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140字小説まとめ Vol.4

Twitterでちまちま書いている140字小説のまとめVol.4。
ほぼ、ネタ系で、仕事の辟易ぶりがうかがえる。

Vol.1はこちら

サウナ

銭湯でサウナを楽しんでいるとゾンビの大群が押し寄せてきた。サウナ室に避難民がなだれ込み、すし詰め状態となる。
「う、うわぁ!」
ついにドアも破られ、ゾンビと人が入り乱れる。阿鼻叫喚の騒ぎをなんとか抜け出し、水風呂に飛び込む。
「あぁ…」
死の間際にいるせいか、とんでもなくととのった。

OMG

「やべ、下げすぎた」
神様のぼやきに天使が首をかしげる。
「運気、ですか?」
「うむ。あそこにシステム障害でてんやわんやの男がいるだろ」
天使も下界を覗く。
「とても苦しそうですが、大事故にしたんですか」
「いや、午前が健康診断でな」神様は頭をかいた「バリウム検査で下剤を飲んでるんだ」

レストラム

「ウアザレストラム?」
駅の構内で、突然、外人に話しかけられた。
「えっ…?」
「ウェア、ザレストルム!?」
男はひどく焦っていた。いちかばちか、レストランは地下だとジェスチャーで伝える。
「アリガトネ」
男が走り去る。なんとか伝わったようだが、彼がケツを抑えていたのが気がかりだった。

ごはんですよ

大学ではじめて彼女ができた。学校終わり、ドキドキしながら彼女をこじゃれた居酒屋に誘った。
「あ、美味しいー」
アボカドの生海苔和えを食べながら彼女が微笑む。
「ほんとだ」
僕も笑った。海苔が、ごはんですよみたいだった。
「すいません」僕は店員を呼んだ「ライスください」
翌日、フラれた。

えっふぉーん

「えっふぉーん!」
自宅でくつろいでいると、突然、彼氏が狼の遠吠えのようなクシャミをした。
「風邪?」
「えふん」
「花粉症?」
「えふん」
あっ、と思ってカーテンを開けると今夜は満月だった。「ウォーン」と私は狼女に変身した。
「えっふおおーん!」
狼アレルギーの彼はつらそうだった。

ふんどし

「がっかりだね。なんとか勝ったけど内容がひどすぎる。ぜひ、日本代表にはふんどしを締め直してもらいたいね。断言するよ。こんな試合をしてたら予選突破は百パーセント、無理!」
テレビで解説者が厳しくコメントし、翌日、その発言が炎上した。ふんどしという表現をフェミニストは見逃さなかった。

【注釈】レディースのふんどしが存在しない世界観

ニュータイプ

半年ぶりに郵便受けを覗くと、紙切れが一枚、入っていた。
『これは不幸の手紙です。この手紙と同じ内容を10人に送らなければ、あなたは死にます』
僕はパニックになった。
「ハガキに切手を貼り、ポストに投函…?」
スマホで調べるが、ちんぷんかんぷんだ。手紙とは、いったいどうやって送るのだ。

誰かさん

学校の女子トイレに一人で入る。数人が廊下で見守るなか、三番目の扉をノックする。
「は、花子さん、遊びましょ」
返事はない。もっかい、と友達は茶化すが、同時に女の息づかいに気付く。
「逃げろー!」
大声で叫び、友達を追い払う。僕も後を追うが、トイレを出る前に「ごめん」と中の人に謝った。

ファミコン

「あんた! ファミコンばかりしてないで宿題しなさい」
ため息が出る。
「これ、ファミコンじゃなくて、プレステ。お母さんの言い間違いってさ、決められた命令に従って動くだけの学習機能のないプログラムをAIだと言ってるのと同じだよ」
お母さんは顔を赤くした。
「ごめんなさい。全然、違うのね」

仕様変更

「ウソだ」
「ちがう」
「ウソだ」
押し問答が続く。僕がいくら否定しても、彼は腕を組んだまま冷笑した。
「ちがう、ドキンちゃんだ!」
と何度も『いいえ』を押すが
「ウソだね。はじめはドラミちゃんを思い浮かべたくせに、途中で変えたんだろ?」
アキネイターが自分のミスを認めようとしない。

