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【新作映画レビュー】『ウエスト・サイド・ストーリー』 あの名作ミュージカルをスピルバーグが新たに映画化!

©2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

「トゥナイト」などの名曲がたくさん詰まったブロードウェイ・ミュージカルを、世界でもトップクラスのヒットメイカー、スティーヴン・スピルバーグ監督が映画化した『ウエスト・サイド・ストーリー』(2月11日公開)。映画版としては1961年以来2度目となる本作では、原典の良さを活かしつつ現代的な要素も取り入れた作品となった。そのあらすじと見どころをご紹介しよう!

これまでの『ウエスト・サイド・ストーリー』

本作の原作となる舞台『ウエスト・サイド物語』は、1957年に初演された。ウィリアム・シェイクスピアの代表作『ロミオとジュリエット』を下敷きに、『旅情』(1955)の原作戯曲や『追憶』(1973)の脚本を手がけた劇作家アーサー・ローレンツが脚本を執筆。作詞は『スウィーニー・トッド』や『イントゥ・ザ・ウッズ』のスティーヴン・ソンドハイム、作曲は指揮者としても有名なレナード・バーンスタイン。演出と振り付けは『王様と私』など数々の舞台ミュージカルを手がけてきたジェローム・ロビンズが担当。出演者のほとんどが無名の新人だったにもかかわらず作品の素晴しさで大ヒット、ブロードウェイから全米、そしてヨーロッパ各地で公演が行なわれた。

そんな大成功を受けて映画化が行なわれた。監督は人間ドラマ、アクション、社会派、SF、ホラーなど幅広いジャンルの作品を手がけてきたロバート・ワイズ。ロビンズが共同監督として登板し、舞台の雰囲気を見事にスクリーンに移植することに成功した。大ヒットしただけでなく、アカデミー賞で作品賞や監督賞をはじめ全部で10部門を獲得する快挙を成し遂げた。その中には、当時無名だったがこの映画で大ブレイクしたジョージ・チャキリスと、今回のバージョンにも出演しているリタ・モレノの、それぞれ助演男優賞と女優賞も含まれている。余談だが、この版でのジェッツの2トップ、トニー役のリチャード・ベイマーとリフ役のラス・タンブリンは、後にテレビ『ツイン・ピークス』にそれぞれベン・ホーンとジャコビー医師の役で出演している。

この映画の世界的ヒットがきっかけで、舞台版の公演も各国で行なわれるようになった。日本でも劇団四季や宝塚歌劇団もたびたび公演を行なった。

そして、前回の映画版の公開から60年となる2021年にアメリカで、舞台の初演から65年となる今年2022に日本で公開されるのが、今回の映画版だ。

『ウエスト・サイド・ストーリー』あらすじ(ネタバレなし)

©2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

1950年代後半のニューヨーク。マンハッタンのウエスト・サイドには、世界中からの移民が集まって生活していたが、夢を抱いてやってきた彼らを待ち受けていたのは人種差別と貧困という厳しい現実だった。

そんな状況に特に不満を抱えていたのが若者たちだった。とりわけ、ポーランド系の「ジェッツ」とプエルトリコ系の「シャークス」という二つの不良少年グループは激しく対立していた。市警のシュランク警部補(コリー・ストール)らはその抗争に手を焼いていた。ついにこの日、ジェットのリーダー・リフ(マイク・ファイスト)はシャークスのリーダー・ベルナルド(デヴィッド・アルヴァレス)に、決着をつけるための決闘を申し込む。両者は、その夜に彼らの“親睦”のために開催されるダンスパーティで決闘についての話し合いをすることになる。

リフは、ジェッツの元リーダーで彼の旧友でもあるトニー(アンセル・エルゴート)に助力を求め、パーティに顔を出すように頼むが、トニーは断る。傷害の罪で服役し、刑期を終えて出所したトニーは、今はジェッツと距離を置き、若者たちの母親のような存在であるヴァレンティーナ(リタ・モレノ)が営むドラッグストアで真面目に働いていたのだ。

