余滴あれこれ(前篇)

10月から「後日談」を連載してきましたが、これで最終回にします。
分量が多くなってしまったので、前篇後篇に分けました。

若手研究者への後ろ向きな助言(読み飛ばし可)

私は別に有識者でも何でもないが、10年間ヒをやっていた研究者として、今後ともヒをやっていく若手研究者に少し助言したいことがある。
よかったらちょっと目を通してほしい。

単刀直入に言って、ヒ垢を施錠するのは危険なので止めた方がよい
どう危険かというと、理由は少なくとも3つある。
第1に、悪質な界隈に発展しかねない(後述)。

第2に、ヒ垢を施錠しているというだけで印象が悪くなる
今年3月まではそうでもなかっただろうが、呉座の大炎上が状況を一変させたと思った方がよい。

仮にあなたが鍵垢を利用していて、教員公募に応募したとする。
公募側が応募者であるあなたに目を止め、背景調査を開始して鍵垢の利用が判明したら、その時点で採用を躊躇するだろう。
呉座のような鍵TWを繰り返しているかも知れないからだ。

そして第3に、施錠するとかえって炎上しやすくなることがある。
鍵TWのスクショが流出した場合、完全にアウトな内容だったらもちろん炎上するだろうが、たとえギリギリセーフな内容でも「本人だってアウトな内容だと自覚してたから施錠してたんでしょ」と不利に解釈されて炎上しかねない。
本人がいくら「施錠していたのは言論の自由のためだ」とか釈明しても、通じないかも知れない。

同じ理由で、ヒ垢を匿名にするのも危険だ。
検索避けのため一部伏せ字の「森 Q之介」にするとかローマ字表記の"Yuichi Goza"にするとか
くらいならよいだろうが、bioに自分のresearchmapのURLを貼るなどして、
「正体を隠している」と思われないようにすることが大事だ。
匿名鍵垢に至っては最悪と言ってよいだろう。

結論としては、(若手だけでなく)研究者のヒ垢は(ほぼ)実名公開にするのが最善だ、ということになる。
もちろん、TWを全世界に公開して誰でも魚拓を取れる状態にすると、それはそれで危険がある。
だが、SNSの利用には必ず危険があるということを忘れ、「自分は鍵垢/匿名垢/匿名鍵垢だから何をTWしても安全だ」と錯覚してしまうのはもっと危険だろう。

若手研究者への前向きな助言(読み飛ばし可)

後ろ向きなものばかりではアレなので、前向きな助言も少し送りたい。
密林のほしい物リストを使った研究費募集はいいぞ
私個人の感想としては、academistみたいなところでのクラウドファンディングより簡単気軽でずっとよい。
私はこれをYouTubeのスパチャ機能から思い付いた。

こういう投げ銭用のほしい物リストを公開し、URLをbioに貼っておけば誰かが投げ銭してくれるかも知れない。
たとえ誰からも投げ銭がなかったとしても、失うものはない。

なお、ほしい物リストに欲しい本とかを載せている人が少なくないけれど、あれはよくないと思う。
第1に、小まめにほしい物リストを更新していないと、すでに欲しくなくなったけれどリストに残っていた本とかが贈られてしまい、贈る側にとっても貰う側にとっても不幸なことになる。
そして第2に、本とかの物品だと金額が固定されるので、贈る側の自由が狭められてしまう。

私みたいにAmazonギフト券だけを載せておくのは少しイヤらしいけれど、これが一番だと思う。
贈る側は金額を自由に設定できるし、貰う側も使途を自由に選択できる。
Amazon Payで調査旅行のホテル代や航空券代に充てたりもできる。

使途はGoogleスプレッドシートで公開すればいい。
まぁ、こんな自己申告はいくらでも改竄できるので、結局は信任してもらうしかないのだけれど。

ちなみに、たとえほしい物リストに欲しい本とかだけが載っていたとしても、
贈られた本が転売されないという保証はない。
なので、どっちにしても結局は信任してもらうしかない。

