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「プロダクトは品質さえよければ売れる」と考える人に、他の可能性に気づいてもらう話

「私はプロダクトの品質さえよければ売れると思ってるんです。だからマーケティングとか、そういった予算は絞って、プロダクトの品質にもっと使うべきだと思うんです」

「なるほど…。衝突ですが『激落ちくん』をご存じですか?」

「はいはい、スポンジですよね。うちでも使ってますよ」

『激落ちMEGA』©LEC

お店に並ぶ、激落ちくん

「あれはメラミンスポンジというものなのですが、なぜ他社のメラミンスポンジではなく、激落ちくんを使われているんですか?」

「…というと?」

「メラミンスポンジは100円ショップでも売っていますし、実際に使っていると、激落ちくんとそれほど違いはないように私は感じているんです。もし品質が大きく変わらないなら、激落ちくん以外でもいいはずですよね」

「いや…激落ちくんが売場にあったから、それを手に取ったんですよ」

「なるほど。激落ちくんはパッケージも目立ちますし、手に取りやすいですよね。…でも、この目立っていることって、汚れを落とすというプロダクトの品質と無関係ではないですか?」

「えっ? ああ…いわれてみれば、まあ、たしかに汚れ落としとは関係ないですね。でも、これとどういう話の関係が?」

「この関係のないパッケージがどのような違いをもたらすのか考えてみましょう。たとえば、白いふわふわのメラミンスポンジが売場にぽつんと置かれているのと、激落ちくんが置かれているのとでは、どちらがお客さんとして手に取りやすいでしょうか」

「まあ、激落ちくんですね」

「さらに、売場の担当さんの気持ちにもなってみましょう」

「売場の担当?」

「そうです。来店されるお客様に商品を手に取ってもらえるようにする責任を負っている担当者です。白いふわふわのスポンジが並んでいるだけでは、お客さんは気付かず素通りしてしまうのではないでしょうか。白いスポンジを買ってもらうなら、通り過ぎるお客さん一人一人にスポンジの有用性を説明する必要がでてきませんか?」

「たしかに」

「激落ちくんだとどうでしょう。パッケージは目立ちますし、汚れが落ちる機能が分かります」

「そうですね、分かりやすいです」

「こうはいえませんか? 顧客が自分で見つけて手に取りやすい…つまり、店員の代わりに、プロダクトが自分で接客をしているのです」

「えっ? プロダクトが自分で接客している!?」


プロダクトは自分で接客している

「そうです。お客さんはお店に入って、店員につきっきりで商品説明をされて買っていますか? そうではないですよね。お客さんは自分で見て回って、商品を手に取って、自分で判断して購入しています。だから、コンビニ、ドラッグストアやスーパーでは何千もの取扱商品数に対して、非常に少ない人員で運営できるのです。パッケージとはお客さんのためでもありますが、店員、そして小売店企業のためのものでもあるということです」

「つまり、激落ちくんは、お客さんには汚れが落ちるというアウトカムを提供し、売場の担当には代わりに接客するというアウトカムをもっていたということですか」

「そのとおりです。より精緻にみていくと、スポンジ部分のプロダクトの品質、パッケージ部分のプロダクトの品質を分けて考えることができます」

「プロダクトを分けて考える? ええと、なるほど?」

「スポンジ部分の品質とは汚れを落とす力であり、パッケージ部分の品質とはプロダクトそのものが接客する力といえます」

「たしかに」

「もう少し広い視点で見てみましょう。生産、流通、廃棄というプロダクトの一生考えると、プロダクトとは、消費者といった特定の対象者だけに価値を提供しているのではなく、様々な人に価値をもたらす複合的なものなのです。」

「なるほど。消費者にも価値を提供するけれど、途中に関わる人達、店員にも価値を提供しているんですね」


「プロダクトの品質さえよければ売れる」の再考

「さて、最初に戻ってみましょう。プロダクトの品質さえよければ売れる、という話から始めました気が、今のお考えはいかがでしょう?」

「今までプロダクトそのものの品質さえよければ売れると思いました。私の人生で一番時間を注いでいる仕事ですから。でも、私がお客様に直接販売しているわけではなく、パートナーに販売してもらっています。パートナーからは、ものはいいんだけどお客様に説明が大変なんだよね、といつも愚痴をいわれてました。今までは、内心はお前の仕事だろと思っていたのですが、私にもできることがありそうです」




プロダクトの中身を変えずに売上を大きく変える方法を商品開発といったりします。世の中にある多くのプロダクトで行われている活動は、新製品開発以上に、既存製品の販売促進がされています。商品開発はプロダクトの一生を考えると、プロダクトマネジメントにおいて大きな割合を占めるものになります。

中身以上に、売り方がうまい商品開発の企業としては小林製薬のプロダクトが思い出されるでしょう。熱さまシート、ブレスケアなどなど、分かりやすいです。

小林製薬


書籍の紹介

『プロダクトマネジメント大全 上巻』で、商品開発における様々な基準をモデル化して扱っていますので、こういった『売り方の開発』に興味があればぜひお手に取ってみてください。


『真実の瞬間―SAS(スカンジナビア航空)のサービス戦略はなぜ成功したか』もおすすめです。顧客がプロダクトと出会った15秒で全てが決まる、というものです。

真実の瞬間(しんじつのしゅんかん、Moments of Truth)とは、顧客が企業の価値判断をする瞬間のことである。赤字体質に陥っていたスカンジナビア航空をわずか1年で再建に導いたヤン・カールソン(英語版)により提唱された。

顧客が実際にその企業の提供する製品、サービスに接するあらゆる瞬間が「真実の瞬間」となりえ、そのときに企業姿勢を疑いたくなるような瞬間があればその企業からの購買を取りやめる可能性がある。これは一般の顧客満足度調査には現れないが、顧客の購入の意思決定に直接に関係するものである。

 真実の瞬間での対応に失敗すると、企業のあらゆる努力は吹き飛ばされ、顧客に「二度とこの企業の製品、サービスは購入しない」と心に決めさせてしまう。さらにこのときに顧客が感じた不快な経験は個人に止まらず、速いスピードで人に語られ、広まっていく。

https://ja.wikipedia.org/wiki/真実の瞬間_(経営学)


開発中では、似た概念に宮本茂による「肩越しの視線」という検証方法もあります。

ぜひ、より良いプロダクト開発のために使ってみてください。
より良いプロダクトを生み出していきましょう!

追記
正確にはメランスポンジであるところ、メランスポンジと表記していました。ご指摘いただき、修正しました。今後は間違えないように、メラメラミのメラミンスポンジと覚えようと思います。2022/08/25 19:50


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