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基礎的インテリジェンスの実践法 ~ プレゼンによる情報配布

7月10日に掲載した「基礎的インテリジェンスの実践法」では、情報配布には、① 印刷物、② データ、③ プレゼンテーションの3つの形態があるとお話ししました。
 
今回は、3項目に掲げたプレゼンテーション(以下、「プレゼン」)による情報配布、つまりパワーポイント等を用いた報告・発表の具体的な手法についてご紹介します。
 
プレゼンのやり方は所属する組織やコミュニティごとに様々な習わしがあって、表示のしかたや用語などに相違があると思いますので、ここで紹介するやり方は、あくまでも一例として参考にして頂ければと思います。
 
1 事前の確認
(1) 目 的

一般に、プレゼンを行う目的は、「聴講者に必要な知識を与え、結論へと導き、特定の行動や考え方に向かわせる動機付けをすること」とされています。
 
そのためには、プレゼンが終わったあと、聴講者にどのようになっていて欲しいかということを自分なりにイメージしておくことが肝要です(ただし、「基礎的インテリジェンスの実践法」の「5 留意事項」(4)項に記載のとおり、意思決定者を誤った方向に導く「ミス・リーディング」には注意が必要)。
  
(2) テーマ
先ず、自分に与えられたテーマ、すなわち「問い」は何なのかを考察し、どのように論旨を展開し、どのような「答え」に導くかを明確にすることから始めましょう。
 
経験が浅い人ほど、あれこれと考えているうちに段々と論旨や結論がテーマから外れてしまいがちになるので、常に基軸は何なのかを念頭に作業を進めるように心がけましょう。
 
(3) 時 間
報告や発表に与えられた時間も重要です。制限時間オーバーになったり、極端に短すぎたり、詰め込み過ぎて早口になってしまわないように注意が必要です。
 
ゆっくりしゃべって与えられた時間内に終わり、質疑応答の時間が取れるくらいがベストです。
 
(4) 聴講者
最も重要なことは、どのような相手が聴講者なのかを確認し念頭に置いておくことです。実際には、聴講者の中には様々な人々が混在していて一様ではないことが多いと思いますが、そのような中でも、自分は「主に誰に向かってこのプレゼンを行うのか」を明確にし狙いを定めておく必要があります。
 
知識・経験も豊富な上司に対する報告なのか、自分よりも知識・経験が少ない若年層に対する教育なのか、聴講者がどの程度の知識を持っているかによって、見せ方や表現法、使用する用語も変わってくると思います。
  
2 事前の準備
(1) 骨子の立案

上記を踏まえたうえで、スライドの作成に取り掛かる前に、先ずどんな項立てで話を展開するかについて、十分に時間をかけて立案しましょう。
 
限られた時間でどのような話をし、どのように展開し、どのように表現するか、しっかりした骨子さえ出来あがれば、スライドを作っていくことにさほど労力を要しないと思います。
 
骨子を考えずにスライド作成に着手すると、取り留めのない内容になってしまい、ストーリーもスライドも統一感のないものになりがちなので注意が必要です。
 
(2) 基本様式(雛形)の作成
統一感のあるプレゼンに仕上げるためには、最初に基本様式となるスライドを作っておくことをお勧めします。
 
下図のように、基本スライドにはタイトル、サブタイトル(問い)、客観的事実、根拠、凡例、小結(答え)、開示区分、作成者、日付、スライド番号などを網羅し、一貫してそれらを表示する場所、フォント(一般的にはゴシック体)、文字サイズ(少なくとも18ポイント以上)を決めておくほか、太字、下線、違う文字色を使うときのルールも決めておきましょう(斜体とか影文字はあまり使わない)。
 
塗色を使うときはできるだけ濃色の使用を避け、50%程度の透過色の設定にしておくことが無難です(濃色は、印刷するとスクリーンで見るよりもかなり濃い色で印字され、文字等がみえづらくなる傾向があるため)。
 
いずれにせよ、冒頭でも述べたとおり、自己の所属する組織やコミュニティで表示法に習わしがあるならそれを確認しておきましょう。

基本スライドの一例(Created by ISSA) 

