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THA後の中殿筋筋力低下に対する評価とアプローチ

皆さん、こんにちは!
LOCO LAB.ライターの塚田です。
先月はTKAについて書きましたが、今回はTHAについて書いて行きたいと思います。

●THAで問題となりやすい跛行

皆さんはTHAの患者さんを担当したことありますか?
THAの患者さんで多くみられる跛行として、立脚中期に骨盤が対側に下降するTrendelenburg歩行や、患側に体幹を傾斜させるDuchenne歩行などが挙げられます。

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これらはこのように股関節だけでなく、骨盤や腰椎に対して過剰なアライメント変化がみられます。
Trendelenburg歩行の原因の代表として中殿筋の筋力低下が挙げられますが、皆さんは中殿筋にアプローチをして患者さんの跛行がキレイに軽減した経験はあるでしょうか?

中にはそのような経験もなくはないと思いますが、自分も含めて中殿筋をいくら鍛えても跛行が改善しないことを経験している方がほとんどだと思います。

ではなぜ軽減しないのかということについてこれから説明していこうと思います。


●筋力発揮に重要なアライメント(筋の空間的要素)

皆さんは長さ-張力関係というのはご存知でしょうか?

筋収縮は太いミオシンフィラメントと細いアクチンフィラメントが架橋形成し、ミオシンフィラメントがアクチンフィラメントを引くことにより収縮が生じます。

その為、ミオシンフィラメントとアクチンフィラメントが重ならない(オーバーラップしない)場合、張力は減少します。
またこの滑走量は筋節の長さにより決まりますが、安静時の筋節の長さが短い場合(短縮)も、それ以上アクチンフィラメントを滑走させることは出来ない為、張力が減少します。

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このように筋が伸張しすぎても、短縮しすぎても筋張力は減少してしまうため、アライメントが整った状態で筋発揮を行うことが重要です。

実際骨盤の前傾角度を変化させ、片脚立位姿勢における股関節外転筋の筋張力比率を調べた研究では、骨盤前傾10°に比べ前傾20°では、股関節外転筋の代表である中殿筋より大殿筋の方がより張力を発揮する状態になります。

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THA症例では変形性股関節症から適応になる症例が多く、変形性股関節症では臼蓋の被覆率を高めるために骨盤を過剰に前傾している症例を多く経験します。

そのような運動パターンは術後も生じており、上記のように中殿筋が上手く発揮できず大殿筋など他の筋群の過剰な張力発揮が見受けられるなど、筋張力のバランス不良により、筋力低下や跛行などがみられます。

そのため、腰椎や骨盤を含めたアライメントの修正が重要となります。


●深層筋と表層筋の筋バランス

股関節には関節に近い深層筋と皮膚に近い表層筋が存在します。一般的に表層筋は関節から離れている為にモーメントが得られやすく、力を発揮するのに優れています。
一方で深層筋は関節に近く、深層筋である小殿筋や内・外閉鎖筋は大腿骨頸部と平行に走行する為、骨頭を求心位に保ちやすく股関節の安定性向上に優れた機能を持ちます。また深層筋は関節包と連結を持ち、関節運動における関節包の挟み込みを防止するとともに、適度な緊張を保つことにより股関節が安定します。

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また深層筋は表層筋に比べて筋紡錘の密度が高く、股関節では表層筋に対し、深層筋は約3.31倍の筋紡錘が存在すると言われています。その為、関節運動に対して敏感に中枢神経へのフィードバックを行い、常に関節運動を制御しています。

THAでは術式の介入方法により切離される筋や関節包の部位は異なりますが、共通して関節包は切離されます。先述したように小殿筋や内閉鎖筋、外閉鎖筋は関節包と連結する為、アライメントの変化や侵襲による炎症などの影響を受けやすいため、この感覚情報に誤差が生まれ、関節の不安定性を生じます。

この深層筋の機能不全による関節の不安定性は表層筋の筋スパズムや過緊張を生じ結果アライメントの変化や筋力低下などを生じ跛行につながります。

その為、深層筋の筋機能を高め正しい感覚入力を促通することにより、股関節の安定性を向上することが重要となります。


●動的な筋力発揮に必要な反応時間(時間的要素)

私たちが普段何気なく行っている動作は、必ず何かしらの刺激が入り、それに反応して筋張力が発揮されることにより、動作を遂行することが出来ています。

すなわちある刺激が感覚情報として中枢に作用し、その刺激に対して対応するために、運動神経を介して司令が伝達させ、筋活動が生じ関節運動が起こります。

この刺激を受け、中枢神経を介し、運動神経発火により筋活動が起こる時間を前運動時間と呼び、筋活動が生じてから実際に関節運動が生じるまでの時間を運動時間と呼びます。
前運動時間は中枢神経的要素が大きな影響を与え、運動時間に関しては筋の状態など効果器的(末梢的)な要素が影響を与えています。

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実際、健常者と変形性股関節症患者の歩行時における中殿筋の筋活動を調べて報告では、健常者の場合、立脚初期(0〜20%)で中殿筋の筋活動がピークを迎えるのに対して、変形性股関節症の方は立脚中期に近い位置(20〜40%)でピークを迎えており健常者よりも中殿筋の筋発揮のタイミングが遅いことがわかります。

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これらが生じる要因として、先述したように筋の短縮やアライメント変化により筋発揮が生じづらい状況にあることや、深層筋の機能不全などにより正しい感覚入力が行われていないことが考えられます。


以上これらのことをまとめると
中殿筋の筋発揮を改善し、Trendelenburg歩行やDuchenne歩行を改善させる為には

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この3つのポイントを抑えて治療することが大切だと考えています。
以下の章からこの3つのポイントについて評価と治療を述べていきたいと思います。


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