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肩甲骨の動きを引き出す!胸郭アライメント偏位に対するアプローチ

皆さん、こんにちは!^ ^
LOCO LAB.ライターの塚田です!

突然ですが皆さんは、胸郭に対してどのような印象を持たれますか?

胸郭というと心臓や肺、内臓の一部を肋骨と胸骨・胸椎により覆いそれらを保護しているもの、または呼吸運動を生じさせるもの等のイメージが大きいと思います。

ただ一見、一塊にみえる胸郭ですが、小さな関節達がそれぞれわずかに運動を生じさせることにより、身体重心位置を変化させたり、筋発揮をしやすくしたりと運動器としての要素も持っています。以前投稿された石橋さんの記事でもそのあたりについてまとめられていたと思います。

このように肩関節は肩甲骨・上腕骨・脊柱の協調運動として成り立っている為、その中間に位置し、肩甲骨の土台となる胸郭の機能は非常に重要になります。

今回はこの胸郭の特に回旋偏位による影響がどのように肩関節に影響を与えるのかについて述べていきたいと思います。


●胸郭の解剖と機能

胸郭は12個の胸椎と左右対になり存在する肋骨、そしてその肋骨を前方正中にて連結している胸骨により構成されます。

この胸郭は解剖学的な特徴から上位(Th1−6)と下位(Th7-10)に分けることが出来ます。

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上位の胸郭の特徴としては、肋骨が前面で胸骨と関節を形成していることが挙げられます。また胸椎の横突起と肋骨結節が成す肋横突関節では、横突起が凹状の関節面を呈し、肋骨結節が凸の形状をしている為、関節の形状としては非常に安定しています。

これらの特徴から上位の肋骨は可動性に乏しく、また胸椎との連結も強い為、胸椎運動に肋骨の可動性が大きく影響します。

一方で下位胸郭では肋骨が前面で胸骨と関節を形成せず、肋軟骨に付着しています。また肋横突関節では、横突起は平面であるのに対し、肋骨結節は凸状の形状である為、関節としては十分に安定する形状ではありません。その為、上位の肋骨と比べると可動性に優れている特徴を持ちます。ただそれが故に筋や靭帯などの軟部組織の影響を受けやすいという点もあります。

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●胸椎と肋骨の運動学

胸椎の椎間関節は、水平面に対して60°傾き、前額面に対して20°傾いています。このように非常に前額面に近い角度で上下の胸椎が連結している為、屈曲-伸展運動は乏しいですが、回旋運動に有利な構造となっています。

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回旋時の椎間関節の動きとしては、上位の椎体が下位の椎体に対して、回旋側の椎間関節が下方に滑り、対側の椎間関節は上方に滑ります。これにより胸椎の回旋運動が生じますが、同時に回旋側とは対側への並進が生じます。そしてこの胸椎の動きは肋骨にも連動します。

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肋骨と胸椎が成す関節は椎体と肋骨頭で構成される肋椎関節横突起と肋骨結節で構成される肋横突関節の二つです。

胸椎の回旋に伴い、回旋側の肋横突関節では、肋骨が横突起に対して下方に滑るため、後方回旋が生じます。一方で、対側の肋骨では横突起に対して上方に滑るため、前方回旋が生じます。

また、肋椎関節は第3〜第10肋骨において一つの椎体と関節を成すのではなく、上下の椎体2つの肋骨窩と関節を構成します。その為、上位の椎体が回旋し、対側に並進した際に上位の肋骨窩に押される形で回旋とは対側の肋骨が並進します。

これらをまとめると以下のような動きになります。

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ただし、これらの動きは上位胸郭(Th1-6)に関して多く報告されていて、下位胸郭に関しては胸椎の回旋と肋骨の運動連鎖が逆に生じる(胸椎回旋側の肋骨が前方回旋)と述べている報告もあり、散見しています。

しかし肩甲骨はTh2〜7の領域に存在し、第2〜6もしくは7肋骨間上に存在する為、今回は上記の胸椎と肋骨の運動連鎖をもとに話を進めていきます。

これらの動きの連動性により胸郭は形状を変化させ、一つ一つがわずかな動きでも複合的に連動することで重心位置の変化や四肢運動の基盤として機能することが出来ます。


●胸郭アライメントと肩関節

肩関節は構造的に不安定な関節である為、肩甲骨が上腕骨の動きに追従し、安定化を図ることが重要です。この上腕骨に対する肩甲骨の追従運動において胸郭は形状を変化させることにより、肩甲骨が様々な方向へと円滑で安定して動くことが可能となります。

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また、肩甲骨の安定性を図る筋群として前鋸筋や菱形筋、僧帽筋下部線維などが挙げられますが、これらは全て胸椎や肋骨から起始します。その為、上記で述べたように胸郭は肩甲骨の運動に伴い、柔軟に形状を変化させつつも、支点となるように剛性を高めなければなりません。

この剛性を高める為には、肋骨を後方回旋させると非常に有効と言われています。理由としては肋骨の後方回旋により、肋椎関節周囲の靭帯の張力が高まること、そして肋横突関節の適合性が高まることが挙げれらます。

一見この剛性が高まる肋骨の後方回旋が、良いと思われるかもしれませんが、後方回旋が定着し、偏位した状態では胸郭の柔軟性が低下します。この状態では、肩甲骨の多方向な運動に形状を変化させることが出来ず、肩甲骨の可動範囲も狭まるため、肩甲上腕関節などに過剰な負荷が生じます。

例として高所へのリーチの際は、肩甲骨の上方回旋と後傾が必要な為、肋骨は後方回旋しますが、結帯動作では肩甲骨は外転・挙上・前傾する為、前方回旋が必要となります。この状態で、もし肋骨が後方回旋位に偏位し、前方回旋が制限されているなら、結帯動作において肩甲骨の運動は生じづらく肩甲上腕関節に過剰なストレスを生じさせます。

このように、胸郭における肋骨運動は後方回旋及び前方回旋のどちらにも可動できるよう、neutralな状態を獲得することが必要となります。

●胸郭アライメントの不均衡

臨床上、上位胸郭において多くみられることは、ある一側の上位胸郭が全体として回旋偏位を生じているというよりも、ある一椎体レベルの高さの肋骨が強く回旋偏位を生じているパターンが非常に多いです。

例えば、下記のように第4胸椎が他の椎体と比べて強く右回旋が生じているようなパターンです。

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この場合、第4胸椎との連結をもつ第5肋骨では、右側は後方回旋が生じ、左側では前方回旋が生じます。また左第5肋骨では第4胸椎の肋骨窩に押され、側方に並進します。

この一部肋骨の配列の「ずれ」により、隣接する胸椎や肋骨にも偏位が生じ、結果として回旋や側屈などの複合的な胸郭の運動が制限されます。この胸郭の運動制限は前述したように、肩甲骨運動において胸郭が柔軟に形状を変化させることを制限する為、肩関節の機能障害へと繋がっていきます。

以上のことから肩関節疾患に対する胸郭からの介入のポイントは、この肋骨の配列の「ずれ」を軽減し、胸郭のアライメントをneutral化することにより、どの方向にも胸郭の形状を変化しやすい状態にすることが重要となります。

それでは次の章からその評価と治療ポイントについて述べていきます。

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