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なぜ、アメリカ式教育は「緩い」のに、アメリカという国はイノベーティブなのか(2)

前回記事の続きです。

アメリカの名門ボーディングスクールに通うYさん(17歳)と、その父親であり「海外進学生の親ブログ」のゆたかさんへのインタビュー。

Yさんに、「学校の先生」について質問をしたところから再スタートです。


🏫「質の高い教師」の第一条件


前回記事で、充実したスクールライフの一端をみせてくれたYさん。
その学校生活を大きく支える名門ボーディングスクール先生は、Yさんからみてどんな印象なのでしょうか。


「やはり私立なので、熱心で質の高い先生が多いと思います。
ボーディングスクールは先生も生徒も学校の敷地内に住んでいるので、生活の場から一緒で、先生が夕食に招いてくれたり、夕食後に一緒にカードゲームをしたり、わからないことがあれば夜に教えてくれたりもします。Friendliness(親しみやすさ)があって、オープンで対等な友達みたいな関係。これは日本の学校の先生の関係と大きく違うところだと思うし、アメリカでも通いの学校では得られない環境なので、ボーディングスクールならではのよさだと思います」

筆者の知るところでは「ボーディングスクール」と名の付く学校が全てがこうではなく、やはりこれは「しっかりしたボーディングスクール」だからこその環境だということは、付け加えておきたい点です。

ここで、学生であるYさんの口から出た「質の高い先生」という言葉が気になります。
学生目線から見て「質の高い」先生とはどんな先生のことを言うのでしょうか。ちょっと答えづらい問いかな、と思いながらも聞いてみると、Yさんからは

「教えることを先生自身が楽しんでいる先生が、質の高い先生です。先生が楽しんでいることがこちらに伝わってくる、生徒の伸びしろを信じて生徒の成長を願っている先生。『サポートしたい』という気持ちの強い先生です」

という即答が返ってきました。

「教え方が上手」とか「話が上手い」というような「受け手(生徒)」の視点ではなく、「先生自身のマインドセット」が大切なのだ、と迷いなく話すYさんの言葉はとても力強く、その真実味を裏付けます。

一方、生徒の質はどうなのでしょう。

「生徒も『一生懸命やりたい人』が多いです。やっぱり試験を経て入学してくるので、(学力レベルをそろえているというよりも)そういう資質やポテンシャルの質はそろえていると思う」

とYさんは語ります。

🏫アメリカボーディングスクール入試は「人柄で勝負できる」


一般的に、北米の私立校の入試の出願はオンラインで行われます。

指定の書式のアプリケーションフォーム(願書)の他、「SSAT」という標準化テスト(※1)のスコア、エッセイ(タイトルは学校から指定される)、過去2~3年間分の成績、1~2名の先生からの推薦状、面接(家族面接・本人面接)などによって選抜されます。学校によっては学校独自の算数と英語のテストがあったり、知能テストのような適性検査や、就職面接のように何度にもわたる面接が行われることもあります。

Yさんの通うのは北米の私立校の中でも歴史と伝統と定評のあるボーディングスクール。英語力はもちろんのこと、学力面でも入学試験はさぞや難しかったのでは?
その質問に、Yさんはこう答えます。

「入学に際しては決して学力だけが見られているわけではないです。『ザ・テン・スクールズ』(※2)あたりだと高い学力も求められるかもしれないけど。テストの点数が多少足りなくても十分、いいボーディングスクールには入学できます」

「アメリカの高校には偏差値がない」とはいいますが、学力でなければ何が重視されるのでしょうか。
その質問に、Yさんはこう答えます。

「学力よりも見られているのは『リーダーシップ』、そして『前向きさ』です。アメリカのボーディングスクールでは、入学前時点での学力よりも『伸びしろ』に注目してもらえます。人柄で十分勝負できるんです」

そして、「自分も実は『SSAT』の点数は正直高くなかった」と明かすYさん。その後、だから僕は人柄がいいんです、って言っているわけじゃないですけどw、と冗談めかして言いますが、Yさんの人柄のよさは十分すぎるほどこちらに伝わってきているのは言うまでもありません。

