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陶磁迷宮都市笠間~不動の階層管理者~

 佐白山の山頂、笠間城跡にて。

 拳銃を持って、牧野は焦燥感に駆られていた。
 対陶弾にはまだ余裕があるが、相手は陶化光線を放つ上級陶磁人形――階層管理者だ。現状の武器では心もとない。
 牧野は傍らの相棒、松井を見やる。

 苦悶の声を漏らす松井の右腕は陶化されきっていた。肺も一部陶化されてるかもしれない。
 陶化された肌はいつもの白さを失い、笠間粘土をそのまま焼いた時のような、赤黒いものになっている。

「畜生、俺が油断してたから……!」

 階層管理者は迷宮の外にも現れる――ここ笠間はそういうところだと、知っていたはずなのに。
 牧野は自責の念に潰されそうになりながら、松井を救う手立てを再考する。
 治療センターに駆け込む? 駄目だ。逃げてる間に松井は完全陶化されてしまう。

「逃げろ。君のために砕け死ぬなら、本望さ」
「馬鹿野郎!」

 牧野は覚悟を決めた。
 親友を見捨てて生きる? そんな馬鹿げたこと、したくない。

「牧野……? なにを」
「アイツをぶっ壊して、対陶化剤を採取する。そうすりゃお前の体は元通りだ」
「無理だ! 生身で挑むなんて」
「ワリィな」

 牧野は物陰から飛び出し、階層管理者の手のひらに向けて撃つ。
 陶化光線の射出口、そこならば拳銃程度の威力でも十分なダメージを与えられる――だが、

「当たらねぇよなァ……なら、こいつを喰らえ!」

 牧野は拳銃を捨て、拳を振り抜いた。ファインセラミックスの義手が階層管理者の脇腹を砕き割る! 階層管理者は倒れて、動かなくなった。

「あ?」

 あまりにあっさりとした幕引きに牧野は拍子抜けする。
 だが、ぬか喜びも長くは続かない。陶化の進行は止まった、だが。

「なんでだ……対陶化剤を投与したのに、なんで腕が治らねぇんだ!」
「アレが本体じゃないからだよ」

 牧野と松井は顔を上げた先、身長の高いブロンドの女がいた。女は二人を見下ろしたまま銃を松井に向けて、

「笠間稲荷に来な。さもなきゃソイツを殺す。まだ、人間でいられるうちにね」


【続く】

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