#63 私が愛する人と、三日月の夜
三日月が宙に浮かぶ金曜日の夜。娘を保育園にむかえに行った足で駅前へ向かう。
主人が飲み会でご飯がいらないと言うし、どこかで娘とご飯を食べて帰ろうという魂胆だ。
わたしも軽く1杯ワインを飲んで、外に出たらすでに真っ暗。もう季節は刻一刻と冬に向かっている。
登園拒否が続いていた娘は、最近保育園行きたくないとあまり言わなくなった。そして、どこか急に大きくなった。
娘には「ちょっと怖い」先生がいた。
その先生は、わたしから見るととても優しくていい先生。
若いのに責任の大きいポジションに押し上げられてしまって、しかもこのご時世で保育士さんが辞めていくので、その度に代打で駆り出される現場のトップだった。わたしにもそういう経験があるからわかる。
だから、ものすごく忙しかったのだろう。
ついつい子どもがイレギュラーな要望をしたときに「やれやれ」と思ってしまうみたいで、敏感な娘はそれを感じ取ってしまっていたようだった。
娘も先生も悪くない。
微力ながら、わたしも協力できるように気にかけていた。
そしたら金曜日、その先生から「最近(娘が)とてもからんでくれてうれしいんです!」と言われた。
わたしが多忙の先生のことを気にかけていたからかもしれないし、先生自身に変化があったのかもしれないし、娘自身スイミングをはじめたりして自信がついたのかもしれない。
なにがキッカケかはわたしには判断がつかないけれど、ほんとうによかった。
手が届きそうなくらい低く明るい三日月を、娘と手を繋ぎ「綺麗だね」と言いあいながら帰った。
泣きそうなほど綺麗だった。
あの三日月の夜をわたしは忘れないと思う。
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