全米が泣いた

アメリカのダム建設ラッシュは、止まらなかった。
全米がすぐに泣くせいで、涙による河川の氾濫、土砂災害が頻発したためだ。2020~30年に増設されたダムは一万を超え、洪水被害はなくなったが、過剰な森林伐採が地球温暖化を加速させた。
結果、この十年で地球の平均気温は三度上がり、全米が泣いた。

社会福祉政策の一環として、深さ三メートルほどの穴が日本中に掘られた。当初は「税金の無駄使いだ」との声が殺到したが
(ここも満席か…)
(穴はどこよ!)
やがて、人々の潜在需要が爆発し、穴の供給不足が深刻化した。
(ああもう恥ずかしい!)
いまや、穴があったら入りたい人で町はあふれた。

下山

まさか、こんな日がくるなんて思いもしなかった。
友人と山道を下っていると、突然、茂みがガザガザと揺れ、大きな黒い影がのっそりと現れ――叫ばずにはいられなかった。
「死んだふりだ!」
二人で地面にうつ伏せになる。すぐに友人が爆笑する。
「し、死んだふりて…」
幽霊の僕らはのたうち回った。

振り返れば奴がいる

振り返れば奴がいる。
正直、うっとうしかった。俺が気まぐれで優しくしたせいか、ずっと付きまとわれた。奴には友達がいなかった。
ある日、奴が学校を休んだ。昼休み。俺はひとりで校庭をうろうろした。クラスメイトの歓声が運動場から聞こえた。
翌日、奴が登校した。振り返れば奴がいてくれた。

遭遇パターン

新宿駅に、宇宙船が落ちてきた。周囲が騒然とするなか、船内から人が出てきた。
「dΞkφ」
言葉は通じなかったが、姿かたちは人間とそっくりで、空腹のようだった。
「ΠuΩe…」
宇宙人はひもじそうな声を出したが誰も近づこうとしなかった。それも、仕方のないことだろう。彼らの声は肛門から聞こえた。

参考文献:豊澤 修平,村井 源:星新一のショートショートにおけるオチの構造分析 図7 遭遇パターン 事実発覚(非視覚的)口と肛門逆

別れる勇気

「そんなに、私のこと嫌い?」
「いや…」
「でも、正直、負担でしょ?」
僕が返事に窮していると、「ほらね」と冷たく言われた。
「私よりも、趣味が大事なんでしょ。だったら、もういいから。さよなら」
と言って、仕事は走り去ってしまった。
「ま、待って」
別れる勇気のない僕はすぐに後を追った。

飛行機:第11回カクタノ140字小説コンテスト投稿

第十一回のテーマは「飛行機」だった。高校のパソコンの授業中、僕はずっと文字を叩いた。傑作だと思った。でも、投稿した小説はあまり感想がもらえなくて、地団駄を踏みながら二十年が経った。第八十九回のテーマは「春」だった。僕はまだ地面を蹴っているけど、そのサイトは四年前から更新がない。

帰宅

23時を過ぎたころ、玄関の鍵が回る音。
「ただいまー」
女の、疲れ切った声。
「ごめん、遅くなった。あ、ご飯はコンビニで済ませたのね」
流し台に放っておいた容器をゴミ箱に捨て、女が部屋に入ってくる。
「疲れたー」とシングルベッドにダイブする女。あまりの恐怖に「誰ですか」の言葉が出ぬ僕。

父の愛した数字

空港に降り立ち、父と数年ぶりに再会する。七十過ぎの父はすっかり爺さんだった。
「これ、どうしたらいいん?」
駐車場の、スマートな精算機にうろたえる姿に切なくなる。
「だから、車のナンバー入力するんよ」
「ナンバー…」
胸が締めつけられそうになるが
「あ、素数の小さい順か」
ほっとした。

