くの共感を得ました。
そして今回、2024年の大統領選挙のカギを握るのはどんなテクノロジーだろうか、と私は注目しているわけですが、今のところは生成AIと動画を駆使した偽情報の拡散というテーマが注目されているようです。選挙戦の序盤では、バイデン氏の声を使ってあたかも本人が話したかのような偽の音声メッセージをAIで作って電話で流されたという事件が話題を呼びました。こうしたディープフェイクと呼ばれるなりすましの映像や音声を使った悪事は世界各国でみられます。
これ、本当に簡単に偽動画を作ることができまして、私も自分の動画をAIに読み込ませて、自分がとても流暢に英語や中国語で授業をしている動画を作ることができました。声も私の声そっくりで、家族に見せても最初は気づきませんでした。今度太朗さんの動画も作ってみましょうか(笑)
ところで、こうした問題に対して、企業による自主的な対策も進んでいます。2024年2月には世界的なIT企業20社が集まって、選挙に関連するAI生成の偽情報の拡散を防止するための協力を表明しました。マイクロソフトやMeta(フェイスブック)をはじめ、各社が選挙関連の対策を強化しています。
またカリフォルニア州では、SNS事業者にAIを用いた画像や偽情報のラベル付けや削除を義務付ける法律もできました。日本でも、2024年5月に改正された「情報流通プラットフォーム対処法」によって、SNS事業者に偽情報の迅速な削除対応が義務化されました。今後も、AIによる偽情報対策の制度整備が進んでいくようです。さらに、富士通・NECといった国内IT企業や東京大学・大阪大学・慶応大学などが協力して「偽情報対策プラットフォーム」というシステムをつくっていこうという取組みも始まっています。
選挙キャンペーンの後ろ側で、ビッグデータを用いたマーケティング技術が進化したり、情報の信頼性を担保するための取り組みが進んでいます。これは選挙だけではなく、近いうちにメディアや広告ビジネスにも大きな影響を与えることになると思われますので、そういう目で選挙キャンペーンを見てみるのも興味深いです、というお話でした。
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