Yさんは、学校には「みんなで成功しよう、一緒にゴールしよう」という、お互いを高め合うムードがある、ということを言葉をかえながら繰り返し話してくれます。

🏫子どもにとっての「学校への所属意識」


ここで思い起こされたのが、今回の連載記事「なぜ、アメリカ式教育は「緩い」のに、アメリカという国はイノベーティブなのか」の疑問の発端になった野本響子さんとの話です。

野本さんは現在、オンライン大学院で教育学を学んでおられ、そこでの学びの一つに「学習者にとって『所属意識』、そこに所属したい・所属しているという意識は、学習モチベーションと効果に大きく関わる」ということがあるそうです。

Yさんの言う「みんなで成功しよう」という意識こそ、まさにそれだ、と感じさせられましたし、私自身の子育て経験からもそれは非常に納得がいきます。

(私の子ども2人はわりとあっさり英語ができるようになったのですが、確かに当時通っていた学校が好きで、自分はその学校の生徒である、という意識をベースに持っていました)

この点には、Yさんの父親であるゆたかさんも大いに納得する、とのこと。

「三男の学校のSchool Pride、コミュニティの絆はとても強いということを随所で感じます。この所属意識の強さが『自分もこのコミュニティに貢献したい』『自分もここに名を残したい』という思いや『恩返しをしたい』という感謝につながると、ポジティブな循環に入って、さらに環境がよくなっていくのでしょう」

と語ります。

「名門校」や「いい学校」には、その好循環をつくる土壌がすでに確立されています。
ですが、所属意識は、自分に合うひとりの友達、自分を大切にしてくれるひとりの先生との出会いがあるかないかだけでも、意外に変わったりします。

また、当然ながら所属意識をもつ主体は「その生徒本人」なので、その生徒が心を開いていなければどんな場所にも所属意識を持つことはできないでしょう。

もし、今いる場所に満足できていなくて、でもここに居続けることは決まっている、というのであれば、「ウチの学校は『名門』じゃないから」と考えるのではなく、自分から何かを探すことをまず考えてもいいのかな、と思います。
そこに、「感謝できる何か」は本当にないですか?と。

まだまだ、Yさんとゆたかさんとの話は続きます。

次回をお楽しみに。


🏫今回のまとめ


☑アメリカの名門ボーディングスクールは先生と生徒の距離が近い

☑「質の高い先生」とは「教えることに情熱のある先生」

SSATの点数が多少低くても、名門ボーディングに合格は可能

☑入試では偏差値の代わりに人柄ポテンシャル重視。重要なのは「リーダーシップ」「前向きさ」

「所属意識」が学習モチベーションと効果に大きな影響を及ぼす


📖参考:我が子の「リーダーシップ」を育てるヒントになる書籍3冊


「全米最優秀女子高生」を育てた日本人ママ、ボーク重子さん。
娘さんは総額数千万円に及ぶ奨学金を手にされたとか。表紙に「0~10歳の」と書いてありますが12歳前後までの子どもがいる人ならおすすめ(画像クリックで無料試し読み)


中学受験からオルタナティブ教育、21世紀型教育まで、いつも納得感の強い示唆をするおおたとしまささん。本の表紙に列挙された気になるキーワードは、教育を考える親なら知っておきたい言葉ばかり(画像クリックで無料試し読み・KindleUnlimitedで全編無料


自律と自主性と意欲の人、芦田愛菜ちゃん。「何をやっても一流になる子」が学びを得ている「秘密の100冊」を紹介(画像クリックで無料試し読み)


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なぜアメリカは、教育は「緩い」のにイノベーティブなのか|Yuriko | 教育移住ライター|バイリンガル海外子育て4年目☕|note


※1:SSATとは、北米の私立校に入学する際に求められることの多い共通テスト。算数と英語の2教科で、算数はアジア人にとってはさほど難しくないですが、英語はネイティブでも対策が必要なほどの難しさ。しかも、正答は加点、誤答は減点となるので(初級以外)、あてずっぽうをして外すと空欄にしておくより点数が低くなるという手ごわいヤツです。

※2:アメリカには「ザ・テン・スクールズ」と呼ばれる有名な10校の超難関トップボーディングスクール群があります(大学でいうところのアイビーリーグのような感じ)


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