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一石三鳥の実用英語学習法(後編)

前編では、時事ネタや自己の専門分野を中心とした机上の勉強で英語力を総合的に向上させていく手法を紹介しました。
 
このやり方だと、確かに時事にも詳しくなり、考える力も養われ、TOEICなどのスコアアップにもつながるのですが、外国人と会って話すとなると別のアプローチが必要になってきます。
 
後編では、実際に外国人と会って英語で話すことを前提とした学習法(実践法)について、ご紹介したいと思います。
 
1 考え方、留意事項等
(1) 「言語」の使い分けは「人格」の使い分け
殆どの方は、家庭や職場などTPOに応じて自然に顔の使い分けをしていると思います。
 
つまり、人はコミュニケーションを図る相手集団に相応しい人格を身に着けて社会環境に適用しようとするのですが、相手が外国人の場合、彼らが持つ固有の言語、文化、国民性などに相応しい「新たな人格」を身に着ける必要が出て来ます。
 
(2) 新たな人格とは、新たな言語と非言語の融合
人間同士のコミュニケーションは、言語のみならず、かなりの割合で非言語(例:表情、目線、声のトーン、韻律、ジェスチャー、話し方、あいづち等)にも依存していて、これら言語以外の手段でも無意識に様々な情報交換を行っています(実際、音声信号しか乗らない電話や無線による英会話は、かなりハードルが上がる)。
 
外国人は、言語のみならず、この非言語の使い方も日本人と違うわけですから、外国人に会うときは、この非言語の部分もある程度習得して、言語と調和融合させる作業が必要になるわけです。
 
(3) 言語も非言語も相手によって様々
英語を話す外国人は必ずしも米英人とは限りません(世界の英語人口約15億人のうち、英語を第1言語としている人口は僅か25%)。
 
しかも、人間は母国で慣れ親しんだ音(日本人の場合はカタカナ)に置き換える習性がありますから、発音はかなり母国語寄りに訛っていたり、文法も滅茶苦茶だったり、表情が読めなかったりと、一癖も二癖もあるのがむしろ普通です。
 
英語の教材のようには喋ってくれないのが当たり前で、英語が得意な人でも、相手次第で得手・不得手があったりするものです。
 
2 学習法(実践法)
このように、実際に人と会うとなると、その時その時で相手も状況も全てが異なる訳ですから、教材自体存在しないといっても過言ではないでしょう。
 
そのため、毎回、「オリジナルの教材を独創する力」みたいなものが必要になります。このことを踏まえ、次のような学習法(実践法)をご紹介したいと思います。
 
(1) 事前の調査
先ず、初めて外国人に会うときは出来るだけ事前に相手の立場や経歴などを調べましょう(外国人に限らず、ビジネス・シーンでは当たり前のことですが)。
 
特に、相手の国民性や文化風習を踏まえ、言語と非言語の両面でどのような特性があるのかに着目して下さい(2回目以降、この手順は省略可)。

次に、会う目的を明確にしましょう(ビジネスであれば特定のテーマについての交渉や調整なのか、或いは情報収集なのか等)。
 
その上で、例えば「総選挙に伴う治安動向についての情報収集」が目的であれば、総選挙のしくみや立候補者の公約、過激派集団や反社会活動の事例などについて予め知識を深め、英語での言い方について準備する必要があります。
 
また、単にプライベート目的だったとしても、ある程度は話題を準備しておいた方が自分のためになると思います。
 
続いて、どのようなシチュエーションで会うのか(ビジネスかプライベートか、フォーマルかカジュアルか等)を確認し、またそれに応じた社交手順(後述)も整理しておく必要があります。
 
プライベート・シーンでは、そこまできちっとした社交手順はないと思いますが、その代わりにプライベートやカジュアルでは感情表現がより豊かになる傾向があります(注:前編でも述べたとおり、時折、教材を日常英会話やビジネス英会話に変えるなどして、日常/ビジネス・シーンにおける様々な表現法を補う必要があるでしょう)。
 
(2) シナリオづくり
先述した「オリジナルの教材を独創する力」が一番必要になる部分です。最初に会ったときにどんな挨拶を交わして、どのように話を展開し、どう締めくくってどう別れるか。相手の反応まで含めて、ひととおり想像しながら書き留めてみましょう。
 
なお、国際的な社交手順については一連の基本形がありますので、これについてはネットや書籍等で調べてみてください。

(3) 役者的な練習
最後に、これは後編で最も重要な部分となりますが、総仕上げとして必ず「役者的な練習」を行ってください。
 
(2)で自分なりに作成してみたシナリオを片手に、部屋の中をウロウロ歩きまわりながら、例えば、警備責任者として出向くのであれば、その者らしい人格を「演じる」練習をしてください。
 