一方、ベルナルドの妹マリア(レイチェル・ゼグラー)も、兄からパーティに出るように命じられていた。ベルナルドは、仲間のチノ(ジョシュ・アンドレス)をマリアの恋人にさせようとしていたが、マリアは兄のそんな支配的なやり方に反発する。ベルナルドの恋人アニタ(アリアナ・デボーズ)は二人の間に立って、何とかマリアをパーティに連れ出す。

パーティには警官も立ち会い、ジェッツとシャークスの争いに神経を尖らせていた。案の定、両者は互いに挑発し合い、緊張感を漂わせながらのダンスが続いていた。そんな中、気が変わってトニーがやってきて、マリアと出会う。その瞬間、二人はたちまち恋に落ちる。だが、それに気づいたベルナルドは二人を引き離すようにマリアを家に帰す。

ジェッツとシャークスの面々が改めて決闘の時間と場所を決めていた頃、トニーはマリアが住むアパートを見つけ出し、非常階段をよじ登ってマリアの元に現れる。二人は互いの気持ちを確かめ合い、翌日の昼間に会う約束をする。

しかし、マリアは二つのグループが決闘することを知ると、止めに行くようにトニーに懇願する。そしてその後、二人はすべてを捨てて旅立とうとしていた。

決闘の準備を進める二つのグループ、その情報を入手して一斉に逮捕しようと厳戒態勢を敷くシュランク。決闘の後のベルナルドとのデートを心待ちにしているアニータ、そして再会を待ちわびるマリアとトニー…。それぞれの思いや思惑が交錯する中、運命の瞬間は刻々と近づいていく…。

原作と1961年版の両方に敬意を表したスピルバーグ・バージョン

スピルバーグにとってミュージカル映画は初挑戦だが、さすがは巨匠、基本的には往年のミュージカル映画の王道のスタイルに則りつつ、彼独自のアプローチも行なっている。61年版の映画のリメイクと言うより、原作舞台にさかのぼってそこから彼流に改めて映画化したという感じだ。61年版は冒頭部分だけがロケーションで後は撮影所のスタジオの中に作られた巨大なセットで撮影されたが、今回はロケやオープンセットなど自然光の下で撮影された開放的な画面の部分が非常に多く、そこでクレーンなどを多用した立体的な構図やカメラワーク、大人数での歌や踊りによるスケール感のある画作り、アクション映画風テイストの部分など、61年版には見られなかった作りの部分が多い。恐らく、61年版はとりあえず置いておいて、オリジナルの舞台を映画化するには自分ならこうする、というスピルバーグ流のやり方だったのだろう。原作でも物語の重要な部分を占めていた人種や貧困といったアメリカが抱えている問題は現在でも通用するものだが、今回はその部分がより強調されているのも特徴だ。

もちろんスピルバーグは、61年版や往年のミュージカル映画を否定しているわけではない。むしろ、強過ぎるぐらいのリスペクトが全編に漂っている。「ダンスシーンでは踊り手の全身を映す」などミュージカル映画の約束事をきちんと押さえたり、人物を捉えた構図もどこかクラシカルな雰囲気が漂っている。

そんな敬意の最大のものが、61年版でオスカーを獲得したモレノの出演だろう。今回、彼女が扮したヴァレンティーナは原作にも61年版にも登場しない今回のオリジナル・キャラだが、原作に登場するドックの妻で、夫に先立たれたという設定で、まさにドックに当たる存在というわけだ。しかも、ドックは白人だったが彼女はプエルトリコ系。言わばジェッツとシャークスを結ぶ存在であると同時に、トニーとマリアの“先輩”でもあるわけだ。この設定は巧みであると同時に、作品のテーマを際立たせる、なかなか深いものになっている。ヴァレンティーナとアニータが対峙する場面はまさに新旧アニータの共演という感動的なものだ。しかも、今回のアニータ役のデボーズも、ゴールデングローブで助演女優賞を獲得している。


しかし何より、おなじみの名曲が流れてくるたびに胸が躍るのは本作でも同じ。そんな原作の魅力をきちんと活かしていることこそ最大のリスペクト。永遠の名作に新たな生命とさらなる魅力を吹き込んだ傑作だ。

<『ウエスト・サイド・ストーリー』公式サイト>

<『ウエスト・サイド・ストーリー』予告編>


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