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ホロコースト否認論を否認するテスト-番外編04「アーカイブの彼方にある否認論への徹底批判」

今回は、シリーズ本編にするか番外編にするか迷った。別にどっちでも同じだと言われれば身も蓋もないが、本人的には一応区別しているのだ。どういう基準で? ……うーむ。

ホロコースト否認論は既に死んでいる。

先ず、基本的なことを言っておこう。ネットにはホロコーストを否認する人達、否認というよりも歴史修正論が成り立つ可能性があると思っている人、もっと言えば、ホロコーストはもしかするとなかった、あるいは遥かに規模の小さいものであった可能性があると思っている人、そんな人達が多分六百万人くらいいると思っている。そう、殺されたユダヤ人の正史としての数に一致させているだけだ。ネット人口は2019年度で概ね40億人らしいから、そうした人達の総計は 0.15% でありこれは感覚に合っている。

もっと多い? 知らんけど、六百万人は大概多いぞ。人口比で言うと、日本人ならこの1/40だから(日本人のネット人口は1億人である)、少数民族とは言え、15万人もいることになる。下らない計算かもしれんけど、ネットの炎上はほんとは一握りの人によって起こされているという理屈と合わせて考えると、ほんとはそんなもんだろうということに納得感はある。

何の話かと言えば……かつてざっと今から20年くらい前、ノストラダムス大予言で五島勉氏が予言した(あれは五島勉氏の予言であってノストラダムスではない)1999年位から以降数年、おそらくは2010年より少し前くらいまで、日本のネット上でホロコースト否認論論争はあったのだ。ああ、そうだその話の前に、この項のタイトルの宣言について説明しておこう。

要は、ホロコースト舐めんな! って話である。南京事件ではたしかに目立った研究者は少ない。日本では洞富雄、笠原十九司、藤原彰、吉田裕、井上久士……あとはえーっと、忘れてはいけない秦郁彦も入れておこう。もちろん他にもいらっしゃるとは思うけど、非常に少ないのは多分事実だ。当然先生方は専門家であり、優秀な先生ではあるが、いかんせん数が少ない。いちいち挙げないが、右派の名のある人を上げていったら少なくともこれらいわゆる肯定派に属するであろう(秦氏は中間派だとか言わない!そこ)先生たちより多くなってしまうほどである。

だが、ホロコースト研究領域は絶対そんな事にならない。数が決着をつけるのではないにしろ、常識で考えて欲しい。『ホロコースト大事典』というとんでもねぇ本がある。トンデモ本ではない。遂に買ってしまった、古本で一万一千円もする。定価は一万八千円だ。重さは三キロくらいはある。

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この本がホロコーストを証明すると言っているのではない。この本、約百人もの研究者によって作られているのである。どうだ? なんだかんだ言っても数は力なりである。マットーニョ先生も自身の著書のページ数を誇るのが常であるが、一冊分の値段では絶対に勝てない(そういう話ではない)。

あのね、ホロコーストなるとんでもない大きなテーマなら世界中に研究者がいて、全然おかしくないと思わないか? という話である。この百人だってその一部に過ぎず、当然何倍も何十倍も研究者は常に存在する研究領域なのである。これだけの人が、「実はホロコーストなどなかったという真実」なる珍妙な事態に気が付かないとでも思っているのだろうか?

ところが、ネオナチはこう言う。それはユダヤの陰謀なのであり、否認論を主張すると処罰するくらいに否認に対する言論の自由は奪われているからである、と。確かに、否認論を主張して逮捕・罰金・刑務所送りになった人は何人もいる。しかし常識で考えてもらいたいのだが、世の中に犯罪者はいないことはあったろうか? 刑法は犯罪の抑制にはある程度役立っても、犯罪者を絶滅させることは出来ないのである。ウルスラ・ハーバーベックは何度捕まっても、否認論の主張を止めない。

刑事罰がすっごい軽いんですけど。常習犯ですら禁錮二年半だよ? そりゃね、前科付いちゃうから、学者先生にとっては命取りではあるけどな。まぁいいや、どんな説明をしても否認論者の多くは適当な屁理屈を捏ねて「ユダヤの陰謀は実際にある」としか考えないので、これ以上は言わん。だけどね、国連ですらも、

ホロコーストの「全面的、部分的否定」を非難し、すべての加盟国に対してホロコーストの否定とそのための活動を禁止する措置を執ることを勧告する決議案が103カ国の共同提案によって提案され、可決された。ただしこの勧告に強制力はない。[Wikipedia「ホロコースト否認」から引用]

というレベルなんですけどね。youtubeなんか否認論動画削除するっつっておいて未だいっぱいあるし、FacebookもTwitterも削除対応はしていません。Amazonにだって否認論の本売ってるぞ。これでユダヤの陰謀? Facebookなんざザッカーバーグはユダヤ人だぜ?