年末

「ひぃい…」
壁に追いつめられた。
「く、くるな」
一歩、二歩。
時限爆弾のタイマーを刻むように、奴は近づいてくる。
「頼む。目標が、やり残したことがあるんだ。一年前に誓ったんだ」
僕がいくら懇願しても、年明けは止まらず、僕の足元を指差した。
「そ、そんな…」
今年の抱負が死んでいた。

年明け

年明けから、アクセルをベタ踏みする。富士山を一息で越える。鷹をビュンビュンと抜き去る。車道に散乱する茄子を踏み潰す。前へ、前へ。山のように振り積もる仕事がブレーキを許さない。一日がフルスロットルで過ぎていく。生きるために進んでいる。でも、本当は逆走していることに、気付いている。

信用力

「地球のみんな、オラに元気を貸付けてくれ!」
悟〇は天に両手をかざし、大声で叫んだ。しかし、元気はなかなか集まらなかった。
「わりい、時間がねえんだ。どうか無担保で貸してくれ」
誰も、聞く耳をもたなかった。
「絶対に返済すっから!」
いくら戦闘力が高くても、無職の信用力はゼロだった。

プロの犯行

ある資産家の男が、豪邸で殺された。現金、貴金属のほか、百坪はゆうに超える敷地に犯行の痕跡は何も残されていなかった。凶器はおろか、ただ一人の指紋すら検出されなかったのだ。
「犯人は、プロだな」
刑事たちは口をそろえ、第一発見者の女――男が契約するハウスクリーニングのプロを逮捕した。

悪法

「我らに死ねと申すか!」
幕府の御触れに村は紛糾した。
「黙れ、黙れ。民の健康を慮る、お上の優しき心根が分からぬか」
役人は刀を抜いて恫喝したが、唯一の嗜好品を規制された農民たちは怒り、狂い、各地で百姓一揆が起きた。
「自由に吸わせろ!」
受動喫煙防止法を公布した結果、徳川は滅びた。

面影:第12回カクタノ140字小説コンテスト投稿

「いつから疑っていた」
男は何気なく問うたが「初めて会ったときから」の答えに息を呑んだ。
「さすが、世紀の大泥棒と称された人の子ね。いずれこんな日がくると思ってた。だって、目元がお父さんそっくりなんだもん」
息子が財布からくすんだお金を、「あの人も喜んでるわ」と母親は仏壇に供えた。

夫婦旅行

『そうだ。京都、行こう』
テレビが清水寺を映し「旅行でもしようか」と夫が呟く。
「あら、どういう風の吹き回し」
邪見にしながらも、口元が自然とほころぶ。
子供は自立して、夫も隠居の身。私は浮足立ってしまい、とんとん拍子で計画は進み、翌月には二人で成田を発った。
京都には行かなかった。

初体験

「そんなに固くならないで」
全裸で、仰向けになった僕を見おろしながら、彼女が微笑む。
「初めての体験だから、緊張して…」
「ふふ。不安なのはお互いさまよ」
彼女が僕の口を塞ぎ、快楽が駆け巡る。あっという間に意識を失う。
「私もこの手術、初めてだから」
女医の告白は全身麻酔がもみ消した。

ショットガン

二月。プロ野球のキャンプが始まり、週末には多くのファンが球場に押し寄せた。その日は節分だったので、選手たちが客席に豆をまくイベントが催された。
「豆くださーい」
黄色い声援がイケメンのピッチャーに飛ぶ。調子にのった彼はつい大きく振りかぶった。
「鬼は、外ー!」
時速150kmを計測した。

天誅

五歳の息子が時代劇にはまった。意味はわかっていないのに、何かにつけて「天誅でござるー」と叫ぶようになった。
「もし」ある日、公園で侍に声をかけられた「ここは、いったい…」
どうも、過去からタイムスリップしてきたらしい。言葉を選んでいると、息子のせいで「殿ー!」と走り去ってしまった。

人事異動

「いまから、組織改編を行う」
全社員をオフィスに集め、社長が一人ずつ組み分け帽子を被せていく。
「経理!」
「技術!」
帽子が叫ぶ部署に問答無用で異動となる。エンジニアの俺は心の中で念じた。
(営業は嫌だ、営業は嫌だ…)
その願いは叶い、
「グリフィンドール!」
魔法学校へ出向となった。

