私はいい子ですか?

※GN放送局の番組、『noraりゆらり』内で放送された朗読の文章です。


 見下ろしたデコボコ道に歩く人がいっぱい見える。誰から助けよう。どんな人から、こんにちはって話しかけようかな。
 私が選んでいると、歩いていない子供が見えた。大きなかごを大事にそうに、足を痛そうに動けない男の子が。
 この子にしよう。降りてみよう。この子を助けて、私は今日もいい子になるんだ。
「こーんーにーちーはー!」
 大声出して、びくってした。怖がらせちゃったかな。これはいけない。
「ごめんね。びっくりした?」
 その子は黙って立ち上がろうとして、ふらついた。
「あ! 危ない! 大丈夫? 足、痛い?」
「いい」
「そんなにふらふらだと危ないよ」
「余計なお世話だ」
まぁ。なんて素直じゃない。
「そんな態度だとキャンディもらえないよ?」
「はぁ?」
あ、いけない。それはこっちのお話だった。男の子がはてなを浮かべてる。
「そんなの、どんな態度したってもらえないよ」
「そうなの?」
男の子が黙ってまた大きなかごを背負って歩こうとし出した。それで、またふらつく。
「ああもうっ! いてもたってもいられない!」
私はかごを背負った男の子を抱えて……お、重い……持ち上がらない……から、よいしょっと。
「なにしてんの……そんな植物のツタみたいなの……僕にまでまかないでよ」
 いいから! これでよし。
 私は、今度こそかごを背負った男の子を抱えて、ふわりと空へ。
「え……と、とんだ……!? 空を!?」
「また驚いた? すごいでしょ。私、空を飛んだり、どんな重いものでもこのヒマワリちゃんで持ち上げたり不思議なことができるんだよ?」
 ヒマワリの傘は、くるくるとその花を回して宙に浮き上がる。
「なんでそんなことできるの」
「そーゆー人なんです。その代わりね、この不思議な力を使って、いいことをたっくさんして、いい子にならないといけないの!」
「いい子……」
「そ!」
「いい子になって、どうするの?」
「どうする……うーん、わかんない。でもいいじゃない! いい子!」
「得しないよ……苦しいだけさ」
「どうして?」
 私のどうしてには、答えないまま、男の子が行こうとしていた市場に着いた。
「今ほどくね。えーっと、んぐぐぐぐぐ……固った……んぎーっ! んがーっ! あ痛っ!? 後ろにこけて頭打った!」
 どうにかほどいたら、私が重いかごを持って、一緒に中のもの買ってくれるっていうおじさんの所へ行った。いや、買うとかわかんないけど。とりあえずあの子のお願いは叶ったね。と、思いきやおじさんは私を呼んできた。「はいはーい」と近寄った私に紙束3枚くれた。
「これなぁに?」
「果物と野菜のお金。今日は運んでくれたから、それはお姉さんにだってさ」
 お金? よく分からないまま私たちは男の子のおうちに、また空を飛んでいくことにした。あとで何かあのおじさんにお礼しよっと。そしたらもっといい子になれる! もっといっぱいキャンディもらえる!
 そんなこと言ってる間に男の子の家に着いた。男の子は相変わらずふらふら。大丈夫かな? と思ってたらおうちから男の人と女の人が出てきた。ふらふらしてる男の子を二人して抱きしめた。よく分かんないけど、いい子目指しると、たまに見られるこういう光景が、たまらなくうれしいな。
 けれど、怖そうな男の人たちがその後出てきた。それで、男の子がぶたれた。なんでそんなひどいことするの!? 私は向かっていった。今日はお金が少ない? それでぶったの!?
「じゃあ私がもらったお金ってヤツあげるからそれでいいでしょ!?」
 そういうと怖い人たちは怒るのをやめてくれた。ふぅ。よかった。そう思って帰ろうとしたとき、怖い人のひとりに手を捕まれた。なんか、俺の女にならないかって、いやな口の曲がり方をして、怖くなって手を払っちゃった。あの男の子も、私と会ったときはこんな感じだったのかな。
 それにしても、今日はってことは、毎日こんなことをしているんだ……なんだか素直じゃなかったけど、実はいい子だったんだ……そんなことも知らないで、私……。
 お仕事の集まり場に戻って報告、たくさんキャンディをくれた。いつもよりたくさん。だけど、なんか喜べなかった。大事なキャンディ、本当に私には、私たちには大事なものなのに……。
 その夜、私は男の子のおうちにこっそり入った。いけない子だね、私。でも許してね。その代わり、大事なものをあげるから。私は、男の子が寝ている横に、いくつかのキャンディをこっそりと置いた。
「君はすっごくいい子だったんだね。なのに誰も君にキャンディをくれない。だから私がキャンディをあげる。でも、あんまりあげられなくてごめんね。キャンディって、私たちが生きていくのに必要で、どれだけあってもどんどん減るから。でも、やなことがあったらいつでも食べて。きっと幸せな気持ちになれるから」
 私はおうちをこっそり出て行った。早く悪いことをやめて帰らないと。そう思ってヒマワリちゃんで空を飛んだときにふと思う。いい子って何だろう。あの男の子はいい子なのに、なんでぶたれなきゃいけなかったんだろう。そう考えたとき、こうも思った。私は、いい子になれるのかな。あの男の子があんなに頑張っているのに、私はどうなんだろうって。私は本当にいい子なんですかって。

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