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ホロコーストにおける「ディーゼルエンジン問題」について(4):プロデューサーガス車があるのにどうして使わない?という難癖。

プロデューサーガスとは聞きなれない言葉かもしれません。実は、日本語にはこれに相当する用語がありません。しかし、木炭ガスと言えば少しは聞いたことのある人もいるかもしれません。基本的には実は同じものを指すと考えても良いのですが、用語として「Producer Gas」を「木炭ガス」と翻訳していいのかどうか迷うところでして、ここではプロデューサーガスと呼ぶことにします。

第二次世界大戦中は特に日本やドイツでは資源確保が困難になったため、石油燃料を使うエンジン系を扱うことが難しくなってしまいました。そこで、代替燃料として石炭や木炭などを不完全燃焼させることによって発生するガスを燃料として使うことになったのです。燃料としては石油燃料に比べれば非常に効率が悪い(パワーが出ず燃費も良くない)のですが、比較的確保しやすい固形燃料を使える利点があったわけです。ただし、発生ガスをボンベなどで保管して利用することはできず、簡易的なものとは言えガス発生装置を車などに搭載して直接燃料ガスを発生させながら使う必要がありました。

さて、その発生するガスの成分は何かというと、一酸化炭素と水素になります。日本はさておき、ドイツでは戦時体制ということで、石油資源のほぼ全てを軍事物資として確保し、それ以外の輸送用トラックなどは全てこのプロデューサーガス車を使うように改造されたそうです(詳しいことはよく知りません)。

従って、ナチスドイツが一酸化炭素を殺人ガスとして使うガス車を使ってユダヤ人大量虐殺を実行したというのであれば、プロデューサーガス車でなければおかしい、というのが修正主義者の主張になりました。定説的な主張はあくまでもエンジン排ガスを使ったことになっているので、理屈が合わないことになるわけです。どうして簡単に使える殺人ガスである一酸化炭素を十分な致死濃度だけ排出できるプロデューサーガス車を使わずに、わざわざ燃料不足の中、そうでない通常燃料のエンジン車を使うのか?というわけです。

私自身は、後述しますが、これは非常に馬鹿げた否定説だとしか考えていません。ともかく、Holocaust Controversiesの反論を見ていきましょう。

▼翻訳開始▼

ガスバンに関するアルバレスへの反論:プロデューサーガス

ガスバンに関するアルバレスへの反論
第一部:ディーゼル問題がいまだに無関係な理由(更新1、2)
第二部:プロデューサーガス
第三部:フォードのガスワゴン(更新)
第四部:ベッカーレター(更新)
第五部:刑事技術研究所へのラウフ書簡(更新1、2、3、マットーニョとここ)
第六部:ターナー・レター
第七部:シェーファー、トゥルーエ、ラウフのテレックス
第八部:アインザッツグルッペン Bの活動と状況報告(マットーニョについて参照
第九部:ジャストメモ
第十部:アインザッツコマンド8のメンバーに対する西ドイツの裁判
第十一部:シンフェロポリのアインザッツグルッペン D第一部:ディーゼル問題がいまだに無関係な理由(更新1、2)

ホロコーストが起こらなかったことを示し、自分たちの物語を構築するための十分な具体的証拠がないため、ホロコースト否定派は、「ドイツ人はこんなことはしなかった」という個人的な信じられない気持ちを攻撃の主軸にせざるを得ないのである。だから、ホロコーストは起こらなかったのだ、と。ホロコースト否定論者は、複数の裏づけのある情報源によって確立された歴史的事実を、根拠が乏しい信じられないようなことを提示するだけで、信じられないような確信を持って否定しようとするのだから、いつも興味深く拝見している。その典型的な例が、ドイツ軍が殺人的なガス処刑にエンジンの排気ではなく、プロデューサーガス発生器の排気を使っていただろうという主張である。

「しかし、ドイツにはもっと安くて、もっと複雑でなく、もっと効率的な方法、すなわち薪ガスや生産者ガス発電機がすぐ手元にあったので、ガソリンエンジンさえも大量殺人の可能性のある選択にはならなかっただろう」 (p. 101)