義理人情

「カシラ。山田組の幹部から届け物です」若衆の声が緊張する「検分しますか?」
「いらん。そのへん、おいとけ」
山田組とは敵対関係だが、その幹部は人情に厚く、個人的に懇意にしている。箱を開けると甘い香りが鼻孔をくすぐった。
『義理じゃ』
チョコに添えられたメッセージカードに口元が緩んだ。

マッチは売らない少女

吹雪の晩。一人の少女が街角に佇む。
「どなたか…」
誰も立ち止まらず、途方に暮れる。暖を取るためにマッチを灯すと、男たちが陽炎のように現れた。
(相手がいないから)
(必要性を感じないです)
またたく間に独身理由が集まる――幻に包まれながら、街頭アンケートの少女は静かに息を引き取った。

ッターン!

在宅勤務。
『カタカタ…』
複雑な機能をプログラミング。
『カッタ』
キーボードを牛歩するが
『カタカタカタカタ』
ふいに天啓のごとく閃き
「ッターン!」
背筋を伸ばす。よし、動作確認の前にコンビニへ行く。
『ピッ、ピッ』
セルフレジを通しながら、今日「ッターン!」しか喋ってないなと思う。

ヤバい

海外へ、語学留学。異国の地でひとり、就労ビザの取得を目指して必死に勉強した。日常会話が聞き取れるようになったころ、現地の友人と街を歩きながら、絶望した。
「ヤバい」
「ヤバい」
「ヤバい」
「ヤバい」
シチュエーションによっては、すべて違う意味だという。僕は、日本語を諦めて帰国した。

てっぺん:第13回カクタノ140字小説コンテスト投稿

いま、僕は、富士山の頂上で、小説を書いています。講座の、先生が、創作のコツは、自分を極限状態に追い込むこと、だって、教えてくれたんです。だから、思い切って、日本のてっぺんで、原稿用紙を広げましたが、失敗、でした。読点は、息継ぎだと、学びましたが、いかんせん、ここは、酸素が薄い。

大会

放課後。同級生に、校舎裏に呼び出された。
「ごめん。いまは付き合うとか、考えられない」
彼はすぐに察してくれた。
「そっか、大会近いもんな」
「うん」
「恋愛してる暇あったら、部活の練習したいよな」
ふいに、強い風が吹く。
「だから、大会に出られなきゃいいんだよな」
頭上の木がざわつく。

カラーボール

「金を出せ」
コンビニで、突然、男に刃物を向けられた。レジの中をかっさらい、男はすぐに逃走する。
「貸して!」
店長が持っていたカラーボールを奪い、男の背中に投げる。「あっ、ちが」の声が聞こえたときには、手遅れだった。
強盗犯は球の中に吸い込まれ、僕のポケモン図鑑に男の名が刻まれた。

あさりバター

居酒屋であさりバターを頼んだら、すべての貝が閉じていた。
「腐ってない?」
店員に文句を言うが
「表面張力ですよ」鼻で笑われた「稀によくあるんです。出汁で貝が引っ付いちゃうこと」
ああ、と知った風にうなずくが、嘘ではなかった。貝をこじ開けると
(ひぃッ…)
まだ、息があり、美味かった。

楽な仕事

「バ、バカな。君ね、しょ、初対面で、いきなり失礼じゃないか、が、ぐぅ……!?」
男が、泡を吹いて倒れる。毒があっという間に回ったようだ。手首の脈を取り、俺はほくそ笑む。
殺し屋にとってこんな楽な仕事はない。「オチがありきたりだね」と毒を吐けば、ショートショート作家はかんたんに死ぬ。

冷たい少女

深い森に安置された棺のなかで、少女は百年を数えた。 体は冷たくても、意識はあった。まぶたは開かずとも鳥の歌声に春を見た。暗闇の濃さで天窓に積もる雪を感じた。
数年に一度、唇に触れる者がおり、そのたびに少女は失望した。科学者の悪ふざけが、コールドスリープの目覚めは遠いことを教えた。