上記の場合、上から「大手3社の動向見積もり」という問いに対し、過去5年間の実益という客観的事実を示し、最後に問いに対する答えを語るような論旨展開になります(このほか、結論(Point)を先に述べ、その理由(Reason)、一例(Example)を示した上で、再び結論(Point)に戻る「PREP法」という手法もある)。

3 スライドの作成
スライドは、立案した骨子に沿う論旨展開の路線から外れないように十分留意しつつ、前項で示した基本スライドをコピーしながら作り込んでいきます。
 
(1) ファイルの作成・保存 
手始めに、例えば「通信規制解除後の業界動向(2020.09.26 1700)」等とファイル名を決めて適当なフォルダに保存します。
 
作業中は、例えば15分に1度とか30分に1度とか適度な間隔で「上書き保存」をする習慣をつけておきましょう(パワーポイントは、稀にエラーを起こして強制終了してしまうこともあり、強制終了が発生したときは、それまでの作業が無駄になってしまうこともあるので)。
 
ただ、内容を大きく変更するときは、「やっぱり前の案が良かった」と思うこともありますので、その場合は「通信規制解除後の業界動向(2020.09.26 1815)」等、ファイル名の日時を変更して「別名保存」しておくとよいでしょう。

(2) 本スライド作成上の留意事項
〇 ワンスライド・ワンメッセージ、ワンミニッツが基本原則
聴講者をプレゼンにくぎ付けにするためには、「一枚のスライドで、言いたいことはひとつ」、「スライドを見せておく時間は1分程度」にしておくことが肝要です。
 
〇 完結明瞭に
プレゼン資料は論文ではありません。余白があるからといって話と無関係な画像等を貼ってみたり長文を掲載することは避けましょう。文章は要点のみ箇条書きとし、細部は話し言葉で補うのが原則です。
 
ただ、場合によっては発表資料は、事後、配布物としてカスタマーの目にとまることもあります。そのような使われ方が想定されるスライドは、画面の片隅に9~12ポイント程度の小文字で注釈を入れておくという手もあります。
 
〇 聴講者を考慮した適切な言葉遣い
冒頭でも述べたとおり、聴講者によって平易な言葉を使うのか、或いは、専門用語を使うのかが変わってくると思います。相手の「知識レベル」をしっかりと把握した上で慎重に言葉を選び、論旨を展開することが極めて重要です。
 
初級者に多少難しい話をするのは構いませんが、逆に、有識者に基本的な話をしても仕方ありません。聴講者が消化不良を起こし、或いは退屈するようなプレゼンは一番避けたいところです。
 
〇 アニメーションやサウンドは使わない
本番で動くはずのアニメーションが動かない、鳴るはずのサウンドが鳴らない等、アニメーションやサウンドはトラブルの元になる可能性があります。
 
ビフォー・アフターを分かりやすく表現するなど、どうしてもアニメーション的な表現が必要なときは、「次のスライドに進むごとに動いたように見せる手法」を用いればよいと思います。
 
(3) 予備スライドの作成・保存 
作成が進むと、参照した過去のスライドや、発表に使うかどうか迷うものが出てくると思います。そのようなスライドは別名ファイルで保存するか、本スライドの後尾にもってきて「非表示」に設定しておくとよいでしょう。
 
(4) 口述文の作成 
スライドの外観が出来上がったら、ノート部分に口述文を記載していきましょう。重要なことは、話す言葉と画面が一致していることです(聴講者は、見せられている画面のどの部分について話されているのかが分からないと、疲弊しやすくなるため)。
 
前述のとおり、プレゼンは論文ではないので、画面と口述は要点を抑えて少なめに作りましょう。口述は、最後の質疑応答の時間や交代時間なども考慮し、ゆっくりしゃべって遅くとも制限時間の5分前までには終わるように作成します。
 
また、別にクリッカーがいるときは、各スライドの口述の最後に「次、お願いします(Next slide, please.)」の言葉を入れておきましょう(終了後の質疑応答では、前のスライドに戻って表示することが予想されるので、クリッカーには、指示されたら「スライド番号+Enter」でスマートにジャンプ表示できるよう、予め調整しておく)。
 
