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マネージャーの性格の作られ方「危機ドリブンと安心ドリブン」

photo by Dom.

前回、1on1カンファレンスの講演について書きました。「分散アジャイルチームについて考える会」という勉強会で、1on1カンファレンスに参加された方から「危機ドリブンと安心ドリブン」についてもう少し話してみたいというきっかけをいただき、ブログにまとめてもらいました。


本記事では「危機ドリブンと安心ドリブン」とはそもそも何かを含め、より詳細に解説します。

ポイントは「企業のマネジメント層は似たような性格に偏りやすいが、効果的なピープルマネジメントができるとは限らない」という話です。

経営組織論や組織開発などでは個別のリーダーシップについて述べられることが多いですが、組織のマネジメント層の性格がどのように構成されていくのかへの言及はあまりないように思います。マネジメント層の性格とは、マネジメント層がメンバーに危機感を煽ったりするような傾向性です。

3つの質問

Q.あなたがマネージャーやリーダーに任命されたとして、その理由はなんでしょう
 1.職場の危機に黙っていられず、率先して行動し、責任を果たしてきたと思うから
 2.職場のみんなが自分の能力を発揮することに貢献できたと思うから

Q.チームのみんなに期待すること
 1.もっと危機感を感じながら仕事をして欲しい
 2.もっとのびのびと仕事をして欲しい

Q.自分が安堵を覚えるとき
 1.危機を乗り越えたとき
 2.みんなが落ち着いて仕事に対応しているとき


1と2、どちらが多いでしょうか。

1が多い人は危機に奮起する危機ドリブンタイプで、2が多い人は安全性に駆り立てられる安心ドリブンタイプです。

危機ドリブンタイプは危機や不安な状況にモチベーションが高まります。

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危機ドリブンタイプの人の方が、経営陣など周囲から見て活躍が分かりやすいため、上司やリーダーに抜擢される傾向があります。

抜擢されたリーダーは、自分と同じように危機感をもって仕事に臨む人を評価する傾向にあります。こうしたサイクルを得て、マネジメント層は危機に強い人達で構成される傾向があります。

経営者が「現場に危機感を持ってもらう」とよく表現しているのは、不安を煽っているのではなく、人のやる気を鼓舞しようとしているのです。なぜなら彼らは危機的な状況に「自分の出番だ!」と奮起するからです。多くの人が自分と同じく危機によって奮いたつと考えているのです。

ここでの、大きな誤解は危機にモチベートされる人は少数派だということです。

組織の中では危機ドリブンタイプの人がマネジメント役を占める一方で、多くの人は安心ドリブンタイプになります。安心ドリブンタイプは安全な状況にモチベーションが高まるので、安全な状態への道筋を第一に見出そうとします。

ここで不整合が起こります。危機を乗り切る活躍をしてリーダーやマネージャーに抜擢されたとしても、部下の多くはそのスタイルは合わず、能力が発揮されにくくなるのです。

もし危機ドリブンタイプの方が、安心ドリブンタイプの方に1on1を開催すると…

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と見なされてしまうかもしれません。

人によって、前向きに踏み出すためのきっかけは大きく異なります。自分のきっかけポイントを相手に押しつけず、相手にとって馴染むきっかけを大切にしていくことが大切でと私は考えます。

危機ドリブンタイプはトラブルに強い

組織の中でマネジメント層に危機ドリブンタイプに偏る傾向があると話をしました。危機ドリブンタイプが悪いという話ではなく、単に心理的スタイルが少数派なのに、多数派に対しても自分のスタイルを押しつけてしまうという話です。

危機ドリブンタイプの人が活躍するのは異常事態です。なにかトラブルが起こって緊急対処が必要な時は、率先した行動はみんなの助けになります。


「危機」が蔓延すると、本当の危機に対応できなくなる

では緊急事態でないときにも、緊急事態かのように危機を「危機感が足りない!!」煽ってしまうとどうなるでしょう。「危機」というワードが蔓延しているケースがあります。

「今はいいが、ライバル会社が目立ってきている。3年後はどうなるのか分からない!! 危機感が足りない!!今ががんばり時だ」と鼓舞する場合です。

このように年中、いつも危機感を煽って、常に危機であるような雰囲気を作ります。落ち着く時間は悪かのように発信します。

これは私たちの仕事にどのような影響があるでしょう。

このような環境では、もはや緊急事態はあるようでないものです。急いでやることもないのに焦らされるとどうなるでしょう。

みんな焦っているように取り繕うスキルばかりが身につきます。仕事でも忙しくしているように振る舞い、暇な時間なんて一切ないように振る舞うのです。これらは危機感を煽る人にサボっているように見られないために、悪だと見なされないために、一生懸命仕事をしている振りをするようなものです。

でも、その忙しさは責められないようにするために演出されたものです。嘘の危機に人々は歪んだ適応をしていきます。

実に多くのムダが入りこみます。チェックリストを増やしたり、過剰に丁寧にエクセルシートの表を作ったり…。危機を作るための、忙しくするための仕事をするようになるということです。

みんなデスクでしかめっ面をしながら、あたかも忙しく大変なように振る舞います。みんながみんな「私はとんでもない責任を背負っているだ」という雰囲気を醸し出します。

このようにしてムダな仕事、助け合えない雰囲気が作られています。ムダな仕事だらけになり、みんながみんな自分は忙しい演出レースになると、もはや本当の危機的状況になっても気付くことができなくなります。