「したがって、ドイツ人が、ガウブシャットの交換に言及されたザウラートラックをガス車として使ったならば、あるいは、その他のトラックであっても、木材ガス発生装置を備えていたであろうし、このガスこそ、(!)エンジンに入る前に、荷箱に閉じ込められている収容者を殺すために使われたであろう」(p. 272)

(サンティアゴ・アルバレス、『ガス車』)

この議論は、ホロコースト否定派のフリードリッヒ・ベルクユルゲン・グラーフ、トーマス・ダルトン(『ホロコーストを議論する』、p. 84) やニコラス・コラーストロム(『呪縛を解く』、p. 63)も展開している。

実は、ガソリンエンジンの排気ガスの選択は、よく理解できるのである。固体燃料を使う内燃機関を駆動するためのプロデューサーガス発生装置は、もっと汚くて危険で複雑で不便で、戦時中の液体燃料の不足による政治的介入がなければ、ほとんど誰も輸送に使うことはなかっただろう。このため、内燃機関のほかにガス発生器を搭載する必要があり、カーゴボックス内のスペースや積載量を減らし、1回あたりのガス処理人数を減らしていたのである。また、プロデューサーガスは毒性があるだけでなく、爆発する可能性もある。

ここで、当時のドイツの代表的な生産ガス発生会社であるインベルト社によると、プロデューサーガスの組成は次のようになっている(エッカーマン、『木材を使った運転』、p.17)。

窒素:47%
一酸化炭素:23%
水素:18%
炭酸ガス:10%
メタン:2%

また、気体の爆発下限値は以下の通りである。

一酸化炭素:12.5%
水素:4%

したがって、この一酸化炭素と水素の混合ガスは、空気中での爆発下限界は約6%(ルシャトリエの混合則)であり、プロデユーサーガスでは約40%を占めている。 一酸化炭素の濃度が空気中の爆発下限界に近いため、殺人ガスに安全に使用するには、ガソリンエンジンでは必要ない技術的規制と訓練が必要だったのかもしれない。ガソリンエンジンの排気ガスには、アイドリングストップ時に10〜14%の一酸化炭素が含まれており、これは20分以内に致死量となる一桁以上の数値であるが、プロデューサーガスに比べると引火の危険性ははるかに低くなっている。

ガソリンエンジンの排ガスをプロデューサー・ガスと比較したことから、ガスバン開発を担当したドイツ人は、プロデューサーのガスに含まれる一酸化炭素が、トラックの有効積載量の低下や技術導入の手間、安全性の問題を上回るほど有益なものとは考えず、この種の用途ではガソリンエンジンの排ガスが毒性と安全性の最適解と見なされたと結論付けることができるだろう。

投稿者:ハンス・メッツナー 2015年11月28日(土)

▲翻訳終了▲

今回は短かったですね。これは実は、記事中では書いてませんけど、ゲルマー・ルドルフも同じことを言っています。否定派はみんな仲良しです。

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L:じゃあ、ガソリンモーターで。
R:いえ、即、そういう答えには結びつきません。1942/43年以降、石油が不足していたため、ドイツ軍はすべての輸送トラックをガス発生器で走るように改造しました。戦争が終わる頃には、中央ヨーロッパでは何十万台ものトラックがこの木炭ガス発生器で走り回っていました。一部の装甲戦車でさえ改造されていました。発生器ガスは、湿ったコークスや石炭、木材などを酸素が少ない状態で燃焼させ、簡易なオーブンで発生させます。 このガスは酸素をほとんど含まず、一酸化炭素を18~35%含んでいます。毒性が強く即効性のあるガスです ユダヤ人強制送還に関与した者を含め、第三帝国のすべての政治的、軍事的責任者は、これらの何十万もの木炭ガス発生器とその毒性を十分に認識していました[660]。 そのような技術が大量殺人の試みに応用されていたと仮定しなければなりません。しかし、どこにもその使用についての言及はありません。
木炭ガス発生器は当時 ネズミや害虫の燻蒸に広く使われていたことも考慮しなければなりません 非常に普及していたと考えられていました。したがって、大量殺戮計画では必然的に使用されたでしょうが、使用されなかったのです[661]。
そして大事な問題がありました。それは石油不足のため、第三帝国は上記の石炭精製技術に頼っていたのです(203ページ)。この技術は、天然ガスおよび石油に類似した製品を製造しました。最初のステップでは、上記のような混合物を含むプロセスガスが生成されました。実際、第三帝国では、全人類を絶滅させるのに十分な量の一酸化炭素ガスがいたるところに存在していたのです。それなのに、このガスが殺人に使われたのは1ガロンもなかったのです。
(ゲルマール・ルドルフ、『ホロコーストに関する講義:議論の余地のある問題を横断的に検証する』、p.282-284)