(5) 応用編:2画面を用いて実施する場合
サブ・スクリーン(副画面)がある場合は、例えば左側をメイン・スクリーン(主画面)、右側をサブ・スクリーン(副画面)として使い、サブ・スクリーン(副画面)には補完的な情報のみを映して不要時は黒画面にしておくなど、使い方について一定のルールを決めておく必要があります。

4 スライド完成後
(1) データ、紙の準備

完成したスライドは、一度、画像ファイルを圧縮するなどして、できるだけファイルサイズは小さくしておいた方が無難です(ファイルサイズが大きすぎると、万一、発表会場のパソコンの処理能力が低かった場合にトラブルになりがち)。
 
その後、発表する現場に携行するデータや配布資料の準備をします。発表する現場には、可能であればメールや共有ドライブなどを通じて事前に送付するほか、バックアップとしてUSB等に格納して携行することも考えておきましょう。
 
紙で資料を配布する場合は、例えば1ページあたりの表示スライドを2枚とし、両面印刷するなどして紙資源の節約にも努めましょう(先方に、コスト意識の高さを印象付ける効果もある)。
  
(2) 現場確認
普段と違う場所で報告・発表する場合は、聴講者と発表者・スクリーンと距離、見やすさ、声のとおり具合、先方が保有するパソコンとのインターフェース、ソフトウェアのバージョンの違い等から、様々な想定外の事態が起こりやすいので、可能な限り事前に確認しておくべきだと思います(遠隔地等で、どうしても事前の現場確認が困難な場合は、取引先等の担当者を通じて確認しておきたい事項を連絡してもらったり、逆に要望事項を伝えるなどしておく)。
  
(3) イメージ・トレーニング
プレゼンによる発表・報告は、いわば身体を使った技能教育の側面がありますので、可能であれば当日の会場で出来上がったスライドを流してみて、報告・発表要領のイメージ・トレーニングをしてみましょう。
 
更に可能であれば、会場に入るところから会場を去るところまで包括的なトレーニングができれば尚良いでしょう。
 
5 実施時の留意事項
〇 報告・発表に際しては、その場の主催者や最先任者等に一礼するなど、あいさつをしてから始めるようにしましょう。
〇 冒頭で、どのような思考過程・論旨に基づき話を展開するかを、予めしっかりと説明しておくと、聴講者の理解が進みやすいでしょう。
〇 レーザー・ポインターや指示棒を使うときは、話している箇所1点を数秒間指し示すだけで十分であり、振り回したり文字を追ったりしないでください(聴講者からみれば、かえって目障りに映ります)。
〇 聴講者には、熱意を持って、語りかけましょう。そのためには、大きな声でゆっくり話すように努めるとともに、できるだけ棒読みにならないよう、多少は口調に抑揚をつけるように心がけましょう。プレゼンをやらされてる感を出してはダメで、自分のものとして、自分で考え、自分の言葉で語りかけることが重要です。
〇 ずっと発表事項のことばかり話し続けるのではなく、時には自分の事や過去の経験から思ったことなどを交え、打ち解けた雰囲気を作り(アイスブレイキング)にも努めましょう。
視線にも注意が必要です。スクリーンやパソコン画面ばかり見るのではなく、時には聞き手に語りかけ、或いは、聞き手の理解度を確認しながら話を進めましょう。
〇 質疑応答において、即答できない質問については「確認して後ほど○○を通じて回答します」等、誠意を示すように心がけましょう(その場しのぎのいい加減な回答はしない)。

プレゼンの実践においても、6月11日に掲載した「一石三鳥の実用英語学習法(後編)」の「2 学習法(実践法)」に記載したような「役者的な練習」が必要になると思います。
 
役者的な練習とは、言語と非言語を調和融合させ新たな人格を形成する作業であり、自分なりに手慣れたブリーファーを演じるつもりで、恥ずかしがらずに、正々堂々と、大げさにジェスチャーを交えながら身体中でなりきって演じることが肝要です。

そして、プレゼンの上達には、とにかく「場数をこなすこと」が必要です。はじめは慣れずに人前で声が震えたり、膝が震えたり、赤面したり、かっこ悪いことがあるかもしれませんが、構わずに覚悟を決めて最後までやり遂げるように心がけてください。