大切なのは、危機を煽るリーダーや上司は無意識に発信されている場合が多いことです。悪気はなく、心の底からみんなのためをおもって煽っているケースが多いでしょう。単に危機という一つの観点からのみで組織を運営しようとしているのです。


○○ドリブンはいくつも持つことができる

危機ドリブンと安心ドリブンの2つを紹介しましたが、メンバーがより効果的に仕事に関われるように、使い分けることもできます。緊急時には危機的な振る舞いをし、通常時には安心できるような振る舞いをするということです。

私たちが職場と家庭で性格を変えることができるように、職場でも状況に応じて振る舞い方を柔軟に変えられるはずです。

最初は難しいかも知れませんが、社内でいつも落ち着いてマネジメントをしている人がいれば、その人手をまねてみるところから始めるのもよいかもしれません。ロールプレイです。


感情に訴えかけるマネジメントは好き嫌いに左右される

また危機ドリブンでも、さまざまな方法ができます。

危機感を煽って焦らせるのは、感情に訴えかける方法です。感情が伴う割合が大きいマネジメントのデメリットは、好き嫌いが反映されてしまうことです。メンバーにとって好きな人からだったら話は聞くけれど、嫌いな人だったら話半分になってしまいかねません。

危機的状況を感情に訴えずに事実を軸に伝えることもできます。たとえ嫌われていても、行動しなければならない事実を伝えることで、共同で動くことが可能になります。

「ただ今、クライアントから納品物の不良が見つかったとの連絡がありました。幸いなことに、クライアントはすぐに使うものではないので損害を与えるまでにはなっていません。クライアントが使用しはじめるまでに納品しましょう。クライアントは来月一日から使用開始するとのことなので、今月中に良品確認も含めて納品しましょう」


私たちはどのように上司になるか

日本ではマネジメントを専門的に学ぶことは少数です。リーダーシップ研修などありますが、1~2週間ほど学ぶくらいです。リーダーシップや組織マネジメントという非常に高度な知的技術をそんな短時間でマスターできるわけはありません。

ではどのように私たちは上司になるのでしょう。

学ぶ機会がほとんどありませんので、多くのケースで、自分の上司を見て、上司とはどのようなものなのかを学びます。優れた上司に巡り逢えばよいですが、そうでなかったら悲惨です。

マネジメントの学び方は、その環境任せ、運任せのような状況です。

ですから危機ドリブンタイプの人でマネジメント層が偏ってしまうのも、このような上司とは何かを学ぶ選択肢が貧しいからかもしれません。


どのように危機ドリブン上司に、他の可能性を考えてもらうか

では、危機ドリブンタイプの人に安心など他の観点をもってもらうために、現場のメンバーはどのような働きかけができるでしょうか。

危機を煽るスタイルを一方的に否定するようなことは、人間関係的に対立を引き起こしかねません。危機ドリブンタイプの人は、その危機意識によって苦難を乗り越えたきた成功体験があるからです。ですから、危機感のメリットもちゃんと認めましょう。

一方で、危機感だけではうまくいかない状況があることに理解してもらいましょう。本人が安心できるからこそ、なかなかできないことに取り組める状況もあることを理解してもらいましょう。

「上司さんも、分厚いハードカバーを読もうとするときは、騒がしかったり焦ったりする状況ではなく、他の事に気を取られない静かな状況がよいですよね。たとえば二週間、ゆったりとした休暇のなかだったら、今までとり組めなかった難しい本に手をのばそうとしませんか」

危機を煽るスタイルにはメリットがあることを認めた上で、デメリットもある事実の共通認識を取ってみましょう。

「緊急事態には危機感を持って対応することがたしかに大切です。○○会社からのトラブルでは、緊急対応がうまくいったおかげで大事にならなくて済みました。」

「一方で、私たちの職場の雰囲気は常にピリピリしており、入社後離職率は1年で50%を超えています。入社した人の半分が1年で辞めている事態で、離職者アンケートではピリピリとした会社文化になじめなかったという回答が八割を超えていました。」

「採用コストや、入社後に仕事ができるようになるための慣れるまでの人件費の分、大きな負担になってしまっています。緊急事態にもしっかりと対応できるようになりつつも、職場に安心感、愛着を感じられるような関わり方を考えてみたいのですがいかがでしょうか」



組織の性格の作られ方「危機ドリブンと安心ドリブン」というテーマで、以下の話をしてきました。お役に立てば幸いです!
・3つの質問から気付く危機ドリブンと安心ドリブン
・危機ドリブンタイプはトラブルに強い
・危機ドリブンが蔓延すると、危機に対応できなくなる
・○○ドリブンはいくつも持つことができる
・感情に訴えかけるマネジメントは好き嫌いに左右される
・私たちはどのように上司になるか
・どのように危機ドリブンだけの上司に、他の可能性を考えてもらうか

繰り返しますが「企業のマネジメント層は似たような性格に偏りやすいが、効果的なピープルマネジメントができるとは限らない」ということです。より効果的な仕事をするために、ちょっとマネージャーたちの立場上の性格が偏っていないかみてみるのも役立つかなと思います。


私と仕事をすることに興味を持たれた方はこちらをどうぞ。

今回の記事のベースは1on1大全です。こちらから購入できますので、お役立ちになりそうでしたらぜひどうぞ。


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