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新卒で広報宣伝部・広報室に配属になったことがきっかけで、それ以来、会社を変え、業界を変えながら広報の仕事を30年近くやってきました。

広報にはさまざまなタイプの仕事があり、大変幅も広いし奥も深い、非常にやりがいのある仕事です。

私の娘や、娘と同年代の中高生の皆さんにわかりやすく自分の仕事について紹介したいと思い書き始めました。前回に続き、今後数回に渡って、広報の仕事に興味がある中高生、あるいは大学生の方にわかりやすく「広報の仕事」についてお伝えしてまいります。

今日は前回の記事でちらっと触れた、社外向け広報の中から、製品広報について書きたいと思います。

製品広報

「製品広報」という仕事について、真っ先に思い浮かぶのは、「プレスリリース」ではないでしょうか?

その通り!「プレスリリース」は、広報の仕事を語る上では絶対に外せない、一番重要なツールの1つと言えます。

プレスリリース

プレスリリースは、ニュースリリースとも呼ばれる企業から発信される公式文書で、内容は「新製品」「新技術開発」「新サービス」「キャンペーン開始」「組織変更」「トップ人事」「決算発表」などなど・・・企業がお客様や一般の皆さんに広く知らしめたい事柄を、簡潔に、わかりやすく、1、2ページの長さの文書にまとめたものです。そして、このプレスリリースはお客様に直接送るものではなく、新聞・雑誌・オンライン媒体などの記者さんにあてて送るものです。記者さんはこのプレスリリースを読んで、「お、面白いな」とか「自分の読者に知らせたい内容だな」と思うと、記事にしてくださる、というわけなのです。記者の方が記事を書く「ネタ」元になるものなのです。ですから、情報は正確性と、そこで主張している事実関係を証明する「データ」あるいは「証拠」が含まれていることが必要です。

プレスリリースを構成する最低限の要素としては、

1.簡潔なタイトル

2.わかりやすく、誰がいつ何をどうするという説明(5W1H)

3.写真(なくても可)

4.問い合わせ先

5.詳細についてのURL


そして、プレスリリースで最も大事なことは、”Something New”です。新聞はなぜニュースと呼ばれるのでしょうか?そう、文字通り”New”なことを複数扱うから”News”なのです。ですから、”Something New”=「何か新しいこと」がないとプレスリリースは成り立ちません。これから起こる出来事についての発表がマストですから、すでにどこかで記事になっている、あるいは広告が先走ってしまった、キャンペーンが先に始まった、というのは基本的にNGなのです。(基本的にはNGですが、やりようは色々あります。)

そして、近年、私が特に大事だなぁと思うのは、「ストーリー性」です。小説ではないので、そんなに長々としたストーリーは必要ないのですが、開発者の製品にかける想いや、開発のきっかけになったちょっとしたストーリー、あるいは、その製品がこれからの世の中のどのように変えていくのか・・・などは、読む人の心を惹きつけます。

プレスリリース配信とその後のフォロー

プレスリリースは、基本的に、どの媒体に対しても同時配信が必要です。広報テクニックとしては、「リーク(Leak)」(発表前に故意に情報を一部の媒体に漏らすこと)という手法もありますが、いつも特定の媒体にリークをしていると、他の媒体に反感を買われたり、記事を書いてもらえなくなることもありますから、使い方には注意が必要です。お次は、プレスリリースをどうやって配信するか?というと、これは企業によってそれぞれのやり方があります。会社が上場企業などで、所属する業界の記者クラブに加盟している場合、そちらに配信(記者クラブ内のポストに投函)する方法と、会社が独自にメディアリストを持っている場合、そのリストにメール配信あるいは郵送にてお送りするのが普通です。メディアリストを独自に持っていない場合、PR Times@Pressなどのプレスリリース配信会社さんに依頼する、あるいは広報代理店、PR代理店さんにお願いする、という方法があります。そして、配信時間も、記者クラブによって決まった発表時間がある場合や、いろいろ企業によって考え方があります。月曜日は避けるとか、金曜日の午後は避けるとか。配信時間も昼は避ける、そして、新聞記事の締め切り時間に合わせて、夕方遅い時間の配信は避ける、など。

さぁ、プレスリリースも無事に配信できました!これで記事がたくさん掲載になりますか?? 

答えはNoです。

なぜでしょうか?賢明なあなたならわかりますね。

そうです。一人の記者さんに対し、送られてくるプレスリリースの数は一日数十件にもなるのです。記者の方は、取材で外出していることが多いですし、会社に戻っても取材で聞いた話を記事にしたり、調べ物をしたりで忙しいのです。数十件のプレスリリースをじっくり隅から隅まで読む時間は残念ながらありません。よほど、記者さんが何かのテーマを追ってその企業のニュースを追いかけている場合は別ですが、そうでもない限り、数十件のプレスリリースの中に、あなたのプレスリリースは埋もれてしまうのです!

