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只今、ジャン・クロード・プレサックの『アウシュヴィッツ ガス室の技術と操作』の翻訳全面修正を開始しました。

https://holocaust.hatenadiary.com/entry/2020/08/21/002451


翻訳し始めたのは2年ほど前、ちょうどホロコースト否定論への反論に取り組み始めた初期の頃、とにかく当時はわからないことだらけだったのだけど、否定論を具体的に調べないことには反論も不可能だと気づき、色々と調べ始めてみると、そこには大きな壁が立ちはだかっていることに気がつきました。

それは、情報が日本には少ないこと。ホロコーストに関連する日本語文献もないわけではないのですが、有用な日本語文献でさえもその成り立ちは多くの海外文献で成り立っていたのです。脚注を見れば一目瞭然で、使われている文献の九割以上は外国語文献だったりするのが普通なのです。しかもそれら海外文献のほとんどは、日本の大きな図書館にすらありません。国会図書館なら結構あるみたいですけれど。

だからといって、海外から文献を取り寄せるだなんてとても無理です。コストの問題も大きいですが、もっと大きいのは「英語を含めた外国語に疎すぎる」私のようなレベルではそもそも読めません。読めたとしても、読解に時間が掛かりすぎるし、現実的とは言えません。

しかし、それでも頑張ってどんな文献があるのかをネットで検索していると、意外にも結構多くの資料がネット上で公開状態にあることがわかりました。いわゆる一次史料的な文献も、かなり多くがネット上で公開されており、言語の壁さえ越えられれば、かなり多くのことを知ることができるような感触を感じ始めていました。

ちょうどそうした下調べ的なことをしていた時期に並行して、かなり優れた機械翻訳サービスが登場しました。それまではGoogle翻訳を使うしかなかったのですが、Google翻訳も優秀だとは言え、かなり手修正を加えないと理解するのも困難なレベルの翻訳であることが多いのです。ところがその新しく登場した機械翻訳、DeepLはとにかく圧倒的に読みやすい日本語を生成してくれるのです。「これならいける!」と感動するレベルでした。

とは言え、所詮は機械翻訳、少し使ってみると結構癖があることが次第にわかってきました。これを書いている現時点では大分と進化はしてくれてはいるようですが、それでもまだ、翻訳をすっ飛ばしたり、逆の意味に翻訳したり、妙な機械学習をしたためかまるっきり意味の通らない翻訳を返してくることなど、修正が必要なことが時折あります。

さらに、海外記事を色々訳していると、しばしば特殊な用語に出会し、単純に機械翻訳を通しただけでは適切な翻訳にならない場合も多い。例えば、アウシュヴィッツ収容所の図面など建設関連の話を訳していると頻繁に登場する「Bauleitung」というドイツ語があります。この単語をGoogle先生に翻訳してもらうと「サイト管理」なる日本語を教えてくれますが、当たらずとも遠からず的な訳ではありますが、適切な用語翻訳ではありません。この用語は日本語では「建設管理部」と訳すのが妥当なのです。アウシュヴィッツ収容所の建設管理部を指す用語として用いられているからです。これも、様々な文献に当たっているうちに、アウシュヴィッツにはさまざまな部署の一つとして建設管理部があったと知ったからわかったことです。

従って、英語(場合によってはドイツ語やポーランド語など他の言語も)をただ単に翻訳するだけではダメなのだとわかり、ホロコーストや当時の情勢などに関連した事柄に関する自分自身の理解レベルも上げないと、否定論にきちんとした反論などまともに出来ないと考えざるを得なくなったのです。思っていたよりもさらにハードルが高かったのですね。

それでも色々と手当たり次第に訳し始めた矢先、ホロコースト論争に関して非常に大きな影響を与えた文献があることを知ったのです。それがジャン・クロード・プレサックの『アウシュヴィッツ ガス室の技術と操作』です。修正主義者の論文などを読んでいると頻繁にプレサックの名前が出てきます。色々と読んでいると、どうもそのプレサック本にはアウシュヴィッツ収容所に関して詳しく書かれているらしい、とわかってきました。重要な本であるらしいので、日本語版もあるのかと思ったら、存在しませんでした。国会図書館には一冊だけ英語版があるようですが、読めもしないものを閲覧しようとも思えません。

ところが、そのプレサック本、ネットに全文がテキスト文書形式で簡単に翻訳可能な形式でアップロードされていたのです。私が最初に見つけたのは修正主義者のサイトでしたが、後に反修正主義サイトであるPHDNにもアップロードされていることを知りました(註:その後、その修正主義者サイトはPHDNにアップロードされているプレサック本のテキスト(+写真)をそのまま盗用していることがわかった。テキスト化の時の誤入力がそのまま反映されているからである)。重要な資料ということで、版元が無料公開に応じたようです。

ならば、手始的に、自分でも色々と学ぶ目的も兼ねて、このプレサック本を全訳してみようではないかと思い立って2年ほど前に翻訳をし始めたのです。……しかし、500ページを大きく超える分量と、自分の翻訳技量の低さ、知識のなさなど、かなり無謀でした。また細かい話ですが、単に翻訳するだけでなく、翻訳してネットに公開することも目的としていたのです。が、公開形式をブログ形式とし、ページ区切りを本の通りとはせずに、チャプターごとにまとめた為、クレマトリウム2と3のチャプターが約170ページもあるのに気がついて、途中で翻訳を投げ出してしまったのです。今にして思えば、自前でページリンクを入れて、本のページごとにページ区切りにすればよかったなと後悔していますが。

で、2年ほど放置していたのですが、「まさかあれを読む人などそうはいるわけないだろ」と、あまりの翻訳の不出来さにも目を瞑っていたのですが、あるテレビ番組が事情を変えてしまったのです。それは、NHK-BSや Eテレなどで放送された『フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿』という番組で2021年に放映された「ナチス 人間焼却炉」の回です。この番組のこの回自体非常にマニアックかつ興味深い内容だったのですけど、どうやらこの回に関連したなんらかのキーワード検索で私のその翻訳ブログサイトがヒットするらしいのです。Twitter方面かもしれませんが。で、ほとんどアクセスのなかったそのブログのアクセス数が若干増えたのです。

「こ、これは流石に恥ずかしい」と。あんなクソ翻訳を放置しては置けないと思い始めたのが、今年の正月くらいだったかな。でも、あれを修正し始めたら、今度は最後までやらざるを得なくなり、めちゃくちゃ日数を要するぞと、しばらく考え込んでいたのです。でも延々と気になって数ヶ月、この度やっとその重い腰を上げることにしました。

このnote上のいくつかのシリーズでも何回も途中で尻切れとんぼになっているのに、あのプレサック本の翻訳を終わらせることが本当に可能なのか? 今も自信ありませんが、改めて翻訳し直してみると、やはり2年前とは違い、自分自身かなり多くの知識を身につけていて、翻訳も大分とこなれてきたので、かなりマシな翻訳ができるようになっていることがわかりました。2年前は、いい加減な翻訳でも読む人が自分で原著に当たってもらったらいい、くらいの無責任感で突っ走ってただけなのですけれど、今回は翻訳にある程度は責任感を感じながら訳せてはいると思います。

というわけで、こちらのnote上でのホロコースト関連記事の掲載も不定期に続けますが、プレサックの『アウシュヴィッツ ガス室の技術と操作』の翻訳作業も並行して続けますので、もしよろしければそちらも参照いただけたらと思います。どこが前と変わっていっているのかについては、分かりにくいとは思いますが、翻訳改訂版は、プレサック本に対応させやすくする為にページ番号を記事中に挿入してあります。HTMLでidタグも入れてあるので、同一チャプター内ならば、ブログ記事のURLに「#p012」 のように#p + 三桁のページ番号を付け加えると、すぐにプレサック本の同じページの翻訳を見ることができます。例えば、「https://holocaust.hatenadiary.com/entry/2020/08/21/031127#p018
とブラウザのURLウィンドウに入力すると、チクロンBの取扱説明書などが記述されているページに飛ぶことができます。

以上、本note記事共々、プレサック本の翻訳ブログの方もよろしくお願いいたしますm(_ _)m


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