重要なことは、恥ずかしがらずに、正々堂々と、役者になったつもりで、大げさにジェスチャーを交えながら身体中で演じきることです。
 
このとき、前編で紹介した複式呼吸での発声法や抑揚、韻律なども意識しながら明瞭な声で英語を口にすると良いでしょう。
 
このような「役者的な練習」こそが、先述した「言語と非言語を調和融合」させ、「新たな人格を形成」することに繋がるのです。
 
ここまで読むと、外国人と会って英語で話すということは、もはや机上の勉強ではないということは容易に想像がつくと思います。
 
前編で「英語は学問ではなく技能」とお話しした理由がお分かりいただけたのではないでしょうか。「技能教育」とは、すなわち「役者的な練習をさせること」なのです。
 
また、前編では「言語の習得度は必ずしも学費に比例しない」というお話もしましたが、英語教育にお金を投じるなら、このような「技能教育」を個別指導してくれる英語塾が良いかもしれません。
  
3 当日の心構え
最後に、初級者向けではありますが、実際に外国人と会って英語で話す当日の心構えについてお話しておきます。
 
(1) 初めは質問を多めにして、極力相手に喋らせる
初めは相手にたくさん話をさせると、相手は「この人は自分に関心を持ってくれている」と受け止め、相手から好意を引き出すことができます。また、初めは相手が言うことが良く分からなくても、相手に多く話をさせることで、相手が持つ独特の発音や仕草等にも慣れることができます。

(2) 相手が喋っている間に、次の質問を考えておく
質問して喋らせる、また質問して喋らせる(時々、自分を語る)ことを繰り返していると、次第にキャッチボールが続くようになります。その際、相手が喋っている間に次の質問を考えておくようにしてみてください。

(3) 相手が喋っている内容を想像しながら聞く
想像しながら聞くということは、相手を理解しようと努めることでもあります。良く分からなかったときは、「つまり、こういうこと?」と尋ねてみてください。

(4) 合間をつなぐ言葉を沢山用いる
Yeah. That’s Right. Sure. Indeed. Exactly. Really? Great! 等、合間をつなぐ語彙は豊富な方が感情表現が豊かだと思われ易く、また会話も盛り上がると思います。

(5) 言語だけに頼らない
「役者的な練習」を思い出して、非言語シグナルも総動員して意思表示するように努めましょう。

(6) 詰まったときは助け船を出してもらう
言いたいことが言えずに詰まったときは、相手の方から「つまり、こういうことだね?」と助け船を出してくれることもあります。そういうときは、遠慮せずに助け船を出してもらいましょう。

(7) 英語は英語のまま理解し反応
前編でお話したとおり、日本語と英語を行ったり来たりしていると段々と疲れてきます。最初は難しいと思いますが、慣れてきたら出来るだけ英語のままで話を理解し、そのまま英語で返すように努めてください。

(8) 難しく考えず単純な表現に置き換える
日本人はどうしても「教科書どおりの文法や表現法」にとらわれがちです。難しく考えないで、自分の意図が相手に簡潔明瞭に伝われば良いとシンプルに考えるようにしましょう。
 
(9) 別の表現方法も併せ持っておく
ある事柄について、ひとつの表現方法しかできないと、相手が理解しなかったときに行き詰まりやすいので、ある言い回しが通じなかったときは、別の言い方で理解してもらえるか試してみましょう。

(10) "All or Nothing"という考え方を捨てる
「外国人は、物事をはっきりさせたがる」という先入観は捨てましょう。重要なビジネス・シーンでない限り、必ず白黒つけないといけない訳ではありませんし、時には曖昧な回答をしたり適当に聞き流しても良いのです(日本人同士でも、適当に聞き流している瞬間があるはず)。
 
完璧さにとらわれるあまり、失敗と自信喪失の悪循環に陥ってしまっては本末転倒です(得てして自分が期待したほど器用には振舞えないもの、焦らず地道な努力の積み重ねが大事)。
 
まとめ
これはあらゆる人生の局面において共通して言えることですが、JALを再生に導いた稲盛和夫さんの言葉をお借りすると、楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する心構えが大事だと思います。
 
折角の英語力向上の機会ですから、事前の準備においては、相手の素性調査から役者的な練習に至るまで、あらゆる手を尽くすように努めましょう。そして、出来る限りの準備をしたのなら、あとは楽観的に行動するのみです。失敗を恐れず、外国人と英語で話せるその時間を存分に楽しんでください。