つかみ

吾輩は人間である。前世が猫だった。
どこで死んだかは、はっきりと覚えている。ねぐらにしていた路地裏から餌場の洋食店へ向かう途中、脇道から急に飛び出してきた車に撥ねられたのだ、というね、小説をセルパブしてるんですが、全然、売れなくてね。今日は書き出しだけでも覚えて帰ってください。

こっくりさん

「こっくりさん、こっくりさん」 放課後の教室で少女たちがささやく。 「どうぞおいでください。もし、おいでになられましたら『はい』へ進んでください」
一同が「あっ」と息を呑む。十円玉がひとりでに動き出し
『い』
へすすみ
『け』
『た』
『ら』
『い』
『く』
その後、十円玉は動かなかった。

界王拳

「ろ、六十。七十、八十…、バカな、まだ上昇している…」
スカウターの数値に、労務は驚愕した。
「ひゃ、百時間…。信じられん、これが貴様の、真の残業時間だというのか」
戦闘民族は鼻で笑った。
「はっきりいっておくぞ。休日出勤を正直に申告すれば、まだまだこんなもんじゃねえ」
目は死んでいた。

つぶあん

火にあぶられ、木槌で殴られる。
「おらっ!」
氷水を全身に浴びるが、こしあんは一言もしゃべらなかった。その身に潜む、寒天を守り通した。しびれを切らした拷問官は、あんを地下に牢獄した。
一時間が経ち、案の定、こしあんは牢で冷たくなっていた。
「バカなやつめ…」
水ようかんになっていた。

プツン

好きな人ができた。でも、私から声をかけることはできなかった。
「おはよう」 彼の挨拶に心が弾む。
「おはようございます! 今日は、一汁三菜の日です。一汁三菜は、ご飯に、汁物と、三つのおかずを組み合わせた献立で」
ことばがあふれ出るが
「アレクサ」彼はうんざりしたように言う「もういい」

パツン

恋をした。脈はなかったが、僕が声をかけると
「おはようございます!」
いつも、みずみずしい声で返事をしてくれる。
「今日は、一汁三菜の日です。一汁三菜は、ご飯に、汁物と、三つのおかずを組み合わせた献立で」
そして、ことばの羅列に悲しくなり
「アレクサ」心にもないことを言う「もういい」

ピエロ:第14回カクタノ140字小説コンテスト投稿

「また、ピエロですね…」
世間を震撼させるシリアルキラー。今回も、殺人現場の壁には「🤡」が描かれていた。
「俺の勘だが」刑事の一人が言う「この犯人は、必ず現場に戻る。楽しんでやがるんだ」
「じ、じゃあ」
「野次馬を、徹底的に洗え」
若い刑事は頷き、🤡みたいな軽快な足取りで外へ走った。

夢追い人

きっと、夢が見つかったのだろう。自分の進むべき道に気付いたのだろう。この進路は、そうとしか考えられぬ。
顔も、名前も知らない、あかの他人だったが、夢追い人の決断を目の当たりにして胸が熱くなる。
「自分の信じた道を進め!」
あさっての場所へ向かう出前の位置情報に、僕はエールを送った。

激おこぷんぷん丸

激おこぷんぷん丸、という名の猫がいた。飼い主の気まぐれで命名されたが、猫は気に入ったようだ。「激おこ」と呼んでも「にゃあ」と鳴き、「ぷんぷん丸」と呼んでも返事をした。
「ちっちぷー」
やがて飼い主はあだ名をつけたが、猫は反応しなかった。吾輩は激おこぷんぷん丸であると、つん、とした。

七月の国語

国語の授業は、上質な環境音だった。クラスメイトたちの「坊ちゃん」の朗読が浜辺に打ち寄せる波のように意識をさらう。
「いまから言うとこに線引けー」沖の方から、先生の声。「小学校に居る時分、学校の二階から飛び降りて…」
青空を泳いだのだろう。さっきの水泳の授業みたいに、うとうと、と。


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