マルコポーロ事件のその後

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マルコポーロ事件を知らない人は、Wikipediaを見て下さい。さて、この事件、日本でほとんど始めてだったからだろうけど、サイモン・ヴィーゼンタール・センター(SWC)という反ユダヤ活動を監視する世界的に有名な組織から抗議が入ったので、一騒動になった。マスコミを中心として慌てふためいたのである。江川紹子氏などからも、言論の自由の弾圧だ!くらいの勢いで批判がなされていたのだけど、実は実態はそれほど過激な抗議というわけでもなかったそうだ。

花「康さんね、でもそれは実際そこまでのことはなかったの。確かに、“広告出稿拒否がくるんじゃないか?”っていう話は会議の中では出てました。外国の企業だって日本の雑誌にたくさん広告出をしてますからね。そこから“クレームがくるんじゃないか”っていう話は出てたんです。ただ、実際にあったのは、三菱自動車の8ページにわたる広告、“初めてとれた”って広告部も非常に喜んでた大きな契約だったんだけど、そこが、“ちょっと様子を見させて”って代理店を通じて言ってきたことくらいなんです」
――実際に報道されているように、何個か広告が落ちたということはなかったんですね。

SWCがやったのは、この記事に書いてある通りであるとすれば文藝春秋社員に対するホロコースト教育だったのである。あの花田氏だから話半分と思わなくもないが、どちらかと言えば右派寄りの花田氏が言うのだから、額面通りに受け取っていいと思う。単に、日本のメディアを中心としてビビっただけだったのだ。それをあろうことか、文藝春秋社はビビりまくって社長は辞任、雑誌は廃刊、花田も辞めてしまったという、相当厳しい事態になったというイメージを世間に与えてしまったのである。どうして、雑誌を継続して、西岡論文への反論を載せなかったのか。言論の自由に亀裂を与えかねない事態を生み出したのは、文藝春秋社自身なのである。

そもそも当時の花田氏の判断が甘すぎる。編集部は記事の裏取りさえしていない。載せるのは良いが、当時の海外事情くらい調べるか、西岡論文の根拠くらい調べておくべきだし、同時に反論記事を載せるくらいの慎重さはあってよかったろう。……いや、あの花田氏だからそれは無理な期待か。

ただ、当時は今よりもさらに「ユダヤの陰謀」が世相に蔓延っていた時代だった。イザヤ・ペンダサン(山本七平)が著した『日本人とユダヤ人』が契機だと聞いたことがあるが、ユダヤ人モノの書籍が売れるようになり、シオンの議定書に代表されるようなオカルト的陰謀論がはびこるような事態までなった。様々なオカルト的な言説が昭和から平成にかけて流布されたのである。当然背景には複雑な世界情勢もあった。言うまでもなくパレスチナ問題でありイスラエルであり中東情勢だ。

一度社会に蔓延ってしまった差別思想はなかなか払拭できない。反ユダヤ主義のような巨大な偏見はまだまだなくならないとは思うが、ユダヤ人だって同じ人間であり、あなたと何も変わらないのである。


インターネットの開闢期に起きたホロコースト論争。

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前述で途中でやめた話の続きである。1999年位から以降数年、おそらくは2010年より少し前くらいまで、日本のネット上でホロコースト否認論論争はあった、という話。正確には知らんけど、でもまぁインターネット前史となるパソコン通信のニフティやPC-VAN、メーリングリスト(これはインターネットには入るけど)などで活発な議論が行われるようになったのは、事件の起きた1995年2月以降であろう。

おそらくは、そこから十年程度そこそこ盛り上がって続いたとは思われる。と言っても、実は日本のホロコースト論争における否認論者は、色々調べてもあまりいない感じ。代表的には、そのマルコポーロに記事を書いた西岡昌紀氏、とそれ以前かそれ以降か知らんけど、そのムーブメントに乗ったとしか思えない木村愛二氏、ネット上ではれんだいこ氏や、ソフィア先生、くらいなものではなかろうか。入ってない人があったらごめん。それに対して、正史派は結構多い印象。本多勝一氏もそうだし、梶村太一郎氏もそうだし、金子マーティン氏、石田勇治氏、永岑三千輝氏、……えーっと、ネットでは、高橋亨氏、三鷹板吉氏、山崎カヲル氏、山本弘氏、……あんまり知らないのがバレるのでこの辺でやめておこう💦