記事中にある、「ホロコースト否定派は「個人的に信じられないこと」を攻撃の主要なラインとして利用」する手口はよくあります。またいずれどこかでその話が出てくるかもしれませんが、似たような話としては、「ナチスドイツは列車全体を害虫駆除する施設を持っていたのだから、どうしてそこでユダヤ人をまとめて殺さなかったんだ?」など。

おそらく、記事中で推測されているように、親衛隊の方でもさまざまな手段を検討はしたのだと推測はされます。ルドルフ・ヘスの自伝にも、アドルフ・アイヒマンと殺害方法を検討している話が記述されています。その検討の中で、アウシュヴィッツではフリッチュの実験によって、チクロンBが最適と判断されたのでしょうし、T4作戦では一酸化炭素ボンベも使ったし、収容所によってはホスゲンのような化学兵器に分類されるガスを使ったとされるところもあったようです。失敗はしましたが、爆弾も試験的に使われましたし、悲惨な暮らしをさせて緩やかに死滅させようというようなゲットーもそうかもしれないし、餓死もさせたし、広い意味ではマダガスカル移住計画もそうだったかもしれないし、このようにナチスドイツは実際には色んなことを計画し、また実行もしているのです。エンジンの排ガスもその一つであったに過ぎないわけです。

完璧な最適解ではないかもしれないが、親衛隊は親衛隊なりに考えてそういう方法を選んだ、というだけの話なのに、どうして「木炭ガス発生器を使わなかったんだ?」のような余計なお世話的否定論をするんでしょうね? なのに、否定派はチクロンを否定するのです。チクロンくらい簡単なものはなかなかないのではないでしょうか。缶で扱えるから持ち運びに便利だし、使う時に缶をあけて天井の穴か壁の穴からガス室に入れるだけだし、注意は必要でも、特別な技術がいるようなものではないでしょう。しかも害虫駆除剤だから「害虫駆除に使ったのであって殺害目的ではない」と否定派がしょっちゅう使うセリフのように、誤魔化しにさえ使える優れた犯罪的殺害薬剤です。ほぼ100%、短時間で確実に殺害できるのですし。

実際もし、木炭ガス発生器を殺害用に使っていたと通説的に主張したとするのであれば、否定派は絶対にこう主張するに決まってます、「それは石油不足だったから燃料発生器として用いていただけであり殺害用に使ったのではない」と。或いは、記事中にあるように、「さまざまな問題点があるのだから殺害に使えた筈はない」とか。実際にフォーリソンはチクロンを引火性があるとして同様の主張を行っています。

しかしながら、いわゆる「定説」でそうした殺害方法が書かれているのは何も歴史学者たちが妄想で言っているわけではなく、多くの文書証拠や証言などの根拠があるからそう述べているのです。従って、結局は修正主義者たちはそれらの多くの文書証拠を偽造とし、証言を嘘と断定しなくてはならなくなり、決して証明されることのない、絶対に犯人を特定し得ない「陰謀論」がなければ否定論が成り立たない結果を招くのです。

馬鹿馬鹿し過ぎますね。以上。

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