じゃ、どうしたら読んでもらえるの? という疑問がわきますよね。そこで知っておいてほしいのがメディアリレーションズという言葉です。(余談ですが、プレスリリースだの、メディアリレーションズだの、カタカナばっかりだなぁ・・・と思いますよね?どうしてでしょうか。それは広報自体がアメリカから入ってきた概念だからなのです。戦後、GHQがPublic Relationsという概念を持ち込み、それを日本語で「広報」という言葉に訳したのがきっかけだと言われています。)メディア=媒体(新聞・雑誌社)、リレーションズ=関係、すなわち「媒体と良好な関係構築をすること」という意味です。プレスリリースを、名の知れていない企業の何の面識もないあなたがいきなり送り付けても、目に留まることは少ないと思いますが、あなたが記者さんとなんらかの面識があり、記者さんがあなたの会社のことをよくご存知で、さらにあなたから「○○さん、お忙しいところ恐れ入りますが、先ほどxxxxという内容のプレスリリースを送らせていただきました。お読みいただけましたでしょうか?何かご質問があればご遠慮なくどうぞ!」と一本の電話があったらどうでしょう?

「んじゃ、読んでみるかな?」という気持ちにもなりませんか?

それがメディアリレーションズ、ということなのです。記者さんも人間ですから、懇意にしている方から送られてきたリリースは無下にしません。日ごろから、信頼していただける関係づくり、を目標に、記者の皆さんとお付き合いをしていきましょう。

めでたく記者さんの目に留まり、読んでいただけたとして、記者さんが一回さらっと読んだだけでわからない部分があったり、書いていないことで質問があったりすることは当然あります。逆に、質問も出ないようなリリースだともしかしたらコンタクトしてきてくださらないかもしれません。そういう場合、記者のほうから広報担当であるあなた宛てに電話やメールで問い合わせが入ります。ですからプレスリリースを配信したあと、「配信終わった!いぇーい、仕事終わった!」と遊び歩いてはダメです。配信後、数時間は記者さんからの連絡を待つという時間が必要です。そして、プレスリリースを配信する際は、前もって「Q&A:想定問答集、あるいは統一見解」を用意しておく必要があります。これにより、広報部でほかの担当者が受けた場合でも、みんなで同じ受け答えができるようになるからです。用意していたQ&Aで答えられないような質問が来た場合、担当の技術者や開発者、営業担当者などに急ぎ確認する必要があります。確認にはやはり時間がかかりますが、ここは可能な限り1-2時間以内に回答をお戻ししたいところです。記者さんは締め切りを抱えていることが多いからです。どうしても回答に時間を要する場合、その旨一報を入れて、いつごろまでお待ちいただけるか、あるいは、こちらの都合で、明日の午前中になりそうです、などとおおよそ回答に要する時間をお知らせするのが親切です。間違っても、あなたの憶測で回答することだけは避けましょう。そういうことの積み重ねが良いメディアリレーションズを構築するのですね。

記事が掲載された!

万歳!あなたの地道な努力が実り、記事が掲載になりました!で、終わりではありません。どの媒体に、どのように記事が掲載されたか、様々な媒体を読んで確認する作業=モニタリング、そしてその記事を切り抜いてまとめる(PDF化する)=クリッピングという作業があります。

これはなぜ重要かというと、

1.記事に間違いがないかどうか確認

2.間違えていたら記者に速やかに連絡し、訂正記事をお願いする

3.広報効果を測定する

4.関係各所にレポートをする

という一連の流れがあるからです。

取材対応

プレスリリース配信後、取材をお願いします!という記者さんからの依頼が入ることがあります。その場合は、まず受ける受けないの判断と、受ける場合はいつ、どういう内容で、どこで、誰が対応するのか、を調整し、日時が確定したらその連絡を、記者の方と社内での対応者へきちんと連絡し、社内で必要な諸々の手配を行っておく必要があります。例えば、会議室を予約するとか、質問リストを記者とのやり取りの中で準備しておくなどがあります。または、商品を実際に見せる場合はその実物の手配や、動作を見せる場合はデモの用意など。例えば、会社によっては、事業所が複数に散らばっている場合があります。開発の方への取材となると、本社ではなく、事業所に行く必要が生じる場合もあります。そのあたり、きちんと押さえておかないと、記者さんは本社に現れ、広報担当者と取材対応者は事業所で待ちぼうけ、なんてこともあり得ますので注意が必要です。そして、取材には必ず広報担当者が立ち会い、取材の内容を詳細にメモしておきます。ICレコーダーやiPhoneのメモ録音機能を使って録音しておくのも手です。これは非常に重要で、記者さんが取材の後で「あの時、数字をこういったと思うんですが、ちょっと不確かなので確認させてください」などと確認を求められることがあります。さらに、写真の提供や商品の貸し出しなどを求められることもあります。そして記事が掲載になったらまたクリッピングして、関係各所へレポートします。

どうです、広報の仕事、結構面倒くさいですよねw 毎回ここまで忙しくなる広報もあれば、そうでない広報もあると思います。業種や会社の知名度、商品の新規性などいろいろな要因があり、その差が生まれると思います。できれば、毎回、上記のすべてのプロセスが経験できると良いですよね。

今日は「製品広報」について書きました。私の場合、B2Bの広報経験が長かったので、必然的にそういう話になってます。B2Cの、ハイブランドやラグジュアリーを扱うような広報だとまた少しやり方が違うのかもしれません。

それでは本日はここまで。

お読みいただきありがとうございました!

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