大事なのは、贈る側が気軽に100円や200円くらいの少額で投げ銭できる雰囲気作りだろう。
私にとっても今後の課題だ。

悪質な界隈が形成される3条件

さて、後述を予告していた「研究者の鍵垢は悪質な界隈に発展しかねない」という問題について説明したい。

まず大前提として、老若男女の研究者には頭のおかしな人が少なくない
ただし、ただ頭がおかしいというだけの人であれば、SNSの鍵垢で悪質な界隈を形成したりしないだろう。
鍵垢で悪質な界隈を形成してしまうのは、研究者本人が3つの条件を兼ね備えている場合でないか、と私は思っている。

第1に、自制困難な自己承認欲求や発信欲求がある。
数は少ないが、一部の研究者はやたらと目立ちたがる。
しかも(何故か東大出身者を中心として)、ただ研究を評価されたいとか人々に尊敬されたいとかいうだけでなく、「自分のような研究者は社会の木鐸になるべきだ」みたいな責任感や義務感がある人までいるように見える。

第2に、良くも悪くもSNSへの適性がある。
ただ自制困難な自己承認欲求や発信欲求があるというだけであれば、たとえSNSを始めても長続きしない。
適性なしにSNSで界隈を形成することは不可能だろう。

そして第3に、そこそこの狂気とそこそこの正気を併せ持っている。
ただの君子人であれば、施錠しても悪質な界隈を形成したりしない。
かと言ってただのツイ廃狂人であれば、ヒ垢を施錠して危険回避しようとせず、たとえ施錠しても求心力がないので界隈を形成維持できない。
狂気と正気の両方がそこそこにあってこそ、悪質な界隈が形成される。

これに関連して言うと、今年3月に呉座が大炎上してからも、
元界隈の頭がおかしくて悪質な研究者たちは実名公開垢でのTWを続けている。
ただし私は、そういう公開垢のことはもう放っておいて問題ないと思っている。
警戒すべきは、長年公開垢だったけれど呉座の大炎上によって施錠した元界隈の研究者たちだろう。
施錠したということはそこそこの正気があることを示しており、今後界隈が悪質化する危険がある。

呉座界隈の悪質化

過去の記事でも書いたように、呉座は2013年8月にヒ垢を開設し、2015年11月に施錠した。

呉座の鍵垢を中心として形成された呉座界隈は、いつから悪質になったのだろうか。
割と早い時期から碌でもない界隈だったのでないかという気もするが、多分(より)悪質になったのは、2016年10月に刊行された中公新書『応仁の乱――戦国時代を生んだ大乱――』が異例の大当たりとなり、呉座が飛ぶ鳥を落とす勢いの売れっ子になった時期よりも後だろう。

togetterで呉座関係のまとめを検索すると、次の4つくらいが見付かる。
一読すれば、当時の空気を追体験できるだろう。
なお、これらまとめに登場する垢すべてが呉座界隈というわけではないので要注意。

(2017年6月3日付)@gryphonjapan「「呉座ポーズ」~その起源と神話に関する考察
(2018年3月13日付)@gryphonjapan「腕を組んで、人を斬る! 呉座勇一新刊「陰謀の日本中世史」が早くも大反響。~そして大論争必至?
(2019年3月4日付)@OOEDO4「呉座勇一vs井沢元彦、直接全面戦争ハジマタ
(2019年5月8日付)@OOEDO4「「歴史学には『ホラ』も必要」〜本郷和人氏が井沢元彦氏と対談し語る/それへの反響と異論

1本目のまとめを見ると、呉座界隈の某匿名公開垢が2017年の1月と3月に

今夜も呉座さんの稼いだ印税の額を数えながら眠りにつこうかナ。。。

オレ、最近不安になるんだ……。もしかしてこのまま、呉座さんの印税で焼肉食べるって夢が叶わないんじゃないかって…。いや、それでも、#呉座さんの印税で焼肉食べたい

などとTWしており、「バカじゃねーの」という思いを禁じ得ない。

2年後の2019年1月、若手の日本中世史研究者である木下龍馬は「そうだツイッタランド行こう――日本史研究とSNS――」(『日本歴史』848)でこう書いている(実際の刊行時期は前年12月か)。

公開性が高く、シェアしやすい特徴があり、なおかつ「去るもの追わず、来るもの拒まず何を言ってもいい」という、本来のツイッターがもっているオープンな文化(多少揺り戻しもあるが)は、学術研究との親和性が高いと考える〔…〕。(pp.64-65)

ツイッターのオープンさは「ウェブらしさ」のひとつであり、学術の一ジャンルである日本史研究と親和性があって然るべきである
ツイッターが今後の日本史研究に与える影響はどれほどのものか、期待しすぎずに見守りたい。
さあともに行こう、君と目指せツイッタランド……。(p.68)

木下のこの記事は、ヒの魅力や可能性を分かりやすく紹介したものとして、当時それなりに好評を博した。
今となっては、呉座が長年「公開性」がなく「オープン」でなく、「来るもの拒まず」でもない鍵垢で「何を言ってもいい」を実践していたことについてどう思うのか、木下の見解を聞きたいところではある。

その数か月前から、「呉座たちはどうかしているのでないか」という声はすでに発せられていた。

そして、今年3月の記事「呉座界隈問題と私のTwitter夜逃げ(その1)」でも書いたように、呉座にとっても一つの画期となったのは、2018年11月に刊行された百田尚樹『日本国紀』(幻冬舎)を翌12月に朝日新聞で批判したことだろう。
これで呉座は百田の批判者としても名を揚げ、翌2019年1月以降はネット媒体『アゴラ』などで久野潤や八幡和郎、井沢元彦とも大混戦を展開した。
これに呉座界隈は大盛り上がりだったが、やはり「どうかしているのでないか」という声はあった。

同年3月20日、私が呉座から井沢への反論文を読んでTW(魚拓)すると、同日呉座が引用RT(魚拓)し、呉座のファンネルとして生駒哲郎(日本史史料研究会の公式垢)が襲撃してきた(魚拓)。

そして翌4月上旬には、呉座から井沢への応答文「本誌4月5日号『逆説の日本史』(連載第1221回)に再反論 井沢元彦氏の「反論」に答える」(『週刊ポスト』51-14)が刊行された。

これらTWを、私は当時「そうだね」と思いつつRTしていた。

魚拓(何故かあった)

翌5月上旬には、井沢と本郷和人の「逆説の日本史「令和」改元記念スペシャル対談 井沢元彦(作家)vs本郷和人(東京大学史料編纂所教授) 歴史研究家よ、行き過ぎた実証主義にとらわれるな!」(『週刊ポスト』51-17)が刊行され、呉座界隈は「井沢も本郷もバカじゃねーの」とばかりにまたしても大盛り上がり。

(2019年5月8日付)@OOEDO4「「歴史学には『ホラ』も必要」〜本郷和人氏が井沢元彦氏と対談し語る/それへの反響と異論」(前掲)

ただし、この大盛り上がりについても「どうかしているのでないか」という声はあった。

井沢や本郷にも責められるべきところはあるのかも知れないが、呉座と比較すればただの常識人になってしまうだろう。
2人をバカにして呉座を持ち上げていた連中はつくづく頭がおかしいなと、私は思っている。

呉座界隈は何故存続したか

今年3月、呉座の鍵垢が解錠されてその悪質なTWが白日の下に曝されると、多くの人から「施錠されていたとはいえ、フォロワーが3千数百もいたのにどうしてこれだけ大量の悪質TWが放置されてきたのか」という疑問の声が上がった。

呉座界隈が長年存続した理由は、次の垢のTWがある程度まで言い尽くしている。

そもそも鍵垢の利用者は他人にとやかく言われたくなくて施錠しているのだろうから、フォロワーがとやかく言いづらくなるのは当然だ。

しかも呉座鍵垢の場合、物申しづらかったのはフォロワーが変に気にしすぎていたからでなかった。
呉座は四方八方に誹謗中傷していたため、フォロワーが下手に物申せば自分も誹謗中傷の対象になる危険が大だった
一対一の対等なやりとりになるとは考え難く、悪質な取り巻きが呉座に加勢して一対多の不利なやりとりになるだろうと予測できた。
やりとりが成立すればまだマシで、ブロックされてやりとりが成立しなくなった状態でネットリンチされるかも知れなかった。

公開垢であれば、いつでも好きな時にフォロー解除すればよい。
フォロー解除してもその公開垢のTWは閲覧できるからだ。
ところが鍵垢であれば、フォロー解除すればその鍵TWは閲覧できなくなってしまい、後日閲覧したくなった時にフォロー申請して必ず承認されるという保証もない。
なので、「この鍵垢はどうかしている」と苦々しく思いつつも、なかなかフォロー解除できない構造になる
そして、実際には苦々しく思われつつもなかなかフォロー解除されないだけなのに、当の鍵垢は「自分はこれだけの数のフォロワーから支持されている」と思いやすく、他のフォロワーも「これだけ多くのフォロワーたちが沈黙しているから物申しづらい」となる。

また、たとえ告発しようと思ってもそうすることは極めて困難だった
私のように呉座鍵垢をフォローしていなかった者は、告発するための情報(鍵TWのスクショなど)を集められない。
かと言って、呉座鍵垢をフォローしている者が告発すれば、「こいつは信頼を裏切って秘密を曝露する奴だ」として吊るし上げられかねなかった。
捨て垢を作って告発するという手はあっただろうが、ほとんどの人はそこまでする気にはならなかっただろう。

大抵の不満は、小出しにされればどうということのないものだ。
しかし物申しづらい空気を作ることで、どうということのない不満は逃げ場を失って充満していき、ある時に引火して炎上に至る
今年3月の大炎上も、風通しを悪くしていたことで惹き起こされたものと言ってよいだろう。

研究者にとっての悪評

私はこれまでの記事で、呉座や河野有理が若手研究者の陰口を鍵TWするのは悪質だと主張してきた(河野については記事「河野有理のSNSにおける裏と表」参照)。
ただし、それが何故、どう悪質なのかについてはあまり理解されていないようなので、補足したい。

その悪質である理由は、ネチケット違反だからとか研究者らしくないからとかいうことだけでない。
呉座や河野のような有力研究者による陰口は、若手研究者のキャリアを絶ち得るからだ。
繰り返しになるが、「若手研究者56すにゃ刃物はいらぬ、悪評の一つもあればいい」。

今年10月、関西フランス史研究会で某若手研究者が研究発表したところ、某大学教授がヒで発表内容を歪曲してTWするということがあった。
河野も表垢でそれについてTWしている。

あの某大学教授のTWは、某若手研究者に女性蔑視者の烙印を押してそのキャリアを絶ちかねないものだったが、それでも呉座や河野がやっていたことと比較すればまだマシだったろう。
公開垢でのTWであり、某大学教授は方々から批判されてすぐに陳謝撤回したからだ。

そのような公開垢でなく鍵垢で鍵TWすれば、事実の歪曲があっても方々から批判されず、不当な悪評が拡散して取り返しのつかないことになってしまう。

なお、前回記事では書かなかったが、苅部直も2010年開設の匿名鍵垢(フォロワー数は約100)
を利用して河野の匿名鍵垢と相互フォローになっている。
そのため、2018年12月の河野のFB記事2本の背後には苅部がいたと考えるべきだろう。

鍵垢で若手研究者についての陰口を拡散していた呉座や河野の心理は、私にはあまりよく分からない。
小学生がクラスメイトの背中にこっそり「バカ」という貼り紙を貼って、バカにされていることに本人だけが気付いていないことをみんなでクスクス嘲うような心理なのだろうか。
とにかく、もう「私は若手研究者の味方です」みたいな振りをしないでほしい

後篇に続く)

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最後まで読んでくださりありがとうございました。