ともあれ、論壇とも言える著書まで出してるような人って、否認論者は西岡氏と木村氏の二人くらいしかいないようなのである。正史は出す意味がない(だって研究書籍等はいっぱいありますので)ので多分目立った否認論反論書はない。やはり日本は、日本に纏わる話のほうが土着的で人気があるからだとは思うが。そもそも、ホロコーストなんて内容自体がわかんないのだろう。シンドラーのリストとアンネの日記くらいしか知らない、みたいな。ネオナチもおらんし。

しかし高橋亨氏や山崎カヲル氏などは、半端な知識ではなかった。西岡氏や木村氏の一般焼却炉レベルを遥かに凌駕するハイスループット焼却炉レベル(失礼)、ともあれ凄まじい反論だった。あのレベルには到底追いつけないだろう。

多少なりとも知っている人であれば、高橋亨氏の『対抗言論』を知っている人もいるだろうけど、NIZKORプロジェクト同様、当時は否認論派からも忌み嫌われた。NIZKORについては下記Wikipediaにもこうある、

日本では主にインターネットにおいて、ホロコースト否定論者からは不評である。これは、ニツコー・プロジェクトが極端な白人至上主義をとっているとの噂が流布していることが原因

対抗言論については、インターネット上からは消えてしまったがアーカイブで閲覧することは出来る。

アーカイブは、どういう仕組なのかよく知らないが、更新時期に応じてWebサイトデータを収集しているようなので、そのデータ収拾時期の異なるページがアーカイブサイトに存在することは覚えていて欲しい。

NIZKORにしろ対抗言論にしろ、そうした看板を持つと、否認論側はその看板を、まるで酔っ払いが店先の看板を蹴っ飛ばして破壊するかのように「対抗言論? ああ、あそこは全て論破されてる低レベルなサイトですよ」のように平然というから注意していただきたい。歴史修正派のうちで性質の悪い人達はそれがお仕事の一環なので。要は印象操作だ。以下のソフィア先生のページでもニッコーを忌み嫌うセリフは頻発するので、一度ご笑覧いただければよろしいかと。

ソフィア先生は知識レベルはそこそこ高い(それを支えているのは文教大学の加藤一郎氏による海外否認論者の翻訳記事集だと思われる)。南京事件議論でいうとあのグース氏に比類するか。どうやっても辿り着けない資料とかいくつかあるし。辿り着けないのは困る。人のことは言えない部分もあるのは自覚しているけれど、私の場合は根拠になる情報は一応はそのソースを示すようには注意はしてるつもりではある。が、私のことはともかく、ソフィア先生はソースを示すにしても少し問題がある。

例えば、ここに「クレーマー日記 1942年9月1日~1942年9月5日」というその画像が乗っている。確かにその下にはリンクはあるので辿れるが、普通は「写真はThe reproduction of this page was taken from Death Books From Auschwitz: Remnants,Vol. I, Appendix, 1995, p. 185. より引用」などとは書かない。もっともらしく示そうがなんだろうが、ソフィア先生はその「The reproduction of this……」なる原著に当たっているわけがない。引用したのはリンク先であり、ソフィア先生ではない。要はこちらから文字列をただコピペしただけなのである。ネットソースなら一般的にはリンクを示すのみで十分であり、丁寧にするならば引用先のページの名前やタイトルを示す程度でいい。要するに論者はどこのソースを使っているのかを明示すれば良いのであって、その情報ソースの正確さを調べるのは読者なのである。私の知る限りではあるが、否認論者は根拠の明示の仕方が杜撰なことがしばしばある。このソフィア先生の表示の仕方はただもっともらしく見えるようにしたいという印象操作をやっていると判断せざるを得ないのである。マジック世界の用語で言うならばミスディレクションである。

でも、特に高橋亨氏や山崎カヲル氏は、常に根拠ソースリンクを適切に示すようにされており(木村氏などはほとんど大抵示さないか、「プレサックは〜」などと名前を言って済ませることが多い)、こちらも非常に助かる。知らない情報の宝庫になっているくらいである。でも高橋亨氏って誰なんだろう? ググるとそれらしい人が北海道の議員さんで一人いるようなのだけど、違うのかな? ともあれ、ソフィア先生と高橋氏や山崎氏のどちらが誠実か火を見るより明らかであろう。

もしこれから、ネットでホロコースト議論をしたいと思うのであれば、あるいは否認論に疑問を持って調べたい方などは、一度上の対抗言論のページから色々とリンクを辿ってご自身で調べていただきたい。非常に濃密で豊富な情報がたくさんある。なお、海外にはもっと大量の否認論の反論があるので、出来れば海外サイトを当たるべきだとは思うが、私自身は英語がまるで駄目なので苦戦